特別インタビュー|一般財団法人親学推進協会会長、教育学者 高橋史朗氏

特別インタビュー|一般財団法人親学推進協会会長、教育学者 高橋史朗氏

グローバル化が叫ばれる中、新の国際人になるために必要なこととは?『親学』を提唱する教育学者の高橋史朗氏に日本における教育現場の現状とグローバル人材の必要性について話を伺った。

国際人になるための3つの条件とは

 「国際人とは何か」という議論を以前、文部科学省の国際学校研究委員会で行った際、意見が真っ二つに分かれました。国際人になるということは、できるだけ日本人だということを忘れていくことだという意見が半分、日本人という基盤に立って、世界に向かって日本を発信していくのが国際人だという意見が半分でした。

 私が思う国際人になるための条件は3つあります。まずは、「自己認識」。自分自身をきちんと認識できていて、個人として魅力があって話題が豊富なこと。2つ目は、「自国認識」。日本の文化、歴史、伝統などをきちんと理解していること。そして最後は、「他国認識」。他国を知ることで、自国の価値を知ること。自国にない他国の良さを認識すると、日本の価値を再認識できます。例えば、アメリカに来る前、私は日本の着物は世界で最も美しい民族衣装で、桜の花は世界で一番美しい花だと思っていました。しかし、実際にハワイで花を見たり、スイスで民族衣装を着ている人を見かけたりすると、日本の着物はナンバーワンでなく、オンリーワンだと感じる。文化の価値はオンリーワンであることだという考え方に変わりました。こうして、自己認識、自国認識、他国認識の3つを持つことが、真の国際人の条件ではないかと思えるようになったんですね。

 教育の国際化については、日本の教育の大事な柱として長年議論されていますが、日本人の考える国際化と、英語の「internationalization」とは構想上のずれがあるのではないかと気付いたんです。日本人の場合、国際人になるというのは自動詞。つまり、自分が英語を話せるようになったり、異文化が理解できるようになったりと、自分が動いて国際人になるのが日本人の考える「国際化」です。ところが「internationalize」というのは他動詞です。日本から発信したことによって、相手を変えてこそ国際化なのです。そのためには、英語が話せることよりも何を発信するのかという中身が重要ですが、今の日本にはその教育が欠けています。

夢のない子供が増加。のんびり暮らしたい

 日本より外国の方が、様々な人種や文化があるから、ナンバーワンではなくオンリーワンという考え方が定着していくベースがあるように思います。それに比べ、日本の親は、「うちの子は何番?」と考えがちで、オンリーワンではなくナンバーワンかどうかで判断する。また、個性ではなくて序列を気にするから、幼稚園から中学校へと進んで人数が増えるにつれ成績も下がると、だんだん不満が出てくるわけですね。「昔はいい子だったのに」、「お兄ちゃんはいい子だけど、あんたはダメね」などと否定的なことを言う。ノミのサーカスというのがあります。ガラスのコップにノミを入れて蓋をすると、ノミはジャンプする。それがだんだんジャンプしなくなって、ついに這うようになったら、外に出しても二度と飛ばない。それが日本で起きている現状です。日本の子供たちは飛ばなくなってしまいました。

 よく最近の日本の子供は夢がないと言います。例えば、高校生調査を読むと、2009年の統計で「将来偉くなりたい」と答えた日本の高校生は8%です。アメリカの高校生がなりたいのは医者や弁護士で、中国の高校生がなりたいのは社長だと聞きました。日本の場合は、社長になりたいと答えた高校生はほとんどいません。そんなに苦労をしてどうするの?社長になって幸せか?と。また、琉球新報の取り上げる「男の子の夢のランキング」では今、お父さんのようになりたいという夢は50位以内にも入らない。お父さんは経済のために頑張ってきたけれど、そんなお父さんのようになりたくないと。給料は銀行に自動的に振り込まれるだけですから、父親は働いて、輝いている姿を子供に見せていません。だから父親に対する尊敬心が日本の子供は、非常に低いんですよ。

