前半戦を振り返って

前半戦を振り返って

前半戦終了後の7月14日に「第86回オールスター戦」がオハイオ州にある"グレート・アメリカン・ボール・パーク"にて開催された

 今季、大リーグの前半戦が終了。7月14日のオールスター戦には、4年振りに日本人選手は1人も選ばれませんでした。この結果が示唆するように、今季の日本人選手はスタートダッシュから故障者の連鎖で不調は否めない状況でした。後半戦に巻き返しなるか注目していきたいところです。両リーグの順位に関しては、下馬評の予想に反したチームの低迷や躍進があり、今号は前半戦を振り返っての総括と後半戦の見どころについて解説したいと思います。

 開幕から一番の番狂わせはヒューストン・アストロズの奮闘ぶりでしょう。アメリカン・リーグ西地区で2位、そしてワイルドカード争いでも2位につけています。また、昨年29年振りのワールドシリーズ制覇は逃したものの、ア・リーグ優勝を果たしたカンザスシティ・ロイヤルズは中地区で首位を走っています。昨今、戦力アップが著しいチームではありますが、昨季で力を出し切ったと思っていたので、昨年に引き続きチームの勢いが衰えていないのは予想に反して驚いています。地元エンジェルスとドジャースは昨季同様、順当に前半戦を折り返していますが、本来の実力で言えばこの両チームがロイヤルズよりは断然上と言えるでしょう。さてロイヤルズが後半戦もこのまま爆進するのか⁉アストロズの躍進なるか。ア・リーグの後半戦の展開に注目です。

 ナショナル・リーグの東地区ではここ数年、フィラデルフィア・フィリーズは最下位から抜け出せずにいます。このチームは2007年~11年には東地区5連覇、08年にはワールドシリーズ制覇を果たしたほどの歴史ある実力派チームなんですが、不振を続ける12年以降、マイアミ・マーリンズよりも下位に甘んじています。前号でドラフト制度の仕組みについて触れましたが、ドラフトで優れた選手を獲得するために下位クラスであるならば敢えて最下位になるのも、言うなれば作戦なのかもしれません。フィリーズのような由緒ある組織であっても、そういった手段に打って出るということは、再建を見据えたチーム編成を考えた上で、来季を見込んで立て直しに入っていると言えるでしょう。

選手のセルとバイとは⁉

 今、スポーツチャンネルなどの話題はもっぱら選手のセル(Sell)とバイ(Buy)について。セルは選手を売りに出してしまうこと。バイとは、これからのチャンスに賭けて、良い選手をトレードの期日までに買うということです。セルかバイかの境界線は0.500、いわゆる勝率が5割のところがそのボーダーとなります。

 アメリカではトレードは基本的に球団の方針によって行われますが、ウェーバー公示なしでトレードできる期限として7月31日(東部時間14時)までと定められています。8月1日以降もトレードは可能ですが、その際はウェーバーにかけてトレードを通過させる必要があります。ポストシーズンに進出の可能性がある球団は戦力の充実を図るため、期限ギリギリまで下位球団からの主力選手の引き抜きを打診したりと奔走しています。だからこの時期、上位球団は下位球団の動きを必死に追いかけ偵察しているのです。

 今季、岩隈久志投手などは報道にもある通り各球団のスカウト陣が殺到しているそうです。シアトル・マリナーズは前半を終えた時点で、首位のアストロズに7ゲーム差の41勝48敗で最下位に沈んでいます。岩隈投手クラスになると今売っておかないと球団側としてはセルのタイミングを逃してしまう可能性も。だからトレードに出される確率は非常に高いと睨んでいます。たとえ、その選手が来年のチーム構想に入っているような主力だったとしても、FAで外に出る可能性は多分にあるので、FAとなり保有権を失って出て行かれる前に、トレード要員として手放し、その分、交換要員の見返りを求める方法もあるのです。特に怪我をした選手がいる球団などは、チーム成績に関係なく代替選手の獲得に必死でしょうから、そういった場合、トレードされる側の選手も自分の役割を十分に理解して、本来ならばレギュラー級の選手であっても自分の役割やポジションを変えてでもトレードに応じるなど様々です。その辺は臨機応変にギブアンドテイクなやり方は実にアメリカらしいですよね。

