成り立ちと日米の違い

成り立ちと日米の違い

ウェイバー方式とは、主に日米におけるプロフェッショナルスポーツでのドラフトの際に用いられる、選手の指名要領を規定するもの。日本ではドラフトの際、球団の指名順で優先的に選手と交渉権を得られる制度とされており、指名順は前年度の下位球団からが原則となる

 先日、大リーグのドラフトが行われました。日本は11月ですが、こちらでは大学の卒業シーズンである6月に開催するのが恒例です。

 近年、大リーグにおける優れた日本人選手の席巻もあり、世界中から良い選手を獲得するため、アメリカのドラフトを統一しようという目論見もあるようです。今回はドラフト制度の歴史と背景、今後の展望を紹介したいと思います。

 ドラフト制度を最初に取り入れたのはNFLで、1936年に導入されました。次に1964年にMLB、続いて日本のプロ野球が1965年に導入。当時、プロリーグの発展に伴い新人選手の獲得競争が激化、そのため契約金の高騰などから新人選手との交渉権利の分配を目的に導入した協定だったそうです。その後、豊富な資金力を持つチームに戦力が偏らないように、リーグ全体の戦力の均一化を図るための制度として確立していきました。

 さらにMLBは、公平なドラフトを行うために「前年度の勝率が低いチーム順に選択権が与えられる」という新たなルールを設けたのです。このルールが加わり、弱小で資金力のない球団であっても実力のある選手を獲得することが可能な、現在の形が定着していきました。カンザスシティ・ロイヤルズなどがその恩恵を受けている例で、そうすると全30球団の勝率の最下位のチームから、新人選手を指名する権利が与えられるわけです。なぜこのルールが戦力の均一化になるのか?と思う人もいるかもしれませんが、確かに能力の高い選手が1人や2人チームに加わったからといって、大リーグの選手層はとても厚いため、急激にチームの戦力アップに繋がるわけではありません。しかし、万年下位チームであっても資質の高い選手を毎年獲得し続けることで、それらの選手の成長と共に数年後には強豪チームになることもあり得ます。ロイヤルズは昨季、29年振りにアメリカン・リーグ優勝を果たし、ワールドシリーズではあと一歩のところで及ばずシリーズ制覇を逃しましたが、これはドラフト制度による結果だと言えるでしょう。

 指名を受けた選手は入団を強要されるわけではないので、最近の傾向として、特に有望選手などはドラフト前から腕利きの代理人と契約をして、希望球団からの指名でない場合には高額な契約金の提示により、遠からず入団拒否を示唆したりすることも散見されます。結局、弱小で資金力のない球団は、有望選手の指名を諦めざるを得ないケースもあるようです。ただ、大リーグでは30球団が40巡まで指名しますので、毎年全体で約1200人もの選手が入団することになるのです。裏を返せば、それだけの選手の入団と同様に選手の退団を意味していることにもなりますよね。このようにドラフト後に即戦力になる選手などはあり得ないほど、大リーグの壁は厚いのです。

 一方、日本でもドラフト制度が定着してきましたが、こちらはエンターテインメント色を出すために抽選方式になっています。1巡目は入札抽選、2巡目は球団順位の逆順にウェーバー方式で選択、3巡目は2巡目と反対の順番(逆ウェーバー方式)で選択、4巡目からはウェーバー方式と逆ウェーバー方式を交互に行い、すべての球団が選択の終了を宣言するまでこれを続けるのがルールです。以前は、「高校生選択会議」、高等学校在学生以外の選手を対象とした「大学・社会人ほか選択会議」が開催されていましたが、2008年以降は統一されています。かつて日本では、ドラフト上位の候補選手が希望球団に入団できる「逆指名」という制度が発端となり、争奪合戦による球団側からの裏金問題などが世間を賑わせましたよね。MLBの場合は順番制なので、システム上そういった越権行為ができないようになっています。この方が健全な球団運営において公平性を保つためにも僕は賛成です。