学級崩壊が深刻化。キーワードは人間力

 そして、今日本でかなり深刻なのが1997年に始まった学級崩壊です。親学推進議員連盟という超党派の議員連盟を立ち上げ国会で勉強会を開き、総理大臣と文部大臣にある学校の状況を見てもらったのですが、授業中に平気で立ち上がっている子供がいる。それをご覧になった安倍総理が「これは休憩時間ですか?」と聞いたくらいです。今、そういう子たちが一割を超えています。そうすると学級崩壊が深刻になってくるんですね。小学校に入る前に親がきちんとルールやマナーを教えなくなったことが原因です。個性豊かに、自由にと言ってしっかりと教えないのは、自由と個性の意味を取り違えているだけだと私は思います。

 21世紀の教育の課題は子供の人間力をどう育てるかでしょう。人間力とは何か?それには3つあって、1つ目は知的な能力、IQに近いものですね。次に社会対人関係能力。3つ目が自己制御能力。つまり、学力とはIQだけでなく、人生を切り開き、社会参加する能力も含めた総合的な人間力だということです。今の子供の変化は、「社会対人関係能力」と「自己制御能力」の2つが育たなくなったことが大きいと言われています。

 例えば、日本ではいじめが広がっていますが、その根っこにある問題は相手の痛みがわからないこと。共感性が欠けているのです。そして自己制御能力の問題は、自分で自分を抑えることができないから、カーッとなったらすぐに切れてしまうということです。例えば弱い者いじめをするのは恥ずかしいことだと思ったり、人間としての罪悪感が発達していない。では、この力はいつ発達するのでしょうか。ハーバード大学発達心理学のカガン教授の学説によると、2歳の終わり頃だということです。3歳までに脳が急速に発達する過程で、羞恥心、共感性、罪悪感が育まれるそうです。昔の人は「三つ子の魂百まで」とは良く言ったものです。

親学で親心を学ぶ親の役割とは何か

 今、親になれない親たちが増えています。そこで私は8年前から日本で、「親学」を始めました。「親学」では、職業人になるための教育ではなく、親心が成熟しない若い親が親になるための準備教育と学習をしています。昔は三世代同居などで、子育ては自然に受け継がれてきましたが、そういう経験のない若者が子供を産むから、どう抱いたらいいかわからない。子供への関わり方が伝承されなくなった。それは、児童虐待に繋がる可能性もはらんでいる。親自身が親に愛されたことがないから、子供をどう愛したらいいかわからないし、親から褒められたことがないから、どう褒めたらいいかわからないのです。

 今日本では精神科医、医学博士の岡田尊司さんが書いた、『母という病』や『父という病』という本が売れています。岡田氏は『母という病』の中で、母親に気を遣って、いい子を演じる子供について書いています。親が子を褒めて愛さないから、子供は自分はダメだと思い込んで自己否定をして心が下を向いている。昔は、母親に気を遣うことはなかった。ところが母親に愛され、認めてもらいたいから、気を遣うようになってしまったんです。例えば、幼稚園で先生が「掃除しなさい」と言っても無視するのに、母親の声が聞こえると急に掃除を始める。つまり親にとっての良い子を演じるのです。

 また、「父という病」では、父親不在をテーマとして取り上げています。家に父親がいないというだけではなく、父親の家庭での存在感がだんだんなくなってきている。私は、父性は子供の壁になる役割だと思っているのですが、子供の壁になれない父親が増えている。今、反抗期がない中学生が8割ぐらいいるんです。なぜ反抗期がないかというと、草食系男子が増えて、父親がダメなことはダメだときちんと言えない、友達親子になってしまったから。子供は反抗しながら成長していくんですが、親とぶつからないから反抗期がないのです。

 しかし、なぜ親が親としての心を失ったのでしょう。私は親個人がダメになったわけではなく、豊かで快適で便利な社会が、本来の親を子供から奪ってしまっていると思います。昔は、母親が料理してくれなかったらご飯を食べられなかった。今はすぐに温められるし、代替するものがあるから、便利さの中で本当の意味の喜びとか生き甲斐とか親との絆が徐々に失われているんじゃないのかな。

 ノーベル賞を受賞したアメリカ人作家のレイチェル・カーソンが、著書『センス・オブ・ワンダー』の中で述べているように、子供の感性や心を育てるには、感動を分かち合える大人が1人傍にいる必要がある。「きれいな花だね」、「きれいな星だね」って話しかける人がいて、初めて子供の心の中に美しい感性が育っていくのです。

