初心を忘れずに、日々全力で舞台を駆け回っています!

初心を忘れずに、日々全力で舞台を駆け回っています!

老舗サーカス『RINGLING BROS. AND BARNUM & BAILEY®』で、唯一の日本人クラウンパフォーマーとして活躍する岩佐麻里子さん。公演で訪れたサンディエゴで、初のロングインタビューを行った。

街から街へサーカストレインで全米巡業中

街から街へサーカストレインで全米巡業中

(左)リングリングサーカスのロゴが描かれた“サーカストレイン”「ブルー」ユニットの車両は56両にも及ぶ

(右)趣味はアンティーク、ヴィンテージショップ巡り。公演先の街を散策するのが何よりの楽しみ


 只今、全米ツアーの真っ最中!南カリフォルニアでの公演が終り、サクラメントなどを経由して、ユタ、コロラド、モンタナへ。今回のツアーは“Legends”をテーマにした最新構成で、来年の4月のバージニアのフェアフェックス公演まで開催日程が決まっていますが、公演自体は11月まで続きます。まさに全米を股にかけた大巡業なんです。

 基本的に、公演地に留まるのは1週間ほど。“サーカストレイン”と呼ばれる興行用の貨物列車で、団員も動物も揃って大移動するんですよ。トレインにはさまざまな大きさがありますが、私が今居るのは1両を11に区切った小さな部屋で、トイレとお風呂は共同です。狭いながらも、ベッド、椅子、テーブル、流し台、冷蔵庫、電子レンジもあるんですよ。巡業中は、夜の公演が終わってから、買い出し用のバスで食料を調達。制限時間は1時間なので、疲れた身体に鞭打ってダッシュで買い物してます(笑)。

 RINGLING BROS. AND BARNUM & BAILEY®(注1、以下:リングリングサーカス)は、大都市のアリーナクラスを中心に回る「ブルー」「レッド」と、地方を対象にした「ゴールド」の3つのユニットに分かれていて、私は「ブルー」に属しています。ブルーのクラウンは全部で12人。うち3人は女性ですが、日本人はサーカス全体でも私だけ。サーカスでのクラウンの役目は、オープニングやフィナーレはもちろん、幕の合間に絶妙なタイミングで登場し、観客を楽しませること。ジャニーズで言えば、ジュニアみたいな存在かな(笑)。広いアリーナの中を走り回るので、公演中は汗びっしょり。クラウンノーズが取れそうになったこともあります!

 もともと人前でも緊張しないタイプなので、観客が入れば入るほどテンションが上がるんです。アリーナからお客さんの喜んでいる顔を見ると本当に嬉しいですね。また公演前に行なわれる『プレショー』は、サインや撮影に応じたりと、お客さんと直接触れ合う貴重なチャンス。日本人のお客さんが来ると、いきなり日本語で話しかけてびっくりさせることもあるんですよ。

演劇の世界からまさかのクラウンデビュー!

演劇の世界からまさかのクラウンデビュー!

(左上)さまざまなバラエティーショーに出演。この頃からクラウンに興味を持ち始める

(右上)渡米から数年後、フィジカルコメディを学ぶため、NYの『Slapstick Dojo』に入門。イスから落ちる練習時のショット

(下)クラウンの世界に入るきっかけになった恩師と。Joel Jeski氏(左)Christopher Lueck氏(右)Slapstick Dojoにて


 リングリングサーカスに入団したのは約2年前。渡米した時は、まさか自分がクラウンになるとは思ってもいませんでした。日本で大学を卒業後、舞台を中心に演劇やミュージカルに出演、またダンスパフォーマーとしても活動していたのですが、バイトに励みながら二足のわらじ生活を4年ほど続けたでしょうか。なかなか芽が出ず、楽天的な私もさすがに行き詰ってしまって。どうせ苦労するなら、本場アメリカで学びたいと思い、2007年に思い切って単身渡米。当初は語学学校に通っていましたが、徐々にミュージカルのオーディションに挑戦するようになりました。

