身を削り生み出す一本の線二次元から三次元の世界へ

身を削り生み出す一本の線二次元から三次元の世界へ

 長年勤めたRhythm & Hues Studiosを昨年退職し、今年の1月からFuhu, Inc.でアートディレクターを務めています。ディズニーやドリームワークスなどと提携し子供用タブレットを作っている会社で、僕は主にソフトウェアとなるオリジナルアニメーションを制作しています。またフリーランスとしても活動していて、直近では2015年初頭に放映予定のテレビアニメ『ALVINNN!!! and the Chipmunks』のデザインを担当しました。

 僕の仕事は、二次元から三次元を作り出すこと。どんなプロジェクトにおいても、まず「何を伝えるのか」から始まります。そして「どう表現するか」を経て、最後にディレクターとして、チームのメンバーに「どうやって作ってもらうか」を指導していきます。この3つの工程を踏むことでようやく作品ができあがっていくんです。なかでもスケッチは、僕にとって何においても優先される作業です。紙の上に鉛筆で描かれる線。ここに旨みが凝縮されているんです。たかが線、されど線。まさに身を削って絞り出していきます。1本1本の線に、僕の気持ちがすべて反映されるし、余白にも想いがある。大袈裟かもしれませんが、このスケッチを描く時間だけは汚されてはいけないと思っています。そしてこの作業が終わると、ようやく三次元へ。二次元の作品をいかに損なわずにCG化できるか。0か1の数字の世界ですが、これは僕の思考をさかのぼる作業でもあります。二次元に起こしたアイデアを具現化し、しかもチームを通して作り上げていくわけですから途方もない作業です。

大切なことは生身で描くこと

大切なことは生身で描くこと

鉛筆でのスケッチ。作業の始まりはすべてここから

 僕は、デザインやアニメーションを学ぶ上で大切なことは、やはり生身で描くことだと思っています。今は直接コンピュータで絵が簡単に描けます。要するに何度も “やり直し” ができるということですね。作品を生み出すときに、この “やり直し” に慣れてしまうと、甘えが出てきてしまいます。人間は地上では簡単にジャンプすることができても、地上500メートルで同じことはできません。怖いからですよね。つまり “やり直し” ができるのとそうでない場合とでは、挑む気持ちも大きく変わってくる。スケッチでは線1本が毎回、真剣勝負なんです。

スケッチに救われた局面対人スキルの重要さ

スケッチに救われた局面対人スキルの重要さ

映画『Alvin and the Chipmunks 3: Chipwrecked』完成祝い。ディレクター(中央)、FOX社エグゼクティブ、スーパーバイザーと

 これまで数々のプロジェクトに携わってきましたが、なかでも思い入れのある作品と言えば、カリフォルニア・アドベンチャーパークの『a bug’s land』アトラクションのキャラクターですね。アートディレクターとして最初に手掛けた大きな仕事で、試行錯誤の末に半年ぐらいかけてできあがった作品です。当時在籍していたRhythm & Hues Studiosのジョン・ヒューズ社長から “Well-done” と言われて感激したのを覚えています。自分のキャリアにおいても大きな自信がつき、達成感や人に評価されることの喜びを肌で感じました。今改めてキャラクターを見てみると「なんだコレ!」と思うところも多々あるんですが(笑)、忘れらない作品です。

 日本人としてアメリカで働くということは、文化の違いはもちろん言葉の壁も大きいんです。まだ駆け出しの頃、映画『The Flintstones in Viva Rock Vegas』(2000年)の仕事で絵コンテを手伝うためにユニバーサルスタジオに行ったら、ディレクターにまったく相手にされなかった。今思えば、相手もCG分野がわからないし、まして言葉もろくに通じない若造が現れたもんだから困っていたんでしょう。彼のトレーラーハウスを何度出入りしても埒があかず、僕は外に出て空を見上げるしかなかった。落ち込みましたね。すぐ側で観光客が楽しそうにトラムに乗ってる姿を横目に、ここで一体何をしてるんだろうと。

