日米で投手の記録が話題

日米で投手の記録が話題

エンジェルス時代に先発からリリーフ投手に転向し、大成功を収めた長谷川氏。適応能力の高さを遺憾なく発揮した

Photo: ©Courtesy of Angels Baseball

 日本では日本ハムの大谷翔平投手が甲子園球場で行われたオールスターゲームの第2戦(7月19日)で先発し、球宴新記録となる162キロをマークしましたね。公式戦ではないので、参考記録としてしか扱われませんが、それでも公式記録としては2008年にマーク・クルーン投手(巨人)が公式戦で出した162キロが最速だったので、それに並ぶ素晴らしい記録だと思います。また、テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手が7月18日のブルージェイズ戦で、今シーズン6度目の2桁奪三振となる12奪三振を記録しました。これは2012年にメジャーリーグに移籍した後の2シーズン半で26度目となります。昨シーズンは277個の三振を奪い、奪三振王にも輝きましたが、今シーズンもそれに続きそうな勢いですね。日米で投手の記録が話題になったことですし、今回は投手の投球スタイルについて解説したいと思います。

速球を投げることとその弊害

 これを言ってしまっては元も子もないのですが、先天的に持っている能力というのは絶対的にあると思います。身長や足の長さなど、体格も当然身体能力として関係してきますし、持って生まれた身体のバネも必須です。そういった意味では大谷選手は手も足も長く、身体も大きいですし、ムチのようにしなるように投げていますから、あれは天性のものでしょう。見習いたくても容易に真似できるものではありません。ただ、今は何かと研究も進んでいて、投球の際に歩幅を大きくした方が良いとか筋力を強化するトレーニングによって速球が投げられるようになるなど、研究結果が出てきています。実際に僕自身も過去に筋力トレーニングによって3〜4マイルほど速く投げられるようになりました。これは、新聞で読んだのですが、ダルビッシュ投手は球を速くするために背中と足だけを集中して鍛えているそうです。基本的にメジャーリーグでは、全身の筋肉をバランス良く整えて、全体の筋力を高めてスピードアップを図りましょうということは度々言われていたことです。

 また、トレーニングで筋力アップをしてもジョイント(関節)はそれとはイコールで強くならないから厳しいところ。もちろん食べ物とかサプリメントを摂って筋力強化をすることはできるでしょうが、限界がありますよね。また速球をバンバン投げられる投手は配球をあまり考えなくても力で打者を抑えることができる反面、故障に繋がりやすいという難点が挙げられます。腕を早く振れば振るほど関節が弱まって傷付きやすくなるのは避けられないですからね。一方、130〜140キロ代の球を投げる投手は、球速がスローな分、簡単に打たれないように球筋を考えて投げるので、色んな持ち球があり、息の長い投手になる傾向が強いと僕は思います。

流行のピッチングスタイル

 速球を投げて力でねじ伏せるような投球だと打者を抑える確立は高いでしょうが、反発力も働きますので、打たれた時は遠くに飛ばされやすいんです。だから昨今のメジャーリーグ界では速い球にツーシームやカッターといった変化を加え、ちょっとだけ移動するような高速変化球(moving fast ball)をうまく使い分けるのが流行っています。また、ダルビッシュ投手の他、現役中に最多奪三振王に11回も輝いたノーラン・ライアン投手など、昔は三振を多く奪う投手がもてはやされ、そこにメジャーリーグの醍醐味がありましたが、実は20年ほど前から投球スタイルのトレンドにも少しずつ変化が表れています。

 テキサス・レンジャーズでGM補佐兼スペシャル・アシスタントを務める元メジャーリーグ投手のグレッグ・マダックス氏が「投手ができる最高の仕事は27球で27アウトを取ること」を提唱しています。つまり、投手の肩が消耗品だという理解が広まってきた現在、比例して投球数を減らして選手生命を長く保持しようという傾向が高まってきました。その反面、今だに奪三振率が注目されてしまいますが、そのため肩を酷使して故障してしまう投手が多いのもまた事実です。しかし最近は技巧派の投手が三振を狙うよりも、打者を1球で仕留めるスタイルが浸透してきています。それは打たせてアウトを取る方法なのですが、良い当たりだとヒットになってしまうので、空振りを取りにいくのではなく、いかに詰まらせて打ち取るかというのがポイントです。