 子供の頃からドタバタコメディが大好きで、チャップリンの映画や『エド・サリヴァン・ショー』(CBS放送)などのテレビ番組もよく観ていました。渡米から2、3年経った頃、フィジカルコメディ・パフォーマー集団『Parallel Exit』の公演を観て驚愕。そこには、ドタバタコメディ、歌、パフォーマンスと私がやりたいことが全部集約されていたんです。早速ニューヨーク近辺で、フィジカルコメディのレッスンを受けられるところはないかとインターネットで検索したところ、1件だけヒットしたのが『Slapstick Dojo』。しかもインストラクターは、『Parallel Exit』の出演者だったんです。彼はリングリングサーカスでクラウンを務めた経験もあり、レッスンでは「落ちる、こける、すべる」の基本からみっちり叩き込まれました。その後、インストラクターのパートナーから、バラエティーショーに出てみないかと声をかけていただき、自作自演にも挑戦。これを機にほかのバラエティーショーにも出演するようになりました。

 リングリングサーカスのクラウンオーディションを受けたのも、フィジカルコメディとの出会いがきっかけ。でも当時はリングリングサーカスの名前すら知らず、そもそもクラウンが会場で何をするかもわからなかった(笑)。とにかく何事も挑戦と、グランドセントラルのオーディション会場に足を運んだところ、なんと第一次審査に合格。最終オーディションが行われたシカゴの「クラウンカレッジ」では、ホテルに1週間ほど滞在し、技術面だけでなく集団生活での協調性なども審査の対象となりました。その年は私を入れて9人が合格し、翌日からいきなりリハーサルが始まったため、生活は一変!その後、プレショーやインターミッションなどへのテスト出演を経て、昨年の1月に正式デビューしました。

苦労も楽しみのうち自分の力を信じて前に進みたい

苦労も楽しみのうち自分の力を信じて前に進みたい

(左)2008年11月、NYの舞台イベント『Japan Art Matsuri(JAM)』でChristopher Lueck氏と初共演

(右)リングリングサーカスのクラウンを務めたこともあるJoel Jeski氏とは、昨年ダラスPRイベントで共演を果たした


 サーカスとの契約は1年毎に行われるのですが、先日「ブルー」のクラウンとして2回目の更新を無事に終えることができました。別のユニットに移籍したり、時には解雇されることもあるので、過去1年間の自分のパフォーマンスが評価された結果だと思うと、純粋に嬉しいです。クラウンと聞くとコメディセンスが重要だと思われがちですが、実は幅広い能力が求められています。ジャグリング、アクロバット、演技、リアクション、広報活動、ホスト(司会)など、とにかくできることは多い方がいい。なかでも私が挑戦してみたいのはホストで、先日、プレショーのホストオーディションに参加したのですが、残念ながら力及ばず。キャラ的には向いていると言われたけれど、いかんせん英語の発音に問題が…。また公演のPRでテレビやラジオでインタビューを受けたりする機会もあるのですが、選ばれるのはいつもネイティブスピーカーばかり。サーカスには外国人も多く英語がまったく話せない団員もいるし、普段、楽屋で同僚に発音をからかわれても笑ってすませられますが、仕事に影響するとなるとやっぱり悔しい。やる気だけは他の人に負けないという自負があっても、やはりままならぬこともあるのだと感じました。でもあきらめてしまったらそこで終わり。とにかく自分から動かないと何も得られない。この負けん気がパワーの源かもしれません。

 仕事において最も気を遣うのは体調管理です。公演は多い日で1日3回。長期間にわたり列車で全米を回るのですから体力勝負です。また多国籍な団員が入り混じる特殊な状況で、個室があるとは言え、365日ずっと皆と一緒ですから、正直精神的にもキツイ。でも、それもひっくるめてこの生活を楽しんでます。今年35歳を迎え、20代前半の同僚には体力的には敵わないところもあるけれど、私は自分の力を信じて前に進むだけ。いつも初心を忘れずに、日々全力でパフォーマンスしています。

次世代へ繋ぐ感動。出会いが明日の自分の糧となる

次世代へ繋ぐ感動。出会いが明日の自分の糧となる

(左)将来の夢は、アメリカで日本人女性初の『ワンマンショー』を開催すること!

