The Quality of the Original

The Quality of the Original

ミッド・センチュリー・モダン

イームズのファイバーグラスチェア

 クオリティー・オブ・ライフとは、日常の中で本物を知り、本物に触れることで実感できるもの。20世紀中頃に生まれた「ものづくり」への情熱が、今また見直され、大量生産ではない手作りの「オリジナル」が注目されている。

「ミッド・センチュリー・モダン」オリジナルの魅力

「ミッド・センチュリー・モダン」オリジナルの魅力

(上)シンプルかつスタイリッシュ

洗練されたデザインのファニチャー

(左下)ミッド・センチュリー・モダン

街のいたるところに見られるミッド・センチュリー

(右下)ミッド・センチュリー・モダン

カリフォルニアの日差しに映える色使い

 「オリジナル」であるということ。それは、アメリカでは非常に重要な意味を持つ。いかなる分野においても、オリジナル、つまり最初であるということに人々は魅力を感じ、それを評価する。

 日本人の感覚では一般的に、商品とはより生活を便利にするもので、制作過程においてそこが基準となる。電化製品、車、建築など、古いものよりも常に新しいものを求めるのが日本人。それに比べアメリカでは、一度でき上がってしまったものに関しては、これで完成品と考える傾向がある。例えば、お菓子の「Kit Kat」や「JELL-O」。これらは完成品で、作られた時から今まで、そしてこれからも変化することはないだろう。「オリジナルが完璧なら、どうしてそれを変える必要があるの?」というのが、アメリカ人の考え方なのだ。

 オリジナルを変えることより、そのルーツやヒストリーに価値を見出して、今も尚変わらずに残っているものがこの国にはたくさんある。そのひとつが、今回ご紹介する「ミッド・センチュリー・モダン」。これはその名の通りミッド・センチュリー、つまり1950年から60年代ぐらいに全盛を迎えたひとつのデザインスタイル。建築や家具など生活に関わる用品のデザインスタイルとしてアメリカ人なら誰でも知っているほど有名なもので、アメリカの生活のいたる所にミッド・センチュリー・モダンのものが隠れている。例えば空港の出発ロビーの長イス。クローム素材のフレームに黒いレザーが貼られたこの長イスは、ハーマン・ミラーというミッド・センチュリー・モダンを代表するブランドが手がけたもの。アメリカのほとんどの空港でこの長イスが使われている。

カリフォルニアで生まれたデザインスタイル

カリフォルニアで生まれたデザインスタイル

(左)ミッド・センチュリー・モダン

ジョージ・ネルソンのバブルランプ

(右)ミッド・センチュリー・モダン

手前がノグチテーブル

 アメリカで生活をしているとあらゆる所に見られるミッド・センチュリー・モダン。実はこのデザインスタイルとカリフォルニアには密接な関係がある。50年代、まだオレンジ・カウンティーが大きな広いオレンジ畑だった頃、カリフォルニアには、東海岸では考えられないような安くて広い土地が広がっていた。また一年中天気が良く、ハリウッド映画や新しいジャンルの音楽など、とても自由で華やかな雰囲気がここにはあった。そういったものを求め、人々はこぞってカリフォルニアにやってきた。そして、デザイナーや建築家たちは、当時最新の素材や技術を使って、より自由な発想で建物や家具を作るようになった。それまでのヨーロッパの流れをくむデザインスタイルから、アメリカオリジナルのデザインスタイルがここカリフォルニアで生まれたのだ。それがミッド・センチュリー・モダンの始まりである。

 ファイバーグラスチェア、通称「イームズチェア」で世界的に有名なレイ&チャールズ・イームズ、バブルランプのジョージ・ネルソン、ノグチテーブルのイサム・ノグチ。彼らが制作した家具は、単なるグッドデザインの枠を超えて、もはやアメリカの歴史の一部となった。この形を見ただけで、その時代の雰囲気、音楽や映画がよみがえってくるぐらい「時代を象徴するアイコン」として認識されている。彼らのデザインしたものは、これ以上何かを足すことも、さらには削ることもできない、完璧に洗練されたコンプリート・ピースになり、“Never go away”(もはや決してなくならないモノ)になったのだ。