 現状打破のきっかけになったのは、前作の主演俳優のジョン・グッドマンのスケッチ。とにかく描きまくって、それをディレクターに見せたら「似てるな」と笑顔に!「これだ!と」(笑)。振り返ってみれば、アメリカに来た当初も困ったときはイラストを描いてコミュニケーションを図っていました。Rhythm & Hues Studiosの面接時にも、人の似顔絵や、英語と日本語で書かれた独り言満載のスケッチブックを見せて、自分という人間をわかってもらえたんです。

 とは言え、語学力は絶対にあった方がいい。アメリカはもちろん、オーストラリア、カナダ、インド、シンガポールなど、ハリウッド映画の制作はすべて英語圏で行われています。制作スタッフは絵を描ければそれでいいというわけじゃない。机上でコツコツと作業をするだけでなく、チームメンバーと意見を交わしながら生まれるモノも多いし、自分の考えをアピールしたり、時には相手を説得することも必要ですからね。

漆黒の闇を乗り越えて自分らしく生きるということ

漆黒の闇を乗り越えて自分らしく生きるということ

1998年に結婚。パロスバーデスのLa Venta Innにて

 大規模なプロジェクトを数々手掛け、はたから見れば上手くいっているように見えた30代半ばが、実は心身ともに大変な時期でした。プロジェクトごとに大きなイメージを持って進むけれど、最後は時間との関係もあるのでどこかで落としどころを見つけなきゃいけない。でもクオリティの高いモノを作ることに妥協はしたくない。自分もクライアントさんも納得できるようにと心が引き裂かれる日々を送るうちに、声が出なくなったり、身体に異常をきたすようになってしまいました。気分転換に旅行に行ったりもしたけど、もはやそんな次元ではなく、精神的にもどんどんダメになって…。すべてを背負い込んでしまう性格も災いしていたんだと思います。器用貧乏で、企画からデザインも自分で納得いくまでやる。もちろんできないよりはできた方がいいわけだし、会社にも重宝されるけど、自分が本当にしたいことができなくなってどん詰まり。当時は自分を心から応援することができなくて、自己評価も低くなっていたと思います。

 意を決してまずは「これじゃなきゃだめ」と自分に課すことを止めたんです。たとえば1人でやっていたCG化のための作業を、すべてチームに任せる。それまでやっていたことを「できない」と言えば角が立つ。だから「僕はプロじゃないので助けてほしい」とお願いする。そうやって思考を変えることから地道に始めました。僕の場合は、身体がおかしくなるまでそれがわからなかった。人間は身体がダメになると思考もダメになる。そうすると想像力がなくなる。そういうのをひっくるめて、長丁場でマネージメントしていくのは大変です。時にはあきらめ、切り捨て、手放さなければならないこともあります。それでも残りの人生を自分らしく生きていくためには、自分が心から楽しいと思えることを信じていくしかない。 “楽しい” というのは仕事をする上で重要なキーワード。時間をかけて少しずつシフトしていった結果、随分楽になりましたね。

 娘が生まれたことも大きく影響しました。子供を見ていて思い出したんです。僕は娘の頭を撫でたり、愛しい人を抱いたりするように、この手を使って絵を描きたいと。今の会社で子供用タブレットのソフトの仕事をしているのも、未来を切り開く子供たちに、何を伝えるか、何を残せるかと考えたからです。好きなことをしていると言っても、経済的なことや先のことを考えると不安は尽きないですよ。でも無理をして病気になってもしょうがない。特に40代を迎えてその辺がクリアになった気がします。これからどんな人生を歩むかわからないけど、その時々に描いている作品に、全身全霊を傾けたいですね。

同じ志を持つ仲間と “本当の日本” を伝えたい

同じ志を持つ仲間と “本当の日本” を伝えたい

(左上、左下)コカ・コーラのCMでお馴染みの小熊のデザインなどを担当

©Coca Cola

(右上)映画用に新しく生み出したキャラクター。Chipmunks女子3人組

©FOX All Rights Reserved

(右下)原作者との共同作業で作り上げた映画版のアルビン

©FOX All Rights Reserved

 今後の展望としては、これからはなるべく日本人の感性を押し出した作品を作っていきたい。というか、それが僕の役割だと思っています。 “本当の日本” をどうやって伝えていくか。

