経済評論家 勝間和代さん|新春特別インタビュー

 デフレ時代の個人の生き方やワークライフバランスについて、行政も巻き込みながら提言し続ける勝間和代さん。これから日本が取り組むべき課題とアメリカに住む私たちに向けてのメッセージをいただいた。

現代のビジネスパーソンにとって、何が大切だとお考えですか?

現代のビジネスパーソンにとって、何が大切だとお考えですか?

 この20年間、ビジネスとITとは切っても切れないものになりました。コンピューターにできることが増えると人間が要らなくなるんですね。ではコンピューターにはできないことは何か。「クリエイティブなこと」「手作業」のいずれかです。

 手作業だと高い賃金は取れず、日本だと最低賃金の800円からせいぜい2千円くらいでしょうか。次のレベルの、経理や受発注、売上げ管理などは全部コンピューターでできてしまうんですね。

 人間にしかできないのはリーダーシップを発揮することやコンセプトを考えるといったクリエイティブな仕事。先進国ではひたすらその力を高める教育をしていますが、日本はまだ大量生産のための教育が主流で、ギャップがあるんですよね。

どのようにすればクリエイティブな力が付きますか?

 日本人は何か与えられたものの中で最適化をする習慣が付いてしまっていて、問題をずらす視点や自分が問題を作ろうという発想が乏しいんです。上司と交渉して自分が考える方向に仕事を近づけるとか、得意なことはこれだから、会社の中で実現できないなら異動、転職、起業をしようとか、常に自分が主体となって考える。こういった思考は習慣とも言えます。

 これは本を読むだけでは身に付きません。水泳は本を読んで身に付くでしょうか?水着を着て、水に入らないと泳ぎは覚えられませんね。ビジネスもまったく同じで、経験や体感を伴わなければ能力は身に付きません。

 1つの方法として仲間と集まって教え合うことが効果的です。これを「コミュニティー・ラーニング」と呼んでいます。勝間塾という会を立ち上げていますが、定期的に集り、勉強会やゲストを招いての講演会、合宿などを行っています。

 そのなかでは、〝発想の転換〟や〝協働・チームワーク〟の体験をできるだけ取り入れています。あるワークショップでは、巨大なフラフープを15人くらいで指で持って沈めるというのをしました。これは意外に難しいんですよ。指を離してはいけないし、誰かが傾くと上がっちゃうんです。それを解決するのが課題なんですが、どうやって解決方法を発想するか、気付いた人はどれだけ早くチームに共有し、誰がリーダーシップを取って皆をまとめて協力し合うか、ということを体験してもらいます。

 またメンバー同士で朝会などを行っていて、簿記や英語、マーケティングなどを教え合っています。本を読むだけではわからないことを、経験者から教わるのはとても重要です。私は「自分の頭の中で考えろ」といつも言っていますが、みんなの知恵を借りると、それが「自分の頭」になるんです。

 人って1年あれば変われるんです。考えもしていなかったのに独立しましたとか、転職しましたとか、資格を取りましたとか。そういうのを聞くのはとてもうれしいです。

ワークライフバランスについて勝間さんのお考えを聞かせてください。

 ワークライフバランスは、仕事の「競争力」と関連しています。最近改めて感じるのは、仕事が速い人ほどアイデアが豊富でスキルも高いんですね。例えばウェブサイトのデザイン。最近はITの発達でデザイナーの作業時間が短縮されたので、アイデア作りに最大限時間を割くことができます。するとデザインの力量に顕著な差が出ます。同じ仕事をするのにAさんは10時間かかり、Bさんは1時間で仕上げる。それならBさんがAさんの5倍の時給だとしても安いのです。

 Bさんのような人たちがなぜ力量があって仕事が早いか。みんなその道の10年、20年選手だからなんです。実践に基づく経験の積み重ねは、ちょっとやそっとではほかの人が追い付けない。だからなるべく早いうちに自分の得意分野を見極めて、そこに時間を投資していくことで、自分の「競争力」を高めることができます。

 私は午前中はほとんど毎日ジムに行っていますし、ゴルフもします。1日にアポイントは3~4件しか入れないようにしています。それ以上入れると集中力も気力も続かないですし。気力って体力と同じくらい重要なんです。よく色んな仕事をたくさん受けがちですが、やりやすいことから着手して、大事なことが後で残ってしまうということがありますよね。〝気力は有限〟であることを理解して、重要なことからやる習慣が必要です。

 そのためには自分のことをわかっていないといけないですね。私は手帳(※勝間和代の『自分コーチング手帳』+サポートメール)の利用を提案していますが、目標に向けて活動のスケジュールを立て、今何をするべきかという優先順位を見極めることが何より大切です。

 競争力が上がればワークライフバランスが整います。自分の得意技に集中できれば時給は上がり、時給が上がれば働く時間が短くなります。短く働いて残った時間で、また新しい投資ができるんですね。

教育と男女共同参画はどのように重要でしょうか?