 こういった時代ですから、投手たちは岐路に立たされているのではないでしょうか?あらゆる研究も進んで速球が投げられるようになってきた今日。時代的に速球で三振を奪う、あるいは空振りを狙うというのが野球の醍醐味じゃなくなってきた。昔は球が早ければ打球を抑えたり、三振を奪うことができていたのですが、今は世の中にさまざまな投球法や理論が存在しているので、その辺が面白いところでもあり、投手としては自分が今後どの役割を求められているのかと頭を悩ますところでもあります。また、個人的にはこれだけ皆が速い球を投げられるようになってきたので、これからは逆にスローボールを投げる投手が重宝されるようになるのではないかと予想しています。

日本人投手陣の強み

 先日、肘の靭帯を痛めてしまいましたが、今季メジャーリーグ初挑戦ながら素晴らしい活躍を見せた田中将大投手やダルビッシュ投手を筆頭に、日本人投手陣が活躍しているのは、メジャーの流れと違うことをしているからだと思います。日本ではまだまだ数多く三振を奪う投手に対しての評価の方が高いですよね。実際に彼らは速い球を投げてそれを見せ球にしつつも変化球で抑えるというピッチングスタイルです。それが今メジャーで活躍している日本人投手特有の投げ方ですよね。例外としてはヤンキースの黒田博樹投手で、彼は少ない投球数と力で抑えるピッチングをしていますね。アメリカ式の投球法で、メジャーに一番フィットしている日本人投手だと僕は思っています。ただ、日本人に好まれるタイプとは違うせいか、日本のメディアにはあまり取り上げられていないようですが、こちらだと案外人気が高い投手だと思いますよ。

 以前にも言いましたが、メジャーリーグはシーズン162試合もあるので、先発ピッチャーで一番大切なのは多くのイニングに登板すること。それができるのは黒田投手の投げ方だと思います。ダルビッシュ投手は球数が増えても投げ切ることができているので良いのですが、基本的に彼のようなピッチングは誰もができるわけではありません。あれだけ球を散らして、空振りを取って9回まで100球で抑えるって、なかなかできない芸当ですよ。黒田投手は打たれる時もありますが、100球程度で余裕で完封してしまいますしね。少ない球数でどれだけイニングを投げ抜くか、それが今メジャーでは求められてきているので、投手の選手生命を重視してきている表れでしょう。

適応力とバランスが大切

 彼らは日本でももちろん一流の投手として成功しましたが、こちらでも日本でプレーしていた時と同様の投げ方をしていたとしたら、今と同じように第一線で活躍できたのか?というと、僕はその答えはNOだと思います。彼らに共通しているのはとても頭の良い投手だということ。皆さんも見ていてわかると思いますが、かなりピッチングスタイルも変わってきていますし、その時々の状況に合わせてどう投げたらいいかが良くわかっているんですね。ただ単に球が速いだけで、そのボールしか投げられない投手はどうしても相手ありきになってしまう。打者との駆け引きができないですからね。ですから、速い球が投げられるか、投げられないかということは別に、最終的には頭を使って考えることができる投手が一番強く、長く活躍するのだと思います。そう、人間は考える動物であるということです。

 そして適応能力がとても高く、分析能力が高いのも特徴の1つでしょう。今は多種多様なデータが充実していますから、僕らの時代では日本からアメリカ式にアジャストするのに1〜2年はかかっていたことを、彼らは数カ月でやってのけていますから大したものです。ダルビッシュ投手に関して言えば、昨シーズンと同じように三振を奪っていても、彼自身が納得のいくピッチングができてないんじゃないかなと思います。打者も研究して勝負を挑んでくるのですから、去年より良い当たりをされるようになったのかもしれません。でも彼のことですから、対処法を考えてまた1つ上のレベルに上がって行くのでしょうし、その能力が充分にある投手だと思います。あのまま日本にいたら、お山の大将になってしまって伸びるものも伸びなかったかもしれませんから…。そう考えると本当にメジャーリーグに挑戦して良かった選手ですよね。今後の日本人投手の活躍が大いに楽しみです。

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長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


長谷川滋利のマネーピッチ|今季のエンジェルスを予想〜vol. 16 〜へ


2014年8月号掲載