この映画の大義は「赦し」。日米、そして世界の架け橋となる作品になってほしい

この映画の大義は「赦し」。日米、そして世界の架け橋となる作品になってほしい

アンジェリーナ・ジョリー監督作品『Unbroken』で、その唯一無二の存在感を買われ、日本人看守役に大抜擢されたMIYAVI。ワールドプレミアを控えた彼に独占インタビューを行った

アンジーの指名を受けて予想外のハリウッドデビュー

アンジーの指名を受けて予想外のハリウッドデビュー

残虐な日本人看守役“ザ・バード”ことワタナベを演じたMIYAVI。
そのカリスマ性にアンジーも早くから彼の起用を望んでいたとか
©Universal Pictures


 12月にアメリカで公開される映画『Unbroken』は、ローラ・ヒレンブランドの小説『Unbroken: A World War II Story of Survival, Resilience, and Redemption』を基に、第二次世界大戦中に旧日本軍の捕虜になった米軍パイロットの体験を描いた作品です。昨年の春にキャスティング・ディレクターの奈良橋陽子さんを通じて出演オファーをいただいたのですが、アンジーが監督を務める大作なのに、オーディションもリハーサルも一切なし。唯一行われたのはカメラテストだけ。突然降って湧いた話にびっくりしましたが、映画の内容を知ってもっと驚きました。あまりにも日本に対するネガティブなイメージが強く、さらに僕に依頼が来た役は、捕虜収容所の日本人看守“ザ・バード”ことワタナベ。作品の中でもとても重要な役どころですが、そのあまりにも残虐な描写に、彼を演じることで今後の自分の活動にかなり影響が出るかもしれないと思い、オファーを辞退するつもりでした。ところが、その夏に東京でアンジーに会った時、この作品の真のメッセージを伝えたいという彼女の想いに共感して考えが一変しました。

 この映画の大義は「赦し」なんです。どんな状況においても、鋼のごとく“unbroken”な人間の精神的な強さ、そして同時に人を赦すことができる柔軟な強さを描いています。本音を言えば、僕も最初は、日本人の評判を落としかねない作品なのではと懸念していたんですが、例えば『シンドラーのリスト』(1993年)や『イングロリアス・バスターズ』(2009年)を観て、安直にドイツを嫌いになる人はいないでしょう?作品の根底に流れるメッセージがきちんと観ている人に伝わっているからこそ、正当に評価され今も語り継がれている。それと同じで『Unbroken』を観たからといって、日本人は最低だと短絡的に捉える人はいないと思う。酷い虐待描写ばかりが話題になっている感がありますが、それは作品の表面に過ぎない。内側にはアンジーや脚本を担当したコーエン兄弟の、日本に対する配慮が随所に感じられます。日本が舞台ということもあって、特に日本人にとっては、センシティブな内容ではあるけれど、だからこそできるだけたくさんの日本人に観てほしい。今も世界のあちこちで戦争や民族紛争が起こっています。戦争の残酷さを訴えると同時に、日本とアメリカ、そして世界との架け橋となる作品になればと思っています。

非道な看守役で葛藤を抱える“人間”を表現

 僕が演じる“ザ・バード”は、捕虜を徹底的に痛めつける看守です。前述の通り、あまりの非道ぶりに出演をためらったほどでした。実は今でも時折、自分の判断は正しかったのかと、ふと不安になる時があるほど。もっとポジティブな役だったらどんなに楽だったか。でも数多くの候補者の中から自分にオファーが来たこと、アンジーの一途な想いに共鳴したこと、縁あってこの作品に巡り合えたのは、やはり真のメッセージを伝えることが僕の使命なんじゃないかと。ザ・バードは、一歩間違えればただのサディスティックな悪役だけれど、戦争という極限状態の中で、任務を遂行しなければならない葛藤や、混乱を抱える一人の“人間”を感じてもらえるように努めました。

