ゼロからのスタート

ゼロからのスタート
© Gene Shibuya

 ロサンゼルスにKowa Health Care Americaを立ち上げて約3年になります。妻と2人で渡米し、社員もおらず何もないところからのスタートでした。

 弊社の日本本社は創業121年の歴史があり、医薬品の分野でも「キャベジン」や「コルゲンコーワ」など認知度の高い商品がたくさんあるので、日本ではどこに行っても「あの興和さん」と認識してもらえたのですが、アメリカでは認知度ゼロ。頭では理解していたのですが、やはり社名も肩書きもまったく通用しないという現実は厳しかったですね。最初の半年は苦労しましたが、今では日本から頼れる部下も赴任して、弊社の商品も少しずつアメリカのマーケットに浸透してきました。3年間頑張ってきた確実な手応えを実感しています。

 出身は茨城です。自然に恵まれた環境で、野山を駆け回り近所の友達と忍者ごっこをしたり、昭和らしい子供時代を過ごしました。どちらかというと親分肌で、いつも子分みたいな友達を引き連れて遊び回っているような子供でした。パッと見はそう見えないようなのですが、仕事仲間には親分気質に拍車がかかっていると言われます(笑)。

 日本の田舎で外国をまったく意識せずに成長したのですが、英語を学ぶ面白さに目覚めたのは結構早くて中学時代でした。動機は不純で、きれいな英語の先生に気に入られるため(笑)。いい成績を取ろうと頑張って勉強するうち、英語が得意科目になって、最終的に大学も東京国際大学という英語や国際関係を学ぶ学校に入学しました。

人生を変える出会い

人生を変える出会い

2005年、SS製薬社長就任パーティにて壇上でスピーチをする羽鳥氏


 この歳になると、今までの人生の中で転機になるような大切な人との出会いをはっきりと認識できるものですが、私の場合も人生で3度、節目になるような大きな出会いがありました。1つ目は出会いというと大げさですが、父親の存在。実家は農家だったのですが、父は小さい時から「もう田舎で農業をやっている時代じゃない。お前は何か新しいことをやれ」と言って、私の目を広い社会に向けてくれました。

 2つ目が大学時代。国際同時通訳者としてサイマル・インターナショナルという会社で活躍されていた人と、当時の三木総理大臣の右腕的な存在で世界を回っていた故國弘正雄先生との出会いです。忙しいなか、私が通っていた大学の教授として教壇に立たれていて「これからは日本を飛び出して海外に行く時代。日本の良さをもっと世界にアピールしていかなければいけない。若い君たちがそのミッションを持って海外に出て行きなさい」と教えてくれました。先生の言葉にインスパイアされ、大学3年生の時、当時はまだ珍しかった海外留学に申し込み、オレゴンのWillamette Universityに2年間留学しました。埼玉の田舎から突然外の世界に飛び出したので、カルチャーショックも受けましたし、かなり強烈な体験でしたが、この時の経験が、その後の仕事人生に十分に生きていると思っています。

 3つ目の出会いが、留学後に入ったAVONのNY本社社長でした。AVONは130年以上の歴史を持つ古い会社だったので、女性向けの化粧品を扱っているとはいっても社長や役員はやはり男性だけ、それも社内の生え抜きで出世してきた人ばかりだったのです。ところが私が入社してしばらく、大企業病で社内に停滞感があったのか、初めて外部から女性社長を迎えたんですね。それがAndrea Jungさんでした。ある時、NYの本社から日本に出張でいらっしゃった時があって、ご一緒することができたんです。1995年当時、まだ女性社長自体が珍しかった頃、Fortune 500の「最もパワフルな女性CEO」ランキングで3年連続で2位になった雲の上の存在だったのですが、「AVONの中にグローバルブランドを立ち上げるから、NYで一緒に仕事をしないか?」とNY本社に引っ張ってもらえたんです。ちょうどAVON本社が6000億円規模の中堅企業から、1兆円台の大企業に成長した時期でした。大学時代の留学、大学院でMA取得とアメリカに住んだ経験はあったのですが、やはり世界経済の中心とも言えるNYで、英語がネイティブではないハンデを抱えた上に、一流のビジネスマンに囲まれて仕事をするのは、並大抵のストレスではありませんでしたね。ニューヨーカーって、とにかく何をするのも早いんです。電話を掛けながら歯を磨いたり、2つ、3つのことを同時進行させて、人の2倍、3倍成果を上げるような人が集まっていました。そんななか、当時流行り始めたPCのスキルを身に付け、プレゼンテーションが得意なアメリカ人に混ざって必死でスキルを磨き、AVONが得意とするワールドワイドなマーケティング術も自分のものにしようとひたすら勉強しました。そんな私にAndreaがくれた言葉が「Raise your bar」。英語がネイティブでなかろうと、マイノリティーである日本人であろうと、仕事は結果を出してナンボですからね。言い訳せず、自分の限界を引き上げて前向きに挑戦する姿勢を、当時まだ男性中心だったビジネスワールドで活躍していた彼女から学びました。