トレードでの注意点

 バランスの取れたトレードをすれば、チーム全体が戦力強化によって良い方向に進むのは、当然、皆さん想像がつくと思います。資金力があるからといって、豪腕投手や大砲級ばかりのツワモノを寄せ集めても、特にメインとなるような重要なポジションであればあるほど、チームのパワーバランスが一気に崩れてしまうことがあります。それは会社の組織と同様で、チームをまとめるリーダーを中心に組織作りをしているのに、皆が一斉に「俺も、俺も」と言い出してしまったら収拾がつかなくなってしまいますよね。そのためには生え抜きの核となる選手はそのままで、あくまでそのプラスαとして補強するのが賢明でしょう。後半戦でトレードの選手が加わると、一気にシーズン中の調子が一転してしまうケースも。だからこそチームカラーにうまく溶け込んでいける選手を見極めることが戦力の増強にも大いに関わってくるのです。いかにチームの流れを乱さずに戦力アップを図り後半戦を加速していけるか、が球団戦略として後半戦の流れを左右します。

日本人選手の見どころ

日本人選手の見どころ

先頭打者ホームランを放ったエンジェルスのマイク・トラウト選手率いるア・リーグが6-3でナ・リーグを破った。トラウト選手は2年連続でMVPに輝いた

 やはり一番気になるのは右手首の炎症と前腕部の張りで戦線離脱していたニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手。6月にDL(故障者リスト)から復帰して、マリナーズ戦に先発登板。7回78球を投げ3安打1失点、9奪三振の快投で復帰戦を見事に勝利で飾りましたよね。決め球のフォークボールに加えて修得したばかりのツーシームにも挑戦しているので、日本での得意なスプリッターで三振を奪う投球スタイルから、大リーグでは球速を落として打たせてとる投球スタイルに転向できるかが今後の課題と言えるでしょう。また、後半戦では覚えたばかりの球種が増えて、配球にばらつきが出ないよう、いかに自分のモノにできるかが勝敗の鍵を握るでしょう。

 右広背筋を痛めてDL入りしていた岩隈投手も、7月11日の復帰第2戦目で、前半戦最後のエンジェルス戦に先発登板。8回101球を投げ3安打無失点、6奪三振の岩隈投手らしい好投で今季、初勝利を挙げました。所属チームの低迷と自身の復調の兆しは後半戦に向けて上位球団の格好の助っ人要員として、トレード市場の目玉としても注目を集める岩隈投手ですが、ここ数年、日本人大リーガーが減少しているなか、特にこの両先発投手には頑張ってもらいたいですよね。

 左太ももの張りで開幕当初はDL入りしていたボストン・レッドソックの上原浩治投手。復帰後も精彩を欠く投球で、6月21日のロイヤルズ戦を終えた時点での防御率は3.52まで悪化していました。その後、驚異の巻き返しで防御率2.45にまで数字を上げ2勝3敗22セーブをマーク。10試合連続無失点で前半戦を締めくくりました。既に3シーズン連続で20セーブを達成。チームは前半戦、東地区最下位と落ち込んでいますが、後半戦で昨季マークしたメジャー自己最多の26セーブを更新することは必至でしょう。

 また、2年連続70試合登板の田澤純一投手は、前半戦でチームトップの39試合に登板。ファレル監督も厚い信頼を寄せていますが、以前にも述べた通り、田澤、上原の日本人リレーがこのまま続けば田澤投手にとって体力や肩の消耗が極めて激しいので、今後の投手生命について身の振り方を考える時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

 ジャイアンツの青木宣親外野手は開幕から、1番左翼のレギュラーとして67試合に出場。不運にも6月20日のドジャース戦で右足に死球を受け右腓骨の骨折でDL入りしましたが、約1カ月振りに復帰を果たしました。せっかく古豪チームに在籍しているのですから、自らが勝ち星に貢献するような日本人外野手の底力を発揮してもらいたいですよね。

 今年42歳を迎えるイチロー選手は、前半戦を終えて186打数47安打・打率2.52の成績。途中、34打席連続無安打とどちらも自己ワーストを記録。思った以上に出場の機会はあるのに、彼自身の不調がとても残念ですね。彼はどんなチームでもフィットできる逸材ですが、僕は強豪チームの控えとして出場する方が彼の存在価値が高まると思うんです。あれだけ経験豊富で場数を踏んでいる選手ですから、若手選手の育成やモチベーションを上げるためにも力のあるチームに所属して、ここぞという勝負の場面に存在感を見せつけられるような起用法であれば、まだまだ大リーグでの活躍の場を見出せるのではないでしょうか。

 前半戦を終えて、後半戦に折り返したばかり。日本人選手の動向と共に、各球団がどういった戦略で采配を振るうのか、後半戦も目が離せません。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


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2015年8月号掲載