 撮影は昨年の11月にオーストラリアで行われ、撮影に同行してくれた奈良橋さんの指導や、台詞もしっかり頭に入れてから臨んだお蔭で、ほぼNGはなし。ただし世界規模で公開される大作で、しかも台詞は英語ですから、プレッシャーはかなりありました。最後のシーンでは、積もり積もったストレスで吐いてしまったほどです。

 僕は役者の経験がほとんどないせいか、ハリウッドと日本の業界の違いに戸惑いを感じることはなかったですね。むしろ演技はしていないと言ってもいいかもしれません。奈良橋さんに演技に関して教わったことは“Reality”と“Acceptance”の2つだけ。ザ・バードとして、姿勢、歩き方、竹刀の使い方から始まり、できるだけリアルな感情を得るために、撮影期間中は捕虜役の役者さんからはもちろん、日本人看守役のほかの俳優さんからも距離を置いていました。またザ・バードは“華麗なモンスター”という原作の描写から、悪役とは言え、カッコ悪くはしたくなかったんです。残酷な中にも弱さや脆さがあり、観る者を惹きつけたい。彼のやったことを擁護するつもりはありませんが、日本人として恥ずかしくない、文字通り“華麗なモンスター”を演じたかった。ザ・バードは、捕虜たちを肉体面で支配したけれど、精神面は負けてしまうんです。この役を通じて、No Winner―武力や権力を行使しても勝者は生まれず、誰も幸せにならない―というメッセージを伝えられたような気がします。

演奏と演技を通して“想い”と“メッセージ”を伝える

 11月半ばからオーストラリアを皮切りに、『Unbroken』のワールドプレミアが始まります。アンジーやブラッド・ピットと共に、ベルリン、ロンドン、パリ、ロサンゼルス、そしてニューヨークを回ります。17歳でロックバンドに加入して以来、ミュージシャンとして、これまでワールドツアーの経験もありますが、まさか映画のプレミアで世界を回る日が来るとは、予想だにしていなかったですね。正直、未だになぜアンジーが僕を抜擢したのかわからないし、アメリカの雑誌の表紙を飾ったり取材を受けても、今いち実感が湧かない(笑)。

 ミュージシャンと役者の違いを音楽で例えると、ミュージシャンは“アルバム”かな。喜び、悲しみ、痛みなど自分の想いや感情を1曲1曲で表し、それがアルバムという形で構成され統合されていく。ステージ上でも100%自分自身を表現できますよね。片や役者は、アルバムの中の1曲というか。今回の役は、人の弱さ、迷いや葛藤を表現したので特にそう感じます。あとは監督や編集にすべてを任せどう料理してもらって作品に仕上げるか。第三者の目が加わることでまた違った展開になるところも面白いです。

 共通点は、演奏も演技にも“想い”と“メッセージ”が込められているということ。ギターを弾く際にも、そこに自分の想いが込もっているから、人とは違った演奏になる。演技も、台詞に想いを詰め込み表現していく点では同じ。だからメッセージが伝わるのかなと。

 役者でもない自分がこんな大役をいただいて申し訳ない気持ちもあります。でも本当に勉強になったし、演じるという点でも楽しみながら、自分ができることはやりきったという自負があります。これからも、もし映画出演の機会があればぜひ挑戦したい。音楽活動とはまた違った刺激を受けているので、この経験を自分の創作活動に役立てることができればいいなと思っています。

音楽家としてのターニングポイント。LAを拠点に新たな道へ

音楽家としてのターニングポイント。LAを拠点に新たな道へ

今年、3年振りに行なわれた4度目のワールドツアー『MIYAVI "SLAP THE WORLD TOUR 2014"』では、
アジアを皮切りに12カ国を行脚した


 実は、この夏にロサンゼルスに住まいを移したばかり。今後はこちらを拠点に本格的に活動していくつもりです。拠点を移すことは、これまで何度も話には出たものの、なかなか実現できなかったのですが、独立してから5年が経ち、4度目のワールドツアー『MIYAVI "SLAP THE WORLD TOUR 2014"』が無事終了したこと、そして何より映画出演が決まったことも大きかったですね。いずれ来るなら、まさに「今でしょ」と。1月からボイストレーニング、セッション、映画のアフレコなどで日本とアメリカを行き来し、少しずつ準備を進めてきました。