入団後の進路について

 日米の大きな違いのひとつに、アメリカでは大学在籍時の3年生からドラフトの対象になる、ということがあります。ごく稀な例ですが、大学在籍時にもし希望しないチームに指名された場合は辞退し、翌年にまたドラフトにかかることが可能です。アメリカの良いところは仮に大学を卒業せずに球団に入団したとしても、後にいつでも大学に戻ることができるところです。逆に将来的に指導者になりたいと思えばきちんと大学を卒業してから大リーグに入団しても遅くはないですし、現役を退いてから大学院でマスターを取得することだってできる環境です。特に日本ではプロ野球選手としての将来を考えると、経験値にしても、身体つきや体力面にしても大学を卒業してからプロに進んだ方が近道だと僕は思います。以前にもお話ししましたが、日本では高校野球時に心身共にピークに持っていってしまう育成法に対して、アメリカではそれが大学野球にシフトします。また、経済的な問題や何らかの理由で大学に進めない人は高校卒業後にそのままプロに進むケースもありますが、その時々でシチュエーションは異なったとしても、アメリカの方が選手側にとっての選択肢やメリットが多いように思います。

 さて、アメリカでは6月のドラフト会議が終わったら、すぐにルーキーボールと呼ばれるところに入り、7月、8月に限定したショートシーズン中にみっちり仕込まれるのです。前述したように日本ではアマチュア野球がしっかりしているので、高校を卒業したてのルーキーを即戦力として起用することは珍しくもありませんが、アメリカではまずあり得ません。大車輪の活躍をしているドジャースのクレイトン・カーショウ投手も大リーグに異例の速さで出世したと言われていますが、それでも2~3年はかかっているのです。よほど期待される選手であっても通常1~3年程マイナーリーグで経験を積んでから、大リーグに上がってきます。特にアメリカではアマチュアとプロとの実力差が激しいので、実際に獲得してみないとものになるかならないかの判断さえ難しい場合もあります。大リーグでは新人で即戦力になるような逸材が出るとすれば100人に1人いるか、年間に1人輩出できるかの割合でしょうね。

 また、こちらの良い点はマイナーリーグにFA権があるところ。例えばヤンキースのような球団はFAでスター選手をどんどん獲得していくので、たとえ傘下のマイナーリーグに所属していてもメジャーに這い上がることは至難の技。そのような場合、数年在籍した選手にはマイナーリーグ所属の選手であってもFAを行使して自分を起用してくれそうな球団に移籍することができます。そういったシステムが確立しているからこそ、皆、どんな球団であっても声がかかれば少しでも早く球界入りを希望するのでしょう。

問題点と今後の課題

 ヤンキースのような人気球団はFAでスター選手をどんどん獲得できますが、資金力の乏しい球団にはそれができない。そこで公正を課すために1978年に導入されたのが、FAで戦力を失った球団に対して「補償」として与えられるドラフト上位指名権です。FAで選手を獲得した球団は、放出した球団に対してドラフト1巡目指名権を譲らなければならないというルールがあります。これはヤンキースのような人気球団に限ったことではなく、今まではドラフト権を遵守していたような球団でも、勝負に出たい時は、ドラフト上位指名権を譲ってでも有力な選手を獲得して今季の優勝を目指すという方針もあり得るのです。これは日本にはない制度ですが、その年のチームの状況によって権限を使い分けることができるのでとても合理的でアメリカらしいルールだと思いませんか。

 昨今アメリカでは、インターナショナルドラフトをしようとする動きがあります。今は紳士協定で日本人選手を公明にアメリカのドラフトにはかけられないのですが、今後は広域にわたって日本も含めようという案が持ち上がっています。そうなると、日本の宝となるような有望選手が根こそぎ世界の頂点である大リーグに持っていかれてしまう恐れが出てきますよね。アメリカは世界戦略を考えているため、日本も大リーグ傘下に取り込みたいようです。日本球界は時期や制度の問題も含めてもっと真剣にこの件について審議していかなければなりません。インターナショナルドラフトはその第一歩。これからはさらに視野を広げて世界の視点から将来を見据えていかなければ日本球界の行く末も危ぶまれます。日本もアメリカの市場に参入して対等に付き合っていくためにも、アメリカに事務局を設置するなど、日頃から日米のコミッショナー同士が情報交換ができる場を作ったり、積極的にロビー活動をしていくことで、新たな発展が期待できるかもしれません。今後の動向に注目しましょう。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


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2015年7月号掲載