大量生産の時代へ

大量生産の時代へ

(左)イームズチェアの製造過程

イームズチェアで使っていたオリジナルのプレスでプレスした直後のチェア

(右)イームズチェアの製造過程

目の細かいファイバーグラスを吹き付けてイス型を作る

 人々がものづくりに情熱を捧げたミッド・センチュリーの時代が過ぎ去ると、世の中には安価な大量生産品が溢れるようになる。産業は労働賃金の安い国に移り、安い素材をかき集めて大量生産をする。そういう時代に入ると、本物の魅力を知らないまま、価格だけで商品を買う人が増えてきた。このミッド・センチュリー・モダンの家具も、デザインをそのままコピーし、より安い素材で作ったものが世の中に出回るようになったのだ。

 イームズチェアも、今や色々なブランドから市販されている。というのも、このチェアの形の版権はすでに切れており、どのブランドが、どのような素材で制作し販売しても、イームズチェアと名乗ることができるからだ。その過程で、「ファイバーグラス」という言葉がいつの間にかなくなり、アジア製のプラスチックで作られたイームズチェアが世の中に溢れるように。オリジナルを知らない人々は、このプラスチックを見てイームズチェアだと思うようになってしまったのだ。

「Modernica(モダニカ)」によるオリジナルの復活

「Modernica(モダニカ)」によるオリジナルの復活

(上)「Modernica(モダニカ)」のファイバーグラス製チェア

知らなければ気が付かないけれど、一度知ってしまうとどこにでも見つけられる

(左下)ひとつひとつのイスが違った表情に仕上がる

雪の結晶のような美しいファイバーグラスのテクスチャーが残るイス

(右下)ひとつひとつが手作り

1脚1脚がLAダウンタウンのファクトリーでハンドメイドで作られている

 途切れてしまった「オリジナル」の流れ。その流れを元に戻そうとしたのが、ダウンタウンLAにファクトリーを構えるブランド、「Modernica(モダニカ)」。ここでは、イームズチェアが本物の素材でひとつひとつ手作りされている。本物を作ることへのこだわり、それをカスタマーに伝えることへのこだわり。途切れてしまったオリジナルの流れが、ここモダニカでまた蘇ったのだ。

 モダニカのチェアの最大の特徴は、ファイバーグラス製であるというところ。ファイバーグラスとプラスチックは、その強度の違いはもちろんのこと、イス表面のテクスチャーがまったく違う。長さ5㎝、幅1㎜ほどのファイバーグラスを敷き詰め、高温プレスで一気に溶かして固めるこの製法ででき上がるイスは、ファイバーグラスの個性的な模様が残り、ひとつひとつのイスが違った表情に仕上がる。しかも、このファイバーグラス材料は、オリジナルのイームズチェアと契約していた、アメリカに唯一残るファイバーグラスカンパニー「Owens Cownin Co.」から取り寄せたものを使用。さらには、イームズが使っていたファイバーグラスと同じ20種類の成分を、同じ分量で調合しているこだわりよう。つまり、オリジナルとまったく同じ材料で作られているのだ。

 モダニカが使用している、ファイバーグラスを溶かして固めるプレス機にもまた、驚きのエピソードがある。オリジナルのイームズチェアが作られていたプレス機は、時代の流れとともに使われなくなり、やがて壊れてしまった。そのプレス機がある時オークションにかけられ、モダニカはそれを買い取った。しかし、プレス機を買ったものの、その機械を作ったメーカーも、機械の使い方がわかる人ももはや存在しない。そこで、モダニカは世界中を探し回り、この機械をオペレートできる人を見つけてきた。こうしてオリジナルチェアを作っていたプレス機は、モダニカの元で再び息を吹き返したのだ。

 また、ペインティングにも特別なこだわりがみられる。元々イームズチェアでペイントの調合を担当していたオリジナルのメンバーを迎え入れ、まったく同じレシピで色を作っている。

 ファイバーグラス、プレス機、そしてペイント。時代の流れとともにバラバラになってしまったピースが再びひとつになり、変わらない「オリジナル」の歴史をモダニカが引き継いでいる。そのヒストリーを知ると、ファイバーグラスチェアの模様にも、確かにアメリカのミッド・センチュリー・モダンの歴史が息づいているように感じる。この国に残っている「オリジナル」。それを探求することで、ライフスタイルの質ははるかに向上し、より豊かな暮らしになるのではないだろうか。


取材・文 = 芦刈 いづみ
撮影 = Tak S. Itomi
取材協力 = Modernica Inc.

モダニカショールーム

モダニカショールーム

住所: 7366 Beverly Blvd., Los Angeles, CA 90036
TEL: 323-933-0383
時間: 10:00am - 6:00pm(Mon-Fri)/11:00am – 6:00pm(Sat)
Web: modernica.net


2012年12月号掲載