日本を失った戦後武道の本当の意味とは

日本を失った戦後武道の本当の意味とは

日本が二度と立ち上がれないように
アメリカが占領期に行ったこと

出版: 致知出版社
発売日: 2014年1月29日
価格: 1,944円(税込)

 夏目漱石は、近代の日本は文明を得て文化を失った歴史だと喝破しています。歴史の話になりますが、明治以後、西洋の近代文明に追いつけ追い越せと、日本は技術や知識の教育に注力し過ぎたあまり、古来の精神文化を見失ってしまいました。日本のアイデンティティを失ったのは、明治時代からだと夏目漱石が述べていますが、私もその通りだと思っています。

 戦前の日本は道義国家だったんですよ。日本人が大事にしてきた国民性や道義などが侵略戦争の原因とされ、世界に向かって国民性の間違いを謝罪しなくてはいけないと強調された。しかし僕は、それは誤解だと思います。どうやって日本の文化や歴史の誤解が生まれたのかを、英語で客観的に発信して伝えていかなければなりません。

 来年で終戦から70年。70年経っても、アメリカの日本理解はまったく深まっていない。例えば武道。アメリカは占領中に武道を禁止しました。私は以前、禁止した人を日本に呼んでシンポジウムを開いた時に、なぜ武道を禁止したのかを聞いたのですが、軍国主義に繋がるからだと言うのです。僕は、それは武道の誤解だと言いたい。「武」という字には「戈を止どむ」という意味があって、戦争と正反対の平和の精神なんです。武士はいつでも刀を抜けるけれど滅多に抜かないというのが武士道。カーッとなったら刀を抜いてバサッと切るのは武士道ではないのです。刀を抜かない。自分自身と向き合って、弱い心に勝って、そして自立する。そういうことを大事にしてきたのです。

 実はアメリカ人だけが誤解したわけではなくて、日本人自身もその精神を見失ってしまったんですね。だからアメリカが撤退して60年以上経っても、武道は最近まで復活しなかった。私は、アメリカだけが悪いというのは、責任転嫁だと思うようになりました。日本の歴史や文化をどう総括するかは、今、日本人に問われているのです。

教育の原点は家庭。心のコップを上に

 日本では昔から、教育についての3本の柱が伝統としてありました。例えば、明治31年頃の家庭心得には、江戸の格言が引用され、「教育の道は家庭の教えで芽を出し、学校の教えで花が咲き、世間の教えで実がなる」とあります。家庭、学校、地域社会が子育ての3本柱です。家庭教育が第一、教育の責任は親にあるというのが大切なんですね。これが大前提ではないでしょうか。

 モンスターペアレントは、子供の教育の問題を、教師、学校、教育委員会、政府、社会に責任転嫁するようになった。教育の責任は親にあるという考え方が失われたのです。家庭教育に国が干渉してはいけないという考え方が戦後主流になってきた。でも私は、それは違うと言いたい。

 今から30年前に政府の臨時教育審議会から、若手の教育学者の代表としてニューヨークの中学校に視察に行きました。そこで、中学生が窓ガラスを割ったら、スクールポリスがスッと駆けつけて、親を呼び罰金を徴収する姿を目撃しました。これは私たちにとって、衝撃的な出来事でした。日本では校内で事件を起こすと校長先生や教頭先生が謝罪をします。つまり親の責任、家庭の責任という考え方が日本にはなくて、学校や校長の責任になる。ここが大きく違います。

 親の役割は、子供の発達を保証することです。昔から、「子をしっかり抱いて、下に降ろして、歩かせよ」と言っていました。まずは愛情を持ってしっかり抱きしめること。私はこれを母港の働きと言っているんです。次は下に降ろす。母港に帰ってきたら、居心地が良いから出たくなくなる。

 今、日本で年間6カ月以上、家に閉じこもっている引きこもりは70万人を超えています。年代別で一番多いのは30代で46%にも上ります。これだけ年齢が高いにも関わらず引きこもっている人が実に多いのは、不登校が始まった当初に、子供に対する関わり方を間違えたからです。アメリカ人臨床心理学者カール・ロジャースはカウンセリングで、不登校児に対して大切なことは「長い目で見守れ、信じて待て、登校刺激を与えるな」の3つだと定義しました。

