脳科学者 茂木健一郎氏|特別インタビュー 1

脳科学者として、専門分野の研究に留まらず、執筆や講演など幅広く活躍している茂木健一郎氏。昨年12月にKamerycah Inc. & QOLA共催『脳活用セミナー』のために来米した茂木氏に、最新の脳科学研究などについて話を聞いた。

信じるものは救われる?“自由意思”は存在するか

信じるものは救われる?“自由意思”は存在するか
Photo by Gene Shibuya

 ロサンゼルスには、年に1、2回は来ています。ロングビーチで開催されているTED Conference(注1)には毎年参加していますし、学会で来た時にも時間があれば、レンタカーでハリウッドスターの邸宅を回ったり、サンタモニカの高級ホテルShutters on the Beachで朝ご飯を食べてます。ただし泊まるのは近場の安いホテルですけど(笑)。最近は、せっかくこちらに来てもなかなか時間が取れなくて、今回も、今朝ロサンゼルスに着いたばかりなのに明朝には日本に帰る超ハードスケジュールです。

 僕は現在、脳科学や認知科学の研究だけでなく、大学の講師を始め、テレビ番組出演、著書出版、講演など幅広く活動しています。でも基本はあくまでもサイエンス。これを拠点に色んなことをやっているという感じです。

 なかでも「意識の起源」は、僕のライフワークです。今研究しているのは〝自由意志〟について。誰と結婚するか、どんな仕事に就くかなどを自由に選べると感じているのは、実は幻想に過ぎない、というのが現在の脳科学の立場なんですが、この幻想の内容を研究していくと、とても興味深いことが判りました。

 例えば、アナタがもしこんな質問をされたら何と答えますか?YESかNOで答えてください。

「宇宙人はUFOに乗って地球に来ていると思いますか?」
「星占いを信じていますか?」
「生まれ変わりはあると思いますか?」
「超能力はあると思いますか?」
「日常生活の中で、どれだけ自由に選択できていると思いますか?」
「人間には“自由意思”があると思いますか?」

 “YES”という答えが多かった方。いわゆるUFOや星占いなどの「パラノーマル(超常的現象)」を信じてる人は、自分が人生において色んなことを自由に選べると信じている人だというデータがあるんです。僕はどちらかといえば信じていません。物理学者の立場では、人間が自由に意思決定できるかどうかわからないと思っていますから。ただパラノーマルを信じている人は、結果として社会で成功することが多いんです。要するに、俺の人生なんてどうなるかわかんない、と投げやりになる人より、私が決める!と思っている人の方が何事にも前向きで、上手くいくことが多いんですね。

バイリンガルは認知症になりにくい⁉

バイリンガルは認知症になりにくい⁉

Q.今のあなたを作ったルーツは?

子供の時の昆虫採集。「熱中する」「我慢する」。どちらもサイエンティストには不可欠ですから(笑)。

Photo by Gene Shibuya

 脳科学的にみると、海外で暮らす方には興味深いことがたくさんあります。「バイリンガルは認知症になりにくい」というデータがあるのですが、それだけ脳の回路が頻繁に使われているということです。また脳の「尾状核」と呼ばれる回路は、日本語と英語を話す時にスイッチイングをしているという研究があります。つまりバイリンガルは、脳を色んなモードで使い分けていることになるんです。

 そもそもバイリンガルとは、言葉だけじゃなくて文化も含んでいるので、通常の2倍は脳を使っているということですね。これはいつ英語を始めたかということではなく、その人の英語の能力がどれくらいあるのかが重要な要素になります。臨界期仮説(ある年齢を過ぎると言語の習得ができないという仮説)もありますが、その一方で、人によっては大人になって英語を学んでも「読む・書く・話す」をかなりのレベルで修める人もいますから。

 ただ年を取れば第二言語が薄れていくのは、自然な流れなんじゃないですかね。やっぱり英語を話してる時は無理をしてる人が多いと思う。僕だって英語を話す時は、日本語に比べて30%ぐらい無理してますよ。

 実は脳は、年齢を重ねるごとに初期化していくんです。知能指数は、遺伝の要因が50%ぐらいなんですが、一卵性双生児で比べると、生まれた時は遺伝によって半分は相関しているけれど、成長していくにつれ、生活環境の違いなどで数値は離れていきます。ところが年をとると、また遺伝子の影響が大きくなってくる。つまり元の状態に近付くということです。だからたとえどんなに長くロサンゼルスに住んでいても、脳が徐々に日本語や日本の文化に戻っていくのは自然のことなんです。


(注釈)

  1. TED Conference:Technology Entertainment Design主催。茂木氏は2012年に日本人として初登壇し、東日本大震災の復興についてプレゼンテーションを行っている。2014年度はカナダ・バンクーバーで開催予定。www.ted.com
  2. セキュアベース:安全基地。悩みを抱えている時に避難できる場所という意。人間のやる気と深く関わっているという。参照:茂木健一郎著『プロフェッショナルたちの脳活用法(生活人新書)』
  3. フジテレビ『全力教室』:茂木氏が現役東大生を相手に熱血授業を行い、反響を呼んだテレビ番組。2013年11月3日放映
  4. 日米学生会議(Japan-America Student Conference):1934年に発足した国際学生交流団体。日本と米国から同数の学生が約1カ月に渡って共同生活を送りながらさまざまな議論や活動を行う。出典:日米学生会議ウェブサイトhttp://kjass.net/jasc-japan/

脳科学者 茂木健一郎氏

Kenichiro Mogi■ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶應大学大学院客員教授。東京大学、大阪大学、早稲田大学非常勤講師。1962年10月20日東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。専門は脳科学、認知科学。「クオリア(感覚の持つ質感)」をキーワードとして脳と心の関係を研究すると共に、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。2005年、『脳と仮想』で、第四回小林秀雄賞を受賞。2009年、『今、ここからすべての場所へ』で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。2006年1月より2010年3月まで、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスターを務める


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2014年01月号掲載