ワールドシリーズ

 今年のワールドシリーズは、ア・リーグはカンザスシティ・ロイヤルズ、ナ・リーグはサンフランシスコ・ジャイアンツと史上2度目となるワイルドカード対決になりましたね。残念ながら、シーズン中に上位で活躍してきたチームが勝ち上がれませんでした。この号が出る頃にはワールドチャンピオンが決定していると思いますが、今回は折角ですから、地元エンジェルスのプレーオフの戦い方について振り返りたいと思います。

エンジェルスの敗因

エンジェルスの敗因

2014年MLBポストシーズントーナメント表

ワールドシリーズは10月21日に開幕し、4勝先勝(7回戦制)でワールドチャンピオンが決定する

 エンジェルスは負けるべくして負けたという感があります。まず、1戦目にジェレッド・ウィーバー投手が打たれてしまったのが痛かったですね。2戦目の先発はルーキーのマット・シューメイカー投手。彼は終盤戦に脇腹を痛め、先発を回避して休んでいました。彼は新鋭ですが、短期決戦のプレーオフに試合を引っ張ることのできるピッチャーではまだないですから。登板していたのがギャレット・リチャーズ投手だったら、もしかしたら勝てていたかもしれません。3戦目のCJ・ウェルソン投手も調子が出ないまま、1回で降板してしまいました。プレーオフでは制球力のある投手や剛球投手が重宝されるように思います。今季のエンジェルスの投手陣はシーズンを通して平均的に良い成績を残せる粒揃いでしたが、ここぞという時に本領を発揮できませんでした。

 打撃陣もまた、両リーグでダントツトップの745得点をマークした強豪打線とは言え、マイク・トラウト選手を始め、プレーオフ経験のなさが拭い切れませんでした。エンジェルス打線の核であるジョシュ・ハミルトン選手は故障でシーズン途中から離脱したにも関らず、プレーオフに復帰出場しました。契約上の問題なのか、やってくれるはずという期待を込めてなのでしょうか、ソーシア監督は3試合とも彼を起用しましたね。しかし、まったくバットが振れていなかった。その判断に批判も受けましたが、僕は彼が見紛ったとは思いません。楽に打たせようと思って打順を落としたのに、7番目に重要な場面が回ってくるんです。皮肉なことにそこで打てずに負けてしまった。運が悪かったとしか言いようがないですね。1戦目で負けてしまったため、気持ちばかりが焦ってしまい、2戦目もまた負けてしまうという負の連鎖に陥ってしまいました。こうなると持ち直すのは至難の業と言えるでしょう。

 今季、ロイヤルズは1985年以来29年振り、エンジェルスは5年振りのプレーオフ進出となりました。圧倒的な強さを誇り、両リーグトップの最高勝率(98勝64敗)を挙げたエンジェルスがスウィープされるとは、誰も予想がつきませんでしたよね。まず初戦では、今年エンジェルスからロイヤルズに移籍したジェイソン・バルガス投手が先発しましたが、古巣のエンジェルスのバッターのことを熟知しているため、トラウトに対して得意のインサイドを攻め込んできました。トラウトはそのためのっけから調子が狂ってしまいましたよね。プホルズに対しても同様に主力打線を上手く封じ込めました。ワイルドカードで勝ち上がったロイヤルズは捨て身の姿勢で、エンジェルスの戦力をよく研究していました。

 ロイヤルズの鉄壁の守備の堅さも勝敗の鍵を握るポイントでした。シーズン中の勢いであれば、実力の差は7対3でエンジェルスがリード。その流れならば、簡単にはひっくり返せない実力差ですが、ワイルドカードの勝ち星からの勢いも相まって、力の差は6対4と詰め寄られました。迎えるエンジェルスは、今季両リーグトップの153盗塁をマークし、スモールベースボールを信条としたロイヤルズの勢いに押し切られ3連敗。短期決戦であるプレーオフの勝負の難しさを象徴した戦いだったように思います。

 今季のプレーオフで唯一の日本人選手として青木宣親外野手が出場しています。日本では攻守共に評価の高い青木選手もロイヤルズの守備陣の層の厚さの中で生き残ることは容易ではありません。しっかりと自分の居場所(役割)を見つけ、さらに飛躍してほしいですね。

