高校野球における日米の違い

高校野球における日米の違い

アメリカの野球の見所はスケールの大きさ。日本の高校生たちにもぜひ見てもらいたいですね

 現在、コンプトンにある「MLBアーバン・ユース・アカデミー」で、アメリカの高校生を対象にした野球チームのコーチを務めています。今度、そこで選抜チームを作り、6月25日から7月1日まで日本に親善試合を目的とした遠征に行くことになりました。日本では千葉、茨城、西東京、東東京の首都圏の選抜チームと対戦を予定していますが、関東圏の高校生選抜チームなので甲子園出場経験者がいたり、プロに進むレベルの生徒たちとの対戦になることでしょう。私が監督するアーバン・ユースの選抜チームはこの南カリフォルニアのトップの選手たちが集まっていて、ドラフトにかかるレベルの高校生たちです。それでも多分、日本選抜チームには負けてしまうかもしれません。アメリカでは野球は国民的スポーツで、メジャーリーグ・ベースボールもあるのに、なぜ高校野球のレベルが違うのか?今回は高校野球における日米の違いを中心に話したいと思います。

 体格など身体的資質だとアメリカ人の方が格段に上ですよね。でも、中学、高校生くらいまでは圧倒的に日本人の方が上手い。それは日本には甲子園という全国大会があって、高校球児は皆それを目指し練習に励むからです。もちろん学生ですから勉強も必須なのでしょうが、基本的には野球中心の学生生活になる。特に強豪校の生徒は、一年中野球に集中できる環境が整っていますよね。

 一方アメリカでは野球ひと筋ではありません。うちの息子も高校生ですが、勉強ばかりしていますよ。それに最近はほとんどの選手が1つのスポーツに集中するようになったとはいえ、やはりアメリカの高校では複数のスポーツをかけ持ちしている選手もいますから…。日本では甲子園に出場するために、高校時が野球生活のピークを迎えてしまいます。アメリカではそれが大学からプロにかけての時期にシフトしてきます。

野球の始まりとは

野球の始まりとは

親善試合とはいえ真剣勝負で挑みます。スポーツを通じてよい文化交流ができればいいですね

 そういえば、今まで野球の歴史について話をしていませんでしたね。元来、野球は緩い山ボールを棒で打ち返すところから始まりました。草野球のようにソーシャライズするのが目的で、皆でボールで遊んだ後にビールを飲んだりするのが楽しくてやっていたようです。だからアメリカでは強打で派手な打線のチームが人気があるんですね。ピッチャーが速い球を投げて、バッターが打って距離を飛ばす、あるいは三振を取るというシンプルな野球をするチームが一番好まれます。イチロー選手も4000本安打という素晴らしい記録を打ち立てましたが、アメリカではアベレージが良い選手よりもホームランをたくさん打つ選手の方がもてはやされるのは、そういう歴史の背景から来ているからなんです。

 その点からみると高校野球は実にシンプルでとても面白い。バットをブンブン振り回して打ちまくる選手たちがたくさんいますしね(笑)。だけど昨今アメリカでも、大学野球辺りになるとちょっと面白みや人気が欠けてきてしまうのは、緻密な野球をするようになってきているからなのです。最近はそういった細やかなプレーなどが流行っていますから、こまめにバントをして出塁しようとしたり、足で稼ぐプレーだったり。特にそういった傾向が強くなってきていますね。でも、プロよりははるかにレベルが低いので、そこまで人気が出ないのでしょう。

日米高校野球の比較

 さて、日米の高校野球に話を戻しましょう。実はあまり知られていないことですが、日本の高校野球では監督は投球に関してほとんどサインを出さないんです。逆にアメリカでは監督がサインを出す。忠実な野球をする日本の方がサインをきっちり出しそうですが、そうじゃないんですね。僕もこれは知らなかったので意外で驚きました。

 しかし、投球に関しては日本のやり方に大賛成。というのは、監督が出すサインを頼りに投球をしていると、ピッチャーもキャッチャーも育たなくなるからです。監督のサインは正しいのでしょうが、それだけだと、ピンチの場面ではこう攻めていこうとか、球筋を考える機会がなくなってしまって自分の力が伸びません。また、自分の思い通りに投げられないので、不満が溜まって上手くいかなくなったり。