 ロサンゼルスはライブの経験もあるので、親しみのある場所だったけれど、やはり仕事や遊びで来るのと、住むのとではまったく違う。仕事に加え、生活面でもステータスや家族のことなど、やらなきゃいけないことが山ほどあるのに、日本で使っていたクレジットカードが使えなかったり、まさにゼロからの出発です(笑)。この先、1、2年は環境に慣れることも含め、色んな意味で下準備だと思っています。

 でもやはりここは世界の匂いを感じることができますね。音楽プロデューサーのJam & Lewisと仕事をしたり、先日ナッシュビルでレコーディングを行った時も、音楽の歴史を作ってきたような素晴らしい人たちとセッションすることで、グルーブや音楽に対する向き合い方も含めて、自分にないものをすごく感じました。やっぱり音楽をやるならところん突っ走りたいから、ロック、ジャズ、ダンスミュージックにしても、こちらの歴史を通じて音で会話しながら会得したい。もちろん、日本での活動も続けていきますが、日本では学ぶことができないことを学び、基礎を築いていきたいですね。音楽家として、どのみち避けて通れない道であるし、ロサンゼルスに拠点を置くことは僕の人生において、大きなターニングポイントになると思う。

 そういえば、ロサンゼルスに来てから、空を見上げることが多くなりました。子供の学校の行事に参加したり、自然に親しむ機会も増えました。『Unbroken』の撮影中に、オーストラリアの動物園で、アンジー&ブラッド一家と一緒に“ナイト・サファリパーク”に参加したんです。動物園に泊まって動物や自然に触れ合うイベントなのですが、みんなで動物の着ぐるみを着てテントで大騒ぎ。あんなに忙しい2人なのに、きちんと子供たちと向き合う時間を作ってる。カッコいいなと。仕事をきちんとこなしながらも、家族との絆を深めているアメリカ人の姿勢には、父親として、人間として学ぶところも多いですね。

役目は“カリフォルニアロール”。MIYAVI本格始動!

役目は“カリフォルニアロール”。MIYAVI本格始動!

影響を受けたギタリストは、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、ロバート・ジョンソンなどブルースマンが多い

 思えばわずか1年半の間に、映画出演やロサンゼルス移住など大きくライフステージが変化しました。言葉や文化の異なる環境で揉まれたことで、良い意味で、鎧が取れてきたような気がします。アメリカに来てから変わったことと言えば、言葉の問題もあるのですが、圧倒的に口数が減りました(笑)。ただ、語らずとも伝えることはできると思うんです。良い作品を作って勝負することに自分の血を感じる。ことにエンターテインメント・ビジネスは“名誉”の世界。押し合い圧し合い、他人とぶつかり合って自分を見失いかけることもある。もちろんガツガツ行くことも必要なんですが、僕にとってはあまり重要じゃないんです。あくまでも自分らしく作品に自信と誇りを持っていればいい。

 11月8日に開催された映画芸術科学アカデミーのガバナーズ賞授賞式に出席させていただいたのですが、宮崎駿監督が「アカデミー賞名誉賞」を受賞されましたよね。僕が子供の頃に、そして今、僕の子供たちが夢中になって観ている作品を作った方にお会いできて感動したのと同時に、彼が正当に評価されたということが心から嬉しかった。スピーチの一語一語に自分が信じて作り上げた作品への自信や愛が満ち溢れていたと思います。音楽とアニメでは比べることはできないけれど、華やかな場所が苦手で、本当はスタジオに籠って絵を描いていたいという彼の言葉にも共感。堂々とした佇まいを拝見して、僕自身も襟を正すような思いと、今一度、兜の緒を締め直すような気持ちになりました。ひとつの物事に対する熱意や情熱は語らずとも作品ににじみ出てくる。日本人ってそういう民族なんだと。アメリカに来てから、改めて言葉、文化、体格、国民性の違いに面食らうことも多いし、悔しい思いもたくさんしています。でも一方で、ここまで来て引けないという意地もあるし、これからどんなことが起きるかわくわくしてる自分もいます。

