春、夏の「全国高等学校野球選手権大会」の歩みと共に 高校球児の夢の舞台である阪神甲子園球場

  日本では夏の風物詩としてもお馴染みの「全国高等学校野球選手権大会」は今大会で第97回を迎えました。その前身にあたる「第1回全国中等学校優勝野球大会」が大正4年(1915年)に初めて開催されてから今年で100周年。「100回記念大会」と銘打った今大会では、スター候補生を次々と輩出しました。

 「スーパー1年生」との呼び声高く、台頭目覚しい逸材である早稲田実業の清宮幸太郎内野手や、類まれな容姿に恵まれた上、選手としても大躍進を見せた関東第一高校のオコエ瑠偉外野手らが大いに注目を集めました。脈々と受け継がれる高校野球史の記念すべき節目の年でもあった今夏、高校野球について自身の経験に基づいた視点から今号は話したいと思います。

高校球児は投げ過ぎ!?

 高校野球のシステムは日米で大きく異なります。アメリカの高校野球のリーグ戦では、通常、投手は1週間に1回程度の登板です。ところが、日本では連投が当たり前。甲子園ともなるとトーナメント制のため、勝ち進んだ強豪校の選手たちは毎日のように試合に出場し続けることになります。地区予選から勝ち抜いた高校球児は酷暑の中、過密な対戦スケジュールをこなし死闘を繰り返す。それが美談となって、全国民に感動を与えるのでしょうが、まだ成長過程にある高校球児の身体へのダメージは、大人が考える以上に相当なものです。

 特に肩は〝消耗品〟で、酷使し過ぎるといつかはすり減って壊れてしまうもの。世界中からトップレベルの選手が集まる大リーグでさえ、100球投げたら中4日は空けるのです。これはアメリカでは常識です。日本では昔から、若いうちは無理が利くといったような世間の風潮があり、未だに拭いきれていないような気がします。

 さて、アメリカのリトルリーグは、満9歳から12歳までの少年少女たちを対象としているため、その年頃の体格に合わせてルールや投手の使用制限など、すべて合理的に定められています。例えば投手の投球制限数として10歳以下は1日に75球、11歳と12歳は85球まで。また、投手の連投は禁じられており1日に61球以上の投球をした場合は3日、41球~60球は2日、21球~40球は1日の休息日、20球以下なら必要ないという明確なガイドラインに従わなければなりません。これは骨格が未発達な段階において、肩や肘にダメージを与えるリスクから少年少女たちを守るためだそうです。 これらの例をとっても、ベースボールの本場アメリカらしくとても理にかなっていると思いませんか?

 現在、僕の息子は大学野球に在籍していますが、普段の練習では1日投げ込んで2日休むというスケジュール。大リーグのキャンプでは1日投げ込んで1日休むというスケジュールで本番までに肩を調整しながら身体を作り上げていきます。消耗品である肩は投げ過ぎて磨耗してしまう前に、投球で使ったら適度に休ませるという癖をつけておくことで肩の関節や筋肉にかかる負荷を軽減するのです。投げ込むことが肩に負担だとして、大リーグのやり方だけを一概に肯定しているわけではありませんが、投手の育成を長い目で見ると、10代のまだ若いい時期に集中して身体やフォームの作り込みをすることは危険であるということ。そして、それらが起因となって、その先の投手生命が左右されるということに、そろそろ目を向けるべきではないでしょうか。

日本球界に警鐘を鳴らす

 トミー・ジョン手術と呼ばれる、肘に腱を移植する手術の権威として知られた故ルイス・ヨーカム医師は、ロサンゼルス・エンジェルスで36季にわたってチームドクターを務める傍ら、球団を問わず、様々な選手への診察、手術を行いました。日本人では2013年に松坂大輔投手、2012年に和田毅投手らの執刀をしました。また、昨年は靭帯の部分断裂の診断を受けて、ダルビッシュ有投手がトミー・ジョン手術に踏み切ったことは記憶に新しいですよね。