新しいプレーオフの戦い方

 今回のエンジェルス対ロイヤルズの試合は、新しいプレーオフの戦い方を見たような気がしました。ロイヤルズは元々潤沢な資金があるチームではありません。以前紹介した「球団の資産価値」でも30球団中29位と、下位にランキングされています。現在のオーナーはウォルマートの元CEOなので、手持ちの資金は十分にあると思います。ただやり方を見ていると、資金をかけず若手の選手たちを集めて構成されています。経験の少ない若手中心のチームが戦う方法としては〝足〟なんですよ。守備や盗塁など足やスピードで稼ぐ戦法だと、選手がプレッシャーやスランプに陥りにくい分、結果も出やすく計算しやすいんですよね。エンジェルスのようにバッティングが売りなのに、短期決戦で好投手に立て続けに当たってしまうと今回のように一気に沈んでしまう。正直なところ、短期決戦の場合は蓋を開けてみないと打てるかどうかも予想さえできない部分がありますよね。その点、資金のないチームにとっては、今回のロイヤルズのような戦い方が良い手本になるかもしれません。

 逆にオークランド・アスレチックスはデータを重視し、シーズンを勝つためには無駄に走らない、バットを振らないというマネーボールを徹底したのですが、これまでも、今プレーオフでも上手く行っていません。元来アスレチックスの特色としてバントをしないチームなんです。これはシーズン中であれば正しい作戦なのですが、一発勝負の時に1点の影響はとても大きい。それだけでチームの勢いがまったく違ってくるわけですから。今回のワイルドカードは、実力でいえばアスレチックスが勝ってもおかしくない試合だったのに、ロイヤルズの勢いと盗塁に押されて負けてしまいましたよね。もちろん、このやり方が必ずしも上手く行くとは限らないのですが、プレーオフは一発勝負。隙があれば走る、初球から思い切りバットを振っていくという方がいいのかもしれません。メジャーリーグ的にはダイナミックさに欠けて面白味のない野球と言えますが、29年振りのワールドシリーズ進出、ポストシーズン8戦連勝という神がかった破竹の勢いに、地元カンザスシティの人たちは大盛り上がりでしょう。

ドジャースの今後の動向

 ドジャースは、昨シーズンからタイム・ワーナーと25年で総額83.5億ドルの独占契約を結びました。そのせいでタイム・ワーナーでしか試合が放映されなくなりました。そういった経緯もあって今は地上波では試合が観られないので、地元では親近感が薄れてきますよね。これは当然、球団経営上の判断ですし、選手たちの年俸を捻出するためにやっているのでしょうが、地上波で毎試合の放映があることでファンは球場に足を運び、熱心に応援してくれるので、地元ファンが遠のいてしまうのは本末転倒になってしまう気もします。

 また、ドジャースは2012に投資グループのグッゲンハイム・ベースボール・マネージメントが新オーナーとなりました。創立以来ドジャースは庶民派向けの球団作りをしてきたのですが、新マネージメントの方針として高級志向を意識して方向転換を図っているようです。昨年は100万ドルをかけてスタジアムの大改築を行いましたし、チケットも今までに比べてかなり値上がりしました。僕的には今後どういった球団経営をするのかが興味津々なところです。

 ワールドシリーズが終わって1〜2週間も経つと、そろそろ来季の契約などの交渉が始まります。まず各チームのGMや監督が招集されてウィンター・ミーティングが執り行われます。トレードやフリーエージェントの選手獲得を誰にしようかと、お互いの腹の探り合いをするわけです。その後、すぐに選手たちとの交渉に入ります。これらを全て年内に終らせておかないと、来季の始動が遅れてしまいますから、良い新戦力を獲得するためにも、首脳陣や担当者にとっては年末までの2カ月が来季の仕込みの大事な時期になります。

 選手たちには今が一番のオフ期間。僕も現役時代はラスベガスやハワイに行ってリラックスしていましたよ。11月の半ばには基礎的なトレーニングを始め、12月にはピッチングなどを開始、1月は少し身体を休めて2月のキャンプ開始に備えるといった流れです。来季は一体どんなチーム編成になるか、各チームの動向が今から気になりますね。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2014年11月号掲載