 ある母親は、8歳から10年間引きこもっている18歳の子供がいて、10年間親子の会話はないと言うんです。会話がない理由は、カウンセリングで長い目で見守れ、登校刺激を与えるなと言われたから、と。カウンセラーに言われた通りひたすら子供の心に耳を傾けたそうです。両親は働いていて、働きに出る前に子供の部屋に弁当を3つ買ってきて置いておく。すると子供は親が外出したのを見計らってドアを開けて食べるわけです。

 僕は、「このままだと子供が外に出るきっかけがありません。だから毎日30分でいいから話しかけてあげてください」と言いました。しかし、半年経っても子供はうんともすんとも言わない。部屋に入るように促すと、母親は「子供はきっと私のことを恨んでいます。無理矢理入ったら刺されるかもしれません」と言って全然子供を信じていない。「こういう状態は重病だから手術をしないと解決しません。たとえ刺されてもいいから子供のために」と、強引に部屋に入ってもらいました。すると、刺すどころか子供はワンワン泣いて、母親に謝っているんです。関わり方を知らないまま、10年間放置してしまった。今、そういう問題が日本全体で起きているのです。小学校の不登校から始まって30代まで引きずっている引きこもり予備軍は約150万人もいます。

 今の日本の子供たちの心のコップは下を向いています。自己肯定感や、自尊感情が失なってしまうのは、否定的な言葉ばかりを受けているからなんですよ。「あんたは、ダメよ」と言われたり、兄弟と比較されたりするのは、子供が一番嫌なことです。親学の基本コンセプトは、親が変われば子は変わる。まず親自身が否定的な言葉を使わず、心のコップを上に向けることが第一です。親が主体となって子供の教育に責任を持つことこそが、教育の原点ではないかと思います。

子供の夢〜なりたい職業の変化〜

2009年
1位 スポーツ選手 30.1%
2位 警察官 6.0%
3位 運転手 5.6%
1位の内訳は、サッカー選手 49.5%、野球選手31.4%と2競技で大半を占める人気。

2002年〜2008年
1位 野球選手 17.0%
2位 サッカー選手 11.1%
3位 学者・博士 5.6%
1位は2003年から日本人選手がメジャーリーグで活躍。3位はバラエティーや情報・教養番組で学術研究者の露出が増加。

1999年〜2001年
1位 学者・博士 9.6%
2位 サッカー選手 9.1%
3位 野球選手 8.5%
2位にサッカー選手が台頭。W杯日韓共催の影響が大きい。1位は00年に白川英樹氏、01年に野依良治氏がノーベル賞を受賞。

1997年
1位 大工 9.9%
2位 学者・博士 7.9%
3位 食べ物屋さん 7.1%

1993年〜1995年
1位 サッカー選手 12.7%
1位 野球選手 12.7%
3位 食べ物屋さん 5.6%
1993年にJリーグがスタート、サッカー人気が高まる。オリックスのイチロー選手が活躍。野茂英雄選手が95年に大リーグ入りし、新人王獲得。

出典:琉球新報 2010年5月28日 16・17面

今流行のキラキラネーム

昨今の日本で非常に多いキラキラネーム。個性豊かな子に育ってほしいという想いから親は他にない個性的な名前を付ける傾向があり、園児の約3割はキラキラネームが占める
輝宙(ぴかちゅう)
一二三(わるつ)
愛猫(きてぃ)
七音(どれみ)
強運(らっき-)
英雄(ひいろ)
美貝(みっしぇる)
樹里亜菜(じゅりあな)
清文(せぶん)
剣(ぶれいど)
黎亜留(れある)
礼(ぺこ)

出典:琉球新報 2010年5月28日 16・17面


一般財団法人親学推進協会会長、教育学者 高橋史朗氏

Shiro Takahashi■1950年兵庫県龍野市出身。早稲田大学大学院文学研究科教育学専攻修士課程、メリーランド州立大学大学院博士課程を経て、スタンフォード大学フーバー研究所で米国の教育政策を研究。1990年、明星大学教育学部教授就任、現職。2006年に一般財団法人親学推進協会を設立し、会長に就任。内閣府男女共同参画会議議員も務める。主な著書に『親が育てば子供は育つ』、『親学のすすめ』、『悩める子どもをどう救うのか』、『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』など多数
【一般財団法人親学推進協会】www.oyagaku.org


2014年11月号掲載