 エンジェルスの監督、マイク・ソーシアが「キャッチャーが全く育たない」と嘆いていましたが、僕はこのシステムに問題があるんじゃないかと思っています。今は特に管理野球が主流で、何でも監督やコーチがコントロールしてしまっている。僕も息子が大学入学を控えているので、大学の野球部について調べましたが、ほとんどの大学でコーチがサインを出していますね。だから、キャッチャーはピッチャーをどうリードしていいか学ぶ機会もないままプロに入団してしまう。球団側はイチから教えてあげないといけないんですが、マイナーリーグにはしっかりとした新人育成のシステムがないため、メジャーに上がってきても自分でサインを出せないキャッチャーがたくさんいるのが現状です。

 ただ、どちらにも良し悪しがあって、日本の場合は選手に考えさせて育てる土壌はありますが、練習ばかりやらせて、スケジュールもハードなため、ピッチャーの場合は肩を壊してしまう可能性が大いにあります。日本はやはり投げ込みすぎなんですよね。ピッチャーは1日の球数制限と1週間に投げる球数を決めておいた方がいいという研究結果も出ているみたいですしね。

 それに比べて、アメリカでは高校野球に限らず、ピッチャーの肩を守る意識がとても強いです。連投なんて絶対にさせないですし、調子が良くても球数が予定数を超えると必ず交代させます。どちらが良いとは一概には言えませんが、まずは投手の肩を守ることを第一に考えているのです。また、見方を変えればエースばかりに負担をかけるよりも、2番手、3番手のピッチャーを育て、チーム力をアップさせるという戦略にシフトチェンジすれば、故障も防ぐことができ、さらに可能性のある選手はプロや大学、社会人野球へと進むことができるのです。目先の勝利だけでなく、長期的に選手たちの身体をマネージすることを第一に考えたいものですね。

 また、日本では甲子園を目指して3年間がむしゃらに頑張りすぎるから、そこが終着点になって、燃え尽きてしまう高校球児が多いのです。アメリカでは高校時代はあくまで通過点。大学野球でさえプロになるための通過点だと思っています。甲子園は伝統のある素晴らしい大会ですが、そこが最終目標にならないように、日本球界の将来を含めた大きなビジョンで指導をしてほしいものですね。

親善試合の本当の意義

 今回の親善試合ではせっかくチームで日本に行くわけですから、選手たちと一緒に過ごす時間がたっぷりあります。そこで得られる出来る限りのことは教えてあげたい。僕は日米の野球を経験していますから、双方の良いところも悪いところも理解しているつもりです。アメリカの選手たちにはもっと自分で考える力をつけるためにも、コーチのサインに頼らずに投げる方法を教えてあげられればと思います。コーチの言うことを聞くなとは言えませんが、例えば速いストレートを投げろと指示が来たら、試合の状況や相手がどの塁にいるかを念頭において、ストライクを投げるのか、ボールを投げるのかくらいの選択肢はピッチャーに残されています。それをどう考えて投げるのかを伝えてあげたい。

 親善試合ですから、勝ち負けだけが目的ではありません。お互いの違いを学びながら多くのことを吸収してほしい。アメリカの選手たちには、同じ年ぐらいでも自分たちよりもレベルの高い野球があるとわかるでしょうから、いい刺激になるに違いありません。それを知るだけでも意味はありますよね。

 僕も立命館大学在籍時に日本代表に選ばれ、アメリカ遠征を経験しました。その時の国際試合が刺激となって、メジャーへの意識が芽生えたので、若いうちにこういう経験を積むことはとても貴重です。日本人選手がアメリカでプレーし、アメリカ人選手が日本でプレーをする時代ですから、世界に目を向ける良い機会になるかもしれませんね。今回の経験を生かして、将来、国際舞台で活躍する選手たちに育ってほしいと願っています。

 アーバン・ユース・アカデミーの選手たちはほとんどがプロを目指している子供たちばかりですから、彼らがどんなプレーをするのかがとても楽しみですね。今のうちから目をかけておけば、近い将来にありがとうなんてお礼をいわれることがあるかもしれませんね(笑)。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2014年03月号掲載