アメリカのボランティア精神とそのシステムについて

アメリカのボランティア精神とそのシステムについて

3月22日、地元のボランティア活動の一環として、アーバインのモンテッソーリ国際学園の運動会にゲスト参加。エンジェルス時代のユニフォーム姿で園児たちと記念撮影

 アメリカでは建国以来、ボランティア精神・ボランティア活動を国の基礎として重要視してきたこともあり、法律によって、すべてのアメリカ人に、国家あるいはコミュニティへのサービスの実践を通じて、アメリカ社会に貢献する機会を保証しています。今回は僕自身の経験を通じて学んだアメリカのボランティア精神とそのシステムについてお話しします。

 シアトル・マリナーズが地域貢献のために行っているThe Mariner Moose D.R.E.A.M TeamによるAssembly Programというプロジェクトをご存知ですか?D.R.E.A.MとはDrag-free、Respect、Education、Attitude、Motivationの頭文字を取って名付けられたプロジェクトで、マリナーズの選手たちが5人1組になって、地元の小学校などを訪れて、その大切さを教えていくというものです。この活動は直接、選手に会って話を聞いて終わりではありません。昼間に学校に来てくれた選手たちが夜には試合に出場しているのですから、その選手たちが頑張っている姿を見せることで、さらなるインスピレーションにも繋がります。シーズン中に訪問しているので、選手たちはそのために時間を割いたり、練習時間の調整をしたりと大変なのですが、それがこの活動をさらに意味あるものにしていると思います。

 アメリカでは、ボランティアの土壌が構築されていて、しっかりとシステム化されています。それがアメリカ人の豊かなボランティア精神を養っているんだなと常々感じます。日本だとボランティアというとお金持ちが慈善活動のために行っているようなイメージがどうしてもありますよね。ビル・ゲイツが2000年に設立したビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は世界最大の慈善基金団体ですが、成功した企業や起業家にとって、社会に還元することは企業イメージにも反映されるほどアメリカでは重要になっています。

 ゴルフのPGAツアーの運営などは、ほどんどがボランティアの人たちで成り立っています。組織自体が非営利団体なので、協賛スポンサーはたくさん名を連ねているのですが、運営は各カントリークラブに所属しているメンバーたちによるボランティア組織で行われているそうです。以前、毎年ニューポートビーチで開催される『東芝シニアクラシック』を観に行った際に、マーシャル係りの人と会話をしましたが、その人もボランティアでした。ギャラリー・コントロールなんて数日間ずっとその場所に立っているわけでしょ。もちろん自らが進んでやっていることとは言え、シーズンによっては暑かったり、疲労も溜まり、大変な役割だと思います。しかし、スター選手の姿やプレイを間近で見られるのは、この係りの特権でもありますから、ゴルフファンにはたまらないのでしょう。そうやって、ゴルフ競技を支える一人一人の精神と、由緒ある大会に関われる誇りが、ゴルフ大会の頂点であるPGAツアーを支えているのですから、人を動かす力はお金ではないのだと、ボランティア活動を通じてつくづく思います。

ボランティアは相互の利益のために

 メジャーリーグの各球場でもボランティアの人たちに支えられています。基本的には有償で働いていますが、実は十分な額ではなく謝礼程度のポジションも多いのです。実働相当の報酬は貰えないけれど、野球と、そして地元のチームを応援したいという球団への愛から、球場で働けることへのやりがいと意義を見い出してくれているのです。メジャーリーグにはそれほど大きな魅力があるのでしょうし、そういった存在価値を高めるファン作りのためにも、各球団ごとに地道な地域貢献活動やファン感謝イベント等、試行錯誤の工夫を凝らしていますよね。ボランティアをすることによって、チケットを購入して試合を観戦に行くだけでなく、関係者として球場に一歩足を踏み入れることができる。そういった機会を率先して設けることで、さらにメジャーリーグや球場運営に対しての理解も深まるのだと思います。日本のプロ野球やJリーグもあれだけの大きな組織ですから、大同団結して日本でも同じようなことが実現できると思うんですよね。球場の運営スタッフ全員を給料だけで賄うのではなく、ファン心理とボランティアの特権を駆使して球団もファンもwin-winになれるようなシステム作りを構築することで、さらなる競技人口の獲得と球場運営の地域密着型のモデルとしても成立するのではないでしょうか。