 日本人のもの作りに対する姿勢や心意気、思いやりって理解されているところもあると思うんですが、作品としてはあまり海外に出ていないのが現状です。勤勉、真面目、気配りなど日本人が誇る美意識を世界の人に伝えていければいいですね。映像ならどんな脚本を作ってアプローチするか。西洋のストーリーテリングとは真っ向から対立する手法でしょうね。僕のアイデアに賛同する仲間にも出会いたいです。独りでできることもあるけれど、何人か同じ志を持つ者が集まれば、もっとスゴイことになる。今の世の中はどうしても経済が優先されがちだけど、たとえ採算が合わなくても、日本人だからこそ持てる心と技術で、抽象的から具体的に、線1本から三次元にしていきたいですね。

 この業界を目指している若い人に、ひとつだけメッセージを贈るとしたら「最後まで自分の応援団でいること」でしょうか。ベタな精神論ですが、どんな局面に立っても、最後まで自分の中に自分の大ファンがいて、自分が進もうとしている道は正しいと言ってあげてほしい。流行の道具やソフトウェアに活路を見い出すのではなく、自分が感動するものに正直に生きる。それがモノを作る人にとっての最大の幸せだと思うんです。

 世界は広い。色んなふり幅があり価値観がある。それを知らなきゃ、アーティストとしていつか限界が来ると思う。頭をハンマーで叩かれるようなショックや経験をどんどんしてください。インターネットで外国に行ったような気分、経験したような気分を味わえても、しょせんそれは幻。僕もこんな利いた風な口を叩いていますが、実際にはアメリカと日本しか知りません…(笑)。世界へ飛び出すのは、若い時にしかできない特権。年を追うにつれ苦になることも、若さがそれを凌駕するのは間違いないですから。


アートディレクター 中島聖氏

Sei Nakashima■1970年生まれ。東京都杉並区出身。都内の高校を卒業後、カリフォルニア州Ojai Valley高校のシニア(4年生)に編入。その後オレゴン州のカレッジを経て、ロサンゼルスのOtis College of Art and Designに進み、イラストレーションを学ぶ。1995年にハリウッドの老舗CG映像制作会社Rhythm & Hues Studios入社。CGアートディレクターとして、数多くの有名CMキャラクターやテーマパークのアトラクションキャラクターを手掛け、映画『ALVIN and Chipmunks 1〜3』、SF超大作『THE SEVENTH SON』(2015年公開)にも係わる。また、日本のアニメ映画『ホッタラケの島〜遥と魔法の鏡〜』(2009年)の主人公“はるか”のデザインも手掛けている。2014年1月よりFuhu, Inc.に勤務。同時にフリーランスとしても活躍中で、TVシリーズ『ALVINNN!!! and the Chipmunks』のデザインを担当
【中島聖ウェブサイト】seinakashima.com

Award

Award

(左)2015年から世界で放映予定のTVアニメ『ALVINNN!!! and the Chipmunks』。
メインキャラクターすべてをデザインした

©Bagdasarians Production

(右上)『a bug’s land』アトラクションのキャラクター。15体中10体をデザイン

©Disney

(右下)一躍有名キャラとなった車両保険会社GEICOのトカゲ。当初は小さな仕事だったので驚くばかり!

©Geico

Merit 36th Annual Illustration West, Society of Illustrators of LA
Merit 41st Annual Illustration East, Society of Illustrators of NY
Hugo Award, 43th Chicago International Film Festival 2007

作品歴:『Geico』『Coca Cola シロクマ』『Alvin and the Chipmunks』
『ホッタラケの島〜遥と魔法の鏡〜』『Mummy3』『Cat in the Hat』
『It's Tough To Be A Bug』など


2014年05月号掲載