教育と男女共同参画はどのように重要でしょうか?

2012年12月に開催された"TOP創業20周年記念セミナー"の様子

LA、NY両都市での講演では、合わせて約500名の参加者に熱い思いを語った

 日本では、教育の改革が後回しになっています。欧米では教育は公的支出の5%なのに対して、日本の予算は3.4%です。この1.6%の違いは大きいです。教育の公的資金が少なくなると、中低所得層の教育レベルが下がります。

 特に前述の「問題を自分の頭で考えて解決する」訓練は、日本の教育には非常に乏しい。「アサーティブ」という言葉がありますが、相手に対して攻撃的でも強引でもなく、意見をはっきり述べるような力。率直、対等、誠実、自己責任が根底にある大切なコミュニケーション・スキルです。欧米の教育では、これを小さい頃から身に付けさせているので、子供でもおかしいことにはおかしいと言えますよね。教育に関しては、少人数学級にすることを提言しています。

 もう1つ日本が遅れているのは男女共同参画。多様化に関する一番簡単な第一歩なのですが、それができていません。内閣の中に女性は何人いますか?上場企業の取締役の女性も数パーセントしかいません。大学、大学院の進学率も、男女で10%以上の差。先進国でこれだけの差があるのは日本だけです。

 教育に対する公的支出が低くなると家計の負担が高くなるため、教育費を男女どちらかにかけるとなると男の子が選ばれる。日本的な考え方が背景になっています。男女共同参画が行われていないと何が起こるかというと、財政破綻です。女性が納税しない状況に陥りますが、年金などの社会保障は必要ですよね。諸外国では高度成長が始まった頃にこれを見据えた修正に入っていましたが、日本はそれが遅れてしまったということです。

 女性は結婚して子供を生みますので、女性の活用はワークライフバランスの整備と繋がっています。女性の活用といっても、管理職にできるかがポイント。女性の管理職率が高いことで、会社の意思決定において多様性が生まれるということ、社中の女性たちの意欲が高まるという2つの効果があるわけです。

デフレ脱却についてこれからの取り組みは?

デフレ脱却についてこれからの取り組みは?

新政権に望み提言する勝間さん

新政権に望むことは、何があっても「言い訳の効かない」金融政策の実行だと提言する勝間さん

 日本はデフレが続いていますが、物価が下がると人件費が削られます。日本の場合、賃金を毎年1%、2%と下げることがしづらいので、何で調整するかというと人を雇わなくなる。そうすると若年層の失業率がすごく上がり、採用されても正社員でない雇用となります。そうすると、IT技術を超えるクリエイティブな仕事ではなく、下の仕事しかできなくなってしまい、個人の競争力の低下という負のスパイラルに陥ってしまいます。雇用を増やすには、デフレ脱却と教育レベルの強化、そして個人個人が物を考える力を付ける必要があります。

 安倍政権になったので、ものすごく変わるのではないかと期待しています。安倍さんはデフレ脱却提唱者の1人ですし、彼がリーダーシップを取ってくれたら大きく変化する可能性がありますね。これまでシンポジウムを何回か開き、政府から2009年に「デフレ宣言」を出してもらいましたが、それ以来、日銀や評論家の方々と議論を重ねてきました。結果、「デフレ対策」「インフレ目標」が選挙の論点になったことだけでも、すごい進歩だと思っています。

 小さくとも継続的な改善こそが、結局は大きな変化につながります。私は毎日「0.2%」ずつ改善していくことをいつもおすすめしています。自分の行動習慣を0.2%改善すると、明日の自分は100.2%になります。これを365日続けると、207.3%になります。つまり、毎日0・2%ずつ改善していくと、1年後には2倍の変化を達成できるわけです。

2013年に向けての抱負を聞かせてください。

 これまでしてきたことを継続していきます。命と時間が有限だと考えると、「良く生きよう」と「どう他者に貢献しようか」は、ほぼイコールなんですよね。世の中、辛いことや死にたくなるようなことがあっても、なぜ頑張れるか。自分のためではなく、家族、コミュニティーや国のためだからですよね。

 アメリカに住む皆さんへのメッセージとして、ぜひここでのびのびと活躍してほしいと思います。そして自分の頭で物を考える習慣とか、民族の多様性、貧富の差、競争の激しさやアメリカのダイナミックな力などについて発信して、ぜひ日本を刺激してほしいですね。


経済評論家 勝間和代さん

Kazuyo Katsuma■東京生まれ。早稲田大学ファイナンスMBA、慶応大学商学部卒業。当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。現在、経済評論家、株式会社監査と分析取締役、内閣府男女共同参画会議議員、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。『やせる!』(光文社新書)、『「有名人になる」ということ』(ディスカバー提書)他著書多数
Web: www.katsumaweb.com


2013年01月号掲載