10月17日付のスポーツ欄ヘッドラインで、アニキの愛称で知られる金本知憲氏が来季の阪神タイガース監督に就任したニュースが目に飛び込んできました。僕らと同世代の監督が続々と球団の看板を背負って立つ時代になってきましたね。虎党の期待を一手に背負い重責でしょうが、金本新監督には日本球界の新時代を築いていってほしいものです。

 さて、今号は球団の総指揮官である監督に見るチーム(組織)作りや果たす役割について、僕なりの視点からお話ししたいと思います。

監督に適している人物とは?

監督に適している人物とは?

現役時代、連続試合出場1,766回の記録を持つ金本知憲新阪神監督(47)

 まず最初に皆さんも同意できるのは、現役時代に良い成績を残した選手が優れた監督になるとは限らないということです。これは一般的にも言えることですが、会社組織であっても営業や技術、事務能力が高いからといって人をまとめられるポジションに就くべき人物かとなると、そうでないことの方が多いのではないでしょうか。では、人事の際に、何を見て評価するのでしょうか。それはどこの世界においても人望です。特に監督ともなると、組織作りは人ですから、人を突き動かせる人間力がなければ、選手、球団スタッフはついてこないものです。

 では、どういったポジションが監督に適しているのでしょうか?よく例として挙げられるのは楽天イーグルスの野村元監督や、ヤクルトスワローズの古田元監督のような捕手。捕手は広い球場を一手に見渡せる位置にいるため、冷静に采配を振るいやすいと言われています。役割的にも試合の流れを引っ張るキーパーソンなので、それらの経験を踏まえて監督に適していると評価されているのでしょう。同じようにショートやキャプテンなどチームのまとめ役を経験した選手が監督に抜擢されるケースも多くあります。

 また、読売巨人軍の長嶋監督(第10代、14代)、王監督(第12代)、原監督(第15代、第17代)など華々しい経歴を持つ選手が監督に選出されるのは、ファンの強い要望でもあり、選ばれて当然と思われている人も多いかもしれませんが、前述した通り名選手=名将かというと別問題なのです。ですが、選手やスタッフを惹きつける魅力やオーラは人の言動を突き動かす原動力となり、それが球団経営にも反映されて、名物監督率いる人気球団となるのです。そうなることで、球場に押しかけるファンが増加、選手のモチベーションも上がり、その活躍により新たな人気選手が生まれ、球団経営も安定するという構図が出来上がるのです。巨人のような人気球団はトップ選手を抱える大役も重くのしかかります。これらをこなせる監督というのもそう多くはいませんから、それも名将の条件だと言えるのではないでしょうか。

 チームとの相性やカラーも関係してきます。例えば、ヤンキースのジョー・トーリ監督や原監督が別のチームの監督だったら名将となりえたかというと、僕はNOだと思います。個性的なスター選手が集まるトップ球団には、彼らのように選手を弄り回さないタイプの監督の方がフィットしやすいのです。逆に監督が率先して牽引していかなければならないような弱小チームだと、そうはうまくいかなかったかもしれません。

 オリックス・バッファローズの故仰木彬元監督は次々と選手を入れ替えて起用する仰木マジックで知られていましたが、彼が常勝チームの監督だったとしたら、レギュラー陣が面白くないと腐ったりしなかっただろうか。その辺のさじ加減は、彼はない駒を動かしながら采配を振るうのが得意でしたから、選手や球団から寄せられる信頼も厚く、絶妙なリーダーシップを発揮していましたよね。

 ソフトバンクホークスの秋山前監督は、現役時代は八面六臂の活躍でスーパースターでした。あれだけの人材が揃うソフトバンクで監督が務まったのも、彼みたいに人気、実力ともに有無を言わせない存在だったため選手も黙って付いていったのです。彼は球団にとってもアイコンのような存在だったので、まだ鉄が熱く旬な時期に監督を任せて正解だったと思います。

 大リーグも日本球界も無数の選手がいるなかで、数えられるほどの監督しかいませんよね。あらゆる条件が相まって監督に選出されるのですが、これらはすべて球団人事なのです。一概にひとくくりにして定義づけることは難しいですが、名将に共通することはどんな状況下においても、チームが今何を欲しているのか?自分の置かれた立場を理解し野球(チーム)への情熱と忍耐を持ち続けることかもしれませんね。

人気球団作りのために

人気球団作りのために

10月23日、高橋由伸コーチ兼外野手(40)が、次期巨人軍監督要請を受諾したと発表。26日に自身の現役引退と新監督就任会見を執り行った。12球団中、最年少監督が誕生した

 日米ともに共通しているのは、資金力のある球団が優れた選手を獲得できるという点。だけど、日本一の人気球団である読売巨人軍でさえ最初からあれだけの資金力を誇示していたかというと、実はそうではないんですね。ジャイアンツというブランドを時間をかけて構築していったんです。もっとわかりやすい例を挙げるとすれば、阪神タイガース。関西が誇る人気球団ですが、そのお蔭で親会社である阪神電気鉄道の赤字を今では補填しているくらいです。

 日本の球団経営においては親会社に資金力があることが前提とされるのですが、大リーグの場合、独立採算制のケースが多く、人気の高い球団を作り上げることで資金力を得て、より優秀な選手獲得につながり、さらなるファン獲得によって球団経営が安定していくという構図で、日本とは大きく異なります。人気球団であれば、その年の順位に左右されることなく、ファンはどこまでも付いてくるので球団経営は安定しています。そのためにも人気球団作りは常に重要な課題でもあるのです。