 僕も現役時代にヨーカム医師の診察を受けましたが、当時、僕の肩も野茂投手の肩も慢性的に芳しくない状態だと診断されていました。それでも投げ続けられたのは、球速のある、力でねじ伏せる王道のピッチングというよりも、冴えのある配球で相手を翻弄するような技巧派として、常に肩の浪費を抑えるよう意識していたからでしょう。そのお蔭もあって大リーガーとして9年間プレイをすることができました。ヨーカム医師からは「決して褒められる状態ではない。普通なら肩を壊していたでしょうね」と言われたことを今でも鮮明に覚えています。

 日本では試合直前まで投げ込んで肩のコンディションを整えるのが主流なため、肩が硬直した重い状態がベストだと思い込んでいる投手が案外多いのです。アメリカでは、これが肩にとって良いわけがないというのが常識ですが、日本では未だに投げ込みで肩を作り上げていくという保守派が根強く、考えられないほどの球数を投げ込ませたりしています。

 今季からソフトバンク・ホークスの所属となった松坂投手ですが、オープン戦登板後、右肩の筋肉の疲労などで離脱、未だ復帰の目処が立っていません。僕は彼がかつて高校時代、毎日200球の投げ込みをしていたことが彼の肩の故障や消耗を早めたのではないかと思っています。ダルビッシュ投手の故障も同様に、高校時代の投げ過ぎが全く関係ないとは言い切れないと思います。

 若年層の指導育成においては、指導者の判断や采配が大きく関わってきます。将来の逸材の育成を、若いうちから見守っていくことも、我々野球に関わっている大人の役目だと僕は思います。

気になる問題点と改善点

 高校野球の対戦日程はトーナメント制のため春、夏の大会ともに、勝ち進んだチームがほぼ連日出場となります。前述した投手同様に高校球児は日頃の厳しい練習や限界ギリギリの戦いに耐え、チームでその辛さを乗り越えることで、精神性が磨かれ持久力が付くと信じて疑わない指導者もまだ多くいます。もちろん野球部での活動を通じて上下関係のマナーを学び、集団行動(練習)において心身共に鍛え抜かれることは、将来社会に出た時には必ず球児の糧となり役に立つことでしょう。その一方で野球で生計を立てたい、プロになろうと考えている選手にとっては弊害になり得ることもあるのです。

 現在の高校野球には長い歴史の歩みがあり、繁栄の礎となった選手、指導者、学校関係者と大会運営・主催者皆さんの尽力に敬意を表します。その伝統を受け継いでいくこれからの高校球児のためにも、次の100年の目指す先はどこにあるのでしょうか。例えば投手の連投を防ぐために対戦スケジュールに休息日を設定するとか、リーグ戦を取り入れるなど改善方法は様々です。リーグ戦になると観る側からすると〝一発勝負〟ではないので面白みに欠けるかもしれませんが、トーナメント制で、強豪校に当たってしまったチームが初戦で敗北し、1試合しか出場できないのに対し、実力がなくても組み合わせやくじ運が良かったせいで、2回戦、3回戦まで進んでいったとしたら、球児たちにとってこんな不公平なことはないでしょう。甲子園特有の〝一夏で燃え尽きる〟といった緊迫感は薄れるかもしれませんが、高校野球だけで名を馳せて選手生命が尽きてしまうよりも、将来のイチローや田中将大投手のような日本球界の宝を、みんなで支援していこうではありませんか。100周年を迎えた今こそ、伝統とその歴史の重さ以上に革新が必要な時だと言えるのではないでしょうか。

情熱を持って革新に挑む

 実は、今漫画を出版しようと構想を練っています。主人公は公立高校に進学する野球少年で、高校1年生の時に肩を痛めて2年生では休部、3年生になって復帰後、甲子園を目指すものの直前でまた肩を痛めて断念することに。その後、大学野球で活躍してプロ野球選手になるのですが、高校時代の投げ過ぎが原因で肩を壊してしまい球界を去ることになる。その主人公が高校野球を変革するために奮闘する、というストーリー。

 自分自身の経験をなぞらえて、本来だったら自分がしたかったことを漫画の中で訴えていこうかと(笑)。半分冗談のように聞こえるかもしれませんが、僕は真剣に日本球界の未来のために、組織やシステムを抜本的に変えていけるような活動をしたいと思っています。そのためにも、一人でも僕の理念を理解してくれる賛同者を増やしたい。野球漫画を通じて、皆さんに訴求していきたいと思っています。どうか、お楽しみに!

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2015年10月号掲載