(右)アリーナに貼られた“Clown Mariko”バナー。衣装は、今回のツアーのために自らアイデアを出し新調したもの


 クラウンになって良かったことと言えば、人の輪がぐんと広がった!7月にアナハイムで公演があったのですが、同市の国際親善都市である茨城県水戸市から訪加していた、中学2年生から高校生まで総勢10名の学生親善大使たちが観に来てくれたんです。その中の中学3年生の女子生徒から、後日Facebookでメッセージをもらったのですが「訪米中、サーカス観覧が一番楽しい思い出になりました。麻里子さんみたいに人を幸せにするような大人になりたい。将来は通訳を目指していますが私も頑張ります」といった内容で、大大大感激!この年になって初めて、次世代に貢献したという実感が湧き感動しました。最近は、Facebookで私の近況を知ったアメリカ在住の友人が、公演を観に来てくれることも多くなりましたね。この間もノースカロライナの公演で、大学時代の友人と十数年振りに再会を果たすことができました。

 昨年10月のワシントン公演には、両親が日本から観に来てくれたんです。特に母は、私がアメリカの有名サーカス団に就職できたのを心底喜んでくれています。私がこの業界で働き始めた時も何も言わなかったけれど、やはりずっと心配だったみたいです。バックステージでクラウン姿の私を見て、嬉しさ半分、驚き半分で笑っていましたね。また、舞台から両親の顔が見えた時は、私自身も感極まってグッときました。その時に、ちょっとだけ親孝行できたのかな、と思えたことを覚えています。

 自分がここまで来れたのは、努力や運、タイミングなど言い出せば色々あるけれど、人との出会いが一番大きいと思います。トップパフォーマーでも、憧れの人でも、せっかく同じ時代にいて話だってできるんだから、こんなチャンスをみすみす逃す手はない(笑)。会いたい人がいたら突撃するぐらいの気持ちでいなきゃ、と常に思っています。

 今後の目標は、エンターテイナーとして、もっとスキルアップすること。大きなサーカス団で働くチャンスをもらったことで、日本で迷っていた頃の自分とは決別できたような気がします。さらに経験を積んで、自分の未知なる可能性や能力をもっと引き出したい。シルク・ドゥ・ソレイユのようなタイプの違うサーカスでも活動してみたいし、やりたいことはいっぱいあります。ただやっぱり原点であるフィジカルコメディが自分のキャラに合っていると思うから、これからもアメリカをベースに頑張っていきたいです。

 皆さん、リングリングサーカスの公演にいらした際には、ぜひ“Clown Mariko”に会いに来てくださいね!

(注釈)
1.RINGLING BROS. AND BARNUM & BAILEY®:1919年創立。“地上最大のショー”を謳い文句とするアメリカ老舗サーカス団。猛獣ショー、空中ブランコ、バイクサーカスなど、迫力あるステージで幅広い層を魅了。公演の内容は2年周期で一新される。大都市を回る「ブルー」「レッド」と、地方を対象にした「ゴールド」の3つのユニットから成り、列車やトラックで全米各地を巡業公演している。www.ringling.com

岩佐麻里子さんのプロフィール

岩佐麻里子さんのプロフィール

キャラクター作りもクラウンの大切な仕事のうちの1つ。最近お気に入りのヘアスタイル

RINGLING BROS. AND BARNUM & BAILEY® クラウンパフォーマー
岩佐麻里子さん

Mariko Iwasa■ 1979年生まれ、神奈川県横浜市生まれ。日本大学芸術学部演劇学科演技コース卒業後、舞台を中心に、演劇、ダンス、ミュージカルなどで活躍。2007年からNYに移住。2009年頃に『フィジカルコメディ』という分野に出会い、クラウン(道化師/ピエロ)やサーカスに興味を持つようになる。その後、ダンスなどのトレーニングに励みながら、自作自演のフィジカルコメディスタイルを築き、さまざまなバラエティショーに出演。2012年11月に、アメリカの人気サーカス団『RINGLING BROS.』のクラウンオーディションに合格。2013年より「ブルー」ユニットのクラウンパフォーマーとして活動中
ウェブサイト:http://rossooo.com/
Facebook: www.facebook.com/Mariko.Iwasa


2014年09月号掲載