Transcendence

Transcendence

キャスト: ジョニー・デップ、レベッカ・ホール他
監督: ウォーリー・フィスター
上映時間: 119分
Rating: PG-13(MPAA)
公開日: 2014年4月18日全国ロードショー
配給会社: Warner Bros. Pictures

本音と建前のないハリウッド人

本音と建前のないハリウッド人
©Warner Bros. Pictures

 『Transcendence』で久しぶりに真面目な役を演じているジョニー・デップ。本作品は、急速に進歩するテクノロジーが人間の知的能力をtranscend(超越)する脅威を描いたサイエンス・フィクションだ。そこまでやって良いのか?というモラルのジレンマも扱っている、かなり現実世界に近い物語である。

 ウォーリー・フィスター監督は長年クリストファー・ノランの撮影監督を務めてきた人で、ノラン監督の作品で計4回アカデミー賞撮影賞にノミネート、うち『インセプション』で受賞を果たしている。この映画が監督デビューになるが、さすがにビジュアルが抜群の作品に出来上がっている。

 主役の天才的科学者ウィル・キャスターを演じるジョニー・デップは「“肉体が死んでも意識は生き続ける”という仮説の下で展開するSF作品だと思っていたのに、リサーチが進むにつれて、それがフィクションというよりは現実にかなり近い話で、今後30年くらいの間に現実になる可能性があることを知ってびっくりした」と言っている。アコースティック・ギターと1940年くらいに使われていた手動タイプライターを旅の伴にしているというジョニーは、テキストメッセージをスマートフォンでのろのろと打っている自分に「なんでこんなことをしているのか」といらつく程のアナログ人間だそうだ。だからテクノロジーに人間の思考がコントロールされるなんてとんでもないと思うらしい。

 最近アンバー・ハードと婚約したジョニー・デップは幸せそうだ。彼はどんな質問にも正直に答えてくれる。隠すことは何もない、という、本音と建前のないハリウッド人。他の多くのスターたちがするように、PR係を通してインタビュー前に「プライベートに関することは聞かないように」と予防線を張ったりしない。

 インタビューが始まってからしばらくして、「婚約者が妊娠してるという噂ですが?」などという不躾な質問が飛び出しても「それはウソ。いずれ彼女が欲するなら僕はもちろん喜んで協力するよ」と笑って答える。それからまたしばらくして、「前のパートナー(ヴァネッサ・パラディ)とは14年間も一緒にいて結婚しなかったのに今回結婚をするのはなぜ?」とさらに露骨な質問が飛び出したが、それにも余裕を持って「彼女も僕も紙一枚にこだわらなかった。紙に“あなたたちは夫婦です”と言ってもらう必要性を感じなかったから。そうしたかったらしてたと思う」と、にこやかにやり過ごす。

肉体が死んでも意識は生き続ける

肉体が死んでも意識は生き続ける
©Warner Bros. Pictures

 映画の話に戻ろう。 『Transcendence』の中で人類の進化をテクノロジーの進歩に託した天才科学者ウィルを演じるジョニー。「科学者としては天才なのに普段の生活は毎朝クロスワードパズルをし、妻をこよなく愛す、ごく普通の人という部分に惹かれた」と言う。

 キャプテン・ジャック・スパロー(『Pirates of The Caribbean』シリーズの4作品での役柄)も最高のキャラクターだったが、あのヨレヨレの海賊キャプテンばかりではジョニー・デップの素晴らしさを知ってる人には満足できない。いよいよジョニー・デップ、原点に戻る⁉という感じではあるが、今回もストレートなドラマではない。

 人間とテクノロジーの逆転を示唆する近未来のSFサスペンスで、彼のキャラクターは途中からコンピューターの画面上の人になってしまってちょっとがっかり。もう少し彼に動き回って欲しかったと少々嘆いている。

 手段を選ばない過激な反テクノロジーグループの凶弾に倒れるウィル。肉体が死んでいく偉大な科学者の意識・頭脳をコンピューターに移行して残したいということなのだが、この感情が理解できるスーパーコンピューターPINNは人類のためにと、ウィル自身が長年かけて完成しようとしてきたもの。脳に組み込まれている無数のニューロンの隅から隅までをPINNに移行し、ウィルの意識を生かし続けようと決意するのは、同じく人工知能について最先端で研究している妻のエブリン(レベッカ・ホール)。ウィルとエブリンのラブストーリーもこの映画の重要な要素になっている。

 ウィルがHE(人間)でありIT(コンピューター)でもある存在になった時から、2人の愛の形が変わっていくのは明白だ。妻を演じているレベッカ・ホールは「人間の意識をコンピューターに任せてしまうことへの危険性を知っているエブリンが、ウィルの意識を残したいと思ったのは、愛する人と一緒にいたいと思うセルフィッシュな決断ではあるけれど、誰もが理解できる選択だと思う」と話す。急速に機械頭脳の凄さを見せつけていく夫に妻はどう対処していくのか?

 サイバースペースの中で生き続けるウィルの頭脳は世界中のインターネットに繋がれていて、膨大な情報が機械頭脳にアップロードされる。果たして画面上のウィルは肉体が死ぬ前のウィルと同じなのか、それとも本来のウィルは肉体と共に死んでしまい、知識だけが無限に膨張していくモンスターコンピューターになってしまったのか?

 実生活ではアナログな生き方を選ぶジョニーはこの役を通して色々なことを学んだと言う。「僕は自然にこの世を去っていくことを選ぶ。自分の意識だけが生き続けるというアイデアは僕の好みではない。大体僕は機械と関わると壊すだけで、上手く利用することは得意ではないんだ(笑)。コンピューターテクノロジーの世界はどんどん進歩するから、ある時、僕の意識が移行されたコンピューターが古くなって質屋の隅に置いてあったり、場末のバーの隅の方で100円を入れて作動できるようになっていて、音を出してもブツブツ何を言っているか誰にもわからない状態になるのはイヤだからね」と笑っている。「でも愛する人や子供たちが僕より先に逝ってしまうのなら、傍に居て欲しいから、どんな形でも生き続けて欲しいと切望するだろうと思う」と付け足す。

 “transcendence”という言葉は乗り越える、乗り越えて変化するという意味がある。ジョニーにとってのトランセンデンスは日々に起こっていることだと言い、年を取ってものの見方が変わり、人を傷つけることを避けられるようになるのもトランセンデンスだと話していた。


中島由紀子

Yukiko Nakajima■ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト。ハリウッド外国人記者クラブのメンバーとして、20年以上に渡り、世界中でスターの取材を続けている。ゴールデン・グローブ賞への投票権を持つ、3人の日本人のうちの1人


2014年05月号掲載