女性中心の職場で

女性中心の職場で

AVON社時代、2012年度の出発式での鏡割りの一幕。左から2人目が羽鳥氏


 99年AVONを退社後、同じく化粧品会社であるロレアルに転職しました。化粧品業界自体が急成長していた時代で、さらに世界規模で売り上げを伸ばしているトップ企業のロレアルですから栄転だと思うのですが、そうは言ってもまだ昭和の古い価値観が残っていて、周囲には「なぜ男性が化粧品会社に?」という印象もあったと思います。自分自身も仕事を説明する時、一瞬の気恥ずかしさが残っていたような気もしますね。社内も99%が女性で私が所属していた部署は、男性が5、6人しかおらず、常に両手に花の状態でした(笑)。今でこそ、男女雇用機会均等法も浸透し女性の社会進出は当たり前のことですが、当時はまだ男性中心のビジネス界で、女性の能力を最大限に生かしている最先端の会社だったと思います。性差を意識することなく男女共に働ける姿勢を、ロレアルで身に付けられたと思います。

 ロレアル退社後、エスエス製薬の社長を経て、現職としてロサンゼルスに赴任しました。

FDAの厳しい壁に阻まれ

FDAの厳しい壁に阻まれ

© Gene Shibuya

Kowaを代表する商品「バンテリン」


 赴任してきた当時は、日本本社での人気商品、「ウナコーワ」や「キューピーコーワ」、「バンテリン」などをアメリカで販売するという事業計画だったのですが、FDA(米国食品医薬品局)の審査に時間がかかり、商品を持ってくるのに数年かかることがわかったんです。赴任後いきなり、FDAという巨大な壁に阻まれた感じでした。日本から商品を持ってこられないなら、法律的に売れる商品を即興で作るしかない。それも日本の社長から委託された「日本が誇れるもの、世界に負けないものをアメリカに広げる」という夢を実現するものでなくてはならない。散々考えてまず取り掛かったのが、日本が誇る食、日本のエディブルな材料を使ったサプリメントの製造、販売でした。会社を立ち上げた以上、Time is moneyで一瞬たりともムダな時間を過ごせませんから、6カ月で商品を作って、発売を即開始しました。この時も、NYで得た仕事のスピード感と、AVON、ロレアルで学んだ商品の明確なコンセプト作り、それに伴ったマーケティングの手法が大変役に立ちました。思い付いたヒントからコンセプトを作りを始め、商品に関する調査をして情報を集め、マーケットのニーズに合わせて商品化に至るというのが、こちらで学んだマーケティングのステップです。

 アメリカでは「セルフメイドマン」っていう言葉をよく使うんですが、赴任当時の私はまさにそれでしたね。無形のヒントを有形の商品にしていくことが必要だったんです。お蔭様で今では、アメリカに進出している日系の企業では初めて、大手のドラッグストアで商品を扱ってもらえるところまでビジネスが一気に広がっています。

Kowaだからこそできること

Kowaだからこそできること

© Gene Shibuya

日本が誇る食、食材を使用して製造したサプリメント。 (左端)Okinawa Life Cognisharp (右から)Okinawa Life、Okinawa Life Immunisol


〝医食同源〟という言葉がありますが、アメリカでのブランディングにおいて、私は常にこの言葉を意識しています。自分自身が、大手化粧品会社2社での経験と、製薬会社2社での実務を通じて得た実感なのですが、美と健康を考える時、基本は食だと思うんです。表面だけ整えても長続きはしないんですね。人を良くするのもダメにするのも口に入れるものだと思うので、やはり身体の中からきれいにしていかなければ本質