 2004年にモントリオール・エクスポズ(現ワシントン・ナショナルズ)が経営難によりチームの運営が困窮し、MLB機構が応急処置として借経営をするという悲惨な状態に陥ったことがあります。MLB機構としては、そういった事態にまで発展しないよう、公平に収益を分散するような仕組みを取り入れています。日本の球団の場合、5、6位の下位チームは監督や球団オーナーのメンツなどで絶対に最下位だけは避けるようにしますが、若手育成の機会を失くしてまでも力ずくで勝ちにいったり、故障気味のエースを無理に登板させてしまったりでは、結局、翌年も同じ轍を踏むことになるのです。

 球団戦略は1年ごとに謀るのではなく、中長期の展望にすることで、若手の育成やベテラン選手の起用法、投手の肩の消耗度に至るまで、緻密なチーム作りが監督の采配にも活かされてくるのです。また、日本球界では、まだ一部のみに適用されているドラフト制度におけるウェイバー式を、大リーグのように全導入するよう提案したいですね。そうすることによって、若手を育てながらチームの再建を図ったり、早い時点から来季を見据えた戦いに切り替えられることで球団戦略の幅も広がってくると思います。

長期展望で監督に励むべき

長期展望で監督に励むべき

巨人の第15代、17代監督を歴任。通算12季でリーグ優勝7回と3回の日本一を達成。2009年にはWBC日本代表を率いて世界一に導いた。巨人軍一筋、選手時代同様に華々しい監督の経歴を持つ。今季終了後の10月19日付で、通算12年の巨人軍監督退任を正式発表した

 もし、僕に監督のオファーが1年契約できたとしたら、まず任期が短かすぎることを主張します。これは日米において同じような傾向ですが、特にマリナーズは1~2年で監督を交代しているのが現状です。先日、原監督の就任期間が長すぎてマンネリ化しているという記事を読みましたが、誤解を恐れずに言うと僕はマンネリ化はとても大事なことだと思います。裏を返せばそれだけ監督を始め、各コーチ陣、スカウト、役員など、その大きな組織を長期にわたる展望で動かせているということではないでしょうか。畑を耕し、種を蒔き、せっせと水やりをしながら、毎日の手入れを欠かさず、ようやく実がなるものなのです。

 今回、横浜DeNAベイスターズの中畑監督が成績が振るわなかった責任をとって辞任しました。もちろん勝負の世界なので結果がすべてと言われればそれまでですが、監督が全責任を取るという日本的な慣習のままでは監督自身も成長できる機会を失い、挽回の場も与えられないのです。僕からすると、これだけ球場に観客を動員できたという点をもっと評価すべきだと思うのです。中畑監督の人柄やパフォーマンスがファンを引き寄せたとすれば、大いに貢献したと捉えるべきでしょう。

 万年下位チームが強豪チームに成長することは、そんなたやすくありません。まず、監督を始め首脳陣の任期を固定して5年なら5年の計画を立てて、中長期の視野で球団作りを見据えていく体制こそが監督を盛り立て、監督業に専念できる環境作りとなるのです。そういった球団側のサポート体制によって、球団、監督、選手が三位一体となって、強豪チームへと成長していくのかもしれません。そして、長期的な視野で真摯に取り組む球団を盛り上げる新たなファン層獲得にもつながっていけば、野球人気の底上げにもなるのではないでしょうか。

今後のあるべき監督像とは?

今後のあるべき監督像とは?

原辰徳前巨人監督(57)神奈川県出身。東海大相模高から東海大を経て、1981年にドラフト1位で巨人入団。95年に現役を引退するまで通算1,697試合に出場、1675安打、382本塁打、打率2割7分9厘、1,093打点。長嶋氏、王氏の現役引退後の巨人軍を支えた偉大な4番打者の1人

 今までにない試みとして、これからは監督が球団経営に携わっていくことで、球界がさらに進化すると僕は思っています。これまでの球界ではあり得ない古き慣習を打ち破り、監督自身が球団会議に出席したり、営業に対して人気の高い選手の起用のタイミングを提案したり、本社と球団が一体化して試行錯誤することは企業努力としてあるべき姿ではないでしょうか。

 例えば日本ハムファイターズは、斎藤祐樹投手や大谷翔平投手など、若手の人気ルーキーを抱えています。思い切った起用法として大谷投手を4番エースで登用するなど、現場と営業側が協力し合うことで、観客の反応もその場で見てわかり、結果が伴って、観客動員数に反映されてくることで、いつしか人気のバロメーターにもなると思うんです。

 既に栗山監督はそれに近いことをしていますよね。彼は現役時代、打撃よりも守備の得意な外野手でした。俊足を活かしたダイビングキャッチで中堅守備の評価が高かったことを覚えていますが、三半規管の難病であるメニエール症候群を発症。29歳の若さで現役引退を余儀なくされました。もともと朗らかな人柄で頭の回転も早く、現役引退後は長らく野球解説者を務めていました。監督就任当初から営業や球団側の意見に耳を傾ける姿勢を持っているのも、周りがよく見えているからでしょう。

 どうしても監督になると、ともすれば現場のことを知りすぎているせいか、他人の意見を聞く耳が持てなくなってしまいがちになり「俺がなんとかする。オーナーや営業は黙って見ててほしい」という距離を置いたスタンスになってしまいます。たとえ監督であっても、営業、スカウトを始め球団関係者と同調してやれるくらいでないと、長期的な視点で見ると強いチームは作れません。これからの時代はチームだけでなく、企業全体で一体化して戦っていける監督が勝てる監督になるのではないかと思っています。

 自分一人では部長止まりだということを自覚し、オーナーや他の部署のメンバーと協力してチーム(組織)作りに余念なく励む人こそが、今後のあるべき監督像になっていくのだと思います。新たな日本球界を代表する名将が僕ら世代から現れてほしいですね。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


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2015年11月号掲載