 ここで、球団ボランティアとして、スポーツ・トレーナーの森本孝義さんを例に挙げましょう。彼はオリックス・ブルーウェーブ時代のトレーナーだったのですが、当時、イチロー選手のマリナーズへの移籍に伴って1カ月ほどイチロー選手に帯同していました。その時の体験が忘れられず、アメリカでトレーナーを志すきっかけになったそうです。オリックスを辞めてすぐに渡米したのですが、正式に球団側から雇用されるポジションに就くには、まだメジャーリーグではトレーナーとしての実績や認知も乏しかったので、まずは大学に通いながらマリナーズ傘下のマイナーリーグ、ピオリア・マリナーズで1年間インターンを務めました。当然、無償でしたが、与えられた機会を逃すまいと彼は真面目に必死で働きました。僕もその姿を側で見ていて、この人物のやる気と人柄を買って、後に個人トレーナーとして雇いました。その後は今までの下積みが実り、マリナーズのアシスタント・トレーナーとして声が掛かりました。

 自分がどうしてもここでやりたいという場所が見つかったならば、その時はポジションが空いてなかったとしても、まずはボランティアの入り口からスタート。そこから与えられた環境内において、やる気と実力を惜しみなく発揮していくことで、自分の居場所を掴み取った良い実例だと思います。先の保証や条件の提示がなければ動かないのでは、何も始まりません。アメリカでは、無名だったトレーナーに対して、真摯な努力と姿勢を素直に認めてくれるのです。自ずから道を切り開いていく開拓精神を讃えることができるのもアメリカならではの懐の深さだと思いませんか。

 アメリカではこうした企業へのインターン制度などもとても充実しています。球団側もボランティアの門戸を広げることで、実際のファン獲得にも繋がっていますし、ボランティア精神を培う場にもなっていると言えます。

ボランティア活動の真意とは

 ボランティア活動と言うと、社会的に成功を遂げた人が社会に還元するために行うものだという認識がありませんか?むしろボランティアをすることによって、回り回って最終的に自分の許に還ってくることの方が多いのです。だから何をしても前に進めない時は、まずはボランティアを始めてみることで世の中がよく見えてくるかもしれません。ボランティアをする側も無償だからといって手を抜いていては、案外世間には見透かされてしまうものです。報酬の有無は関係なく、まずは自分に何ができるかを体や頭を使って労働で示すこと。そこには道が無数にあり、その先は自分次第でチャンスも無限に広がっていくのです。そう考えると、ボランティアの意味は2通りに分かれます。一つ目はもちろん地域コミュニティーへの奉仕活動などの社会還元。そして二つ目は、誤解を受ける言い方かもしれませんが、自分が成功するためのツールにもなり得るということです。

 もし、実際に自分でボランティア活動を行う時間がない人は、寄付をすることも一つの立派な手段だと思います。例えば給料が10万円だとすれば、その10%はボランティアのために使うと自分で決めてよけておく。特にサラリーマンは日々の仕事に忙殺されているため、頭を使ってアイディアをひねったり労力の提供というよりも寄付を定期的に行うこともボランティア活動の尊い一環です。世の中のために使ったお金は、いつか自分の所に戻ってくるものです。これはウォーレン・バフェットもビル・ゲイツも公言していることです。そういった行動が能動的にできる人こそが、最終的には組織においても社会的にも上に押しあげられていく人だと僕は思います。

 お金もただ、漠然とどこかに寄付するだけではいけない。自分にとって思い入れのある団体や施設に寄付をすることで、ボランティア活動としての意義が自分に還ってきます。例えば、自分の子供が小さい頃、病気がちで病院にお世話になったので小児病院に寄付をするとかね。本来は自分の行動で示すのが最善なのかもしれませんが、それが無理な場合などは、進んで寄付をしてほしい。それがたとえ自分自身に還って来なくても、自分の家族や友人、未来の子供、孫たちに必ず反映されるのですから。僕は一環して仕事は社会貢献のためだと思っています。ボランティアも同様に社会に還元することで、それが巡り巡って世界全体の明るい未来に通じていけると信じています。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2015年5月号掲載