 今後は、自分がコンテンツとなって、音楽だけじゃなくジャンルを超えて、僕にしかできないことをやりたいです。いつか自分の作品も、宮崎駿監督の作品の様に人の心に残るものになればいいなと思う。今はテクノロジーが発達しているからYoutubeでもファンベースができる時代です。エンターテインメントのなかでも音楽は言葉の壁を越えて受け容れられる特性があるから、よりカッティングエッジな音楽の世界を創造したい。

 これからロサンゼルスを拠点に活動していくにあたり、僕の役目は“カリフォルニアロール”だと思ってるんです。アメリカで日本食市場がこれだけ広まった背景には寿司がある。なかでもカリフォルニアロールは、生魚が苦手なアメリカ人に大きく門戸を開いた功績があると思うんです。どんな美味しい食べ物でも、相手に受け容れられなければ意味がない。ではどうやったら受け容れられるか。そのためには形を変えてもいいじゃないかと。人も同じ。自分のことを理解してもらいたかったら、まず相手を理解し、懐に入るように努力する。当然そこには日本人としての誇りと、相手に対する思いやりとリスペクトがなければダメですよ。心意気は、日の丸を背負ってオリンピックに出場する選手と同じ。若い世代には、その背中を見せるだけでいいと思うんです。言葉でいうほど簡単じゃないのはわかってるし、だからこそやり甲斐がある。足元をしっかり見ながら、目線は前へ。いくら振り返っても、後ろには進めないですから。腹括って頑張りますよ。

Unbroken

Unbroken

©Universal Pictures

あらすじ
第二次世界大戦で志願兵となった元オリンピック選手のルイス・ザンペリーニの実話に基づくストーリー。乗っていた飛行機が墜落し、ザンペリーニ(ジャック・オコンネル)と2人の兵士は、47日もの間海上を漂流。その後日本海軍に捕獲され、捕虜収容所に送還されるが、サディスティックな看守“ザ・バード”ことワタナベ(MIYAVI)の標的になってしまう。



キャスト: ジャック・オコンネル、ドーナル・グリーソン、MIYAVI他
監督: アンジェリーナ・ジョリー
上映時間: 137分
レーティング(MPAA): PG-13
公開日: 2014年12月25日全米公開
配給会社: Universal Pictures

MIYAVI 最新情報

MIYAVIライブ
Goldenvoice Presents


日時: 12月14日(日)
午後7時開場、8時開演
会場: エルレイ・シアター/El Rey Theatre
  住所: 5515 Wilshire Blvd.
     Los Angeles, CA 90036
  Tel: 323-936-6400
  Web: www.theelrey.com
料金: $29.50~


ミュージシャン・俳優 MIYAVI氏

MIYAVI(みやび)■大阪府出身。1981年9月14日生まれ。エレクトリックギターをピックを使わずに指で弾く独自のスラップ奏法で世界から注目を集める“サムライ・ギタリスト”。4度のワールドツアーを敢行し、これまでに約30カ国で250以上のライブを行う。2002年10月に発表したアルバム『雅楽-gagaku』より「雅-miyavi-」名義でソロ活動を開始。2004年10月シングル「ロックの逆襲 -スーパースターの条件/21世紀型行進曲」でユニバーサル ミュージックよりメジャーデビュー。2009年に独立し、個人事務所・J-glam Inc,の代表取締役を務める。2013年6月、アルバム『MIYAVI』をリリースし、アーティスト表記も「MIYAVI」に統一した
【オフィシャルサイト】myv382tokyo.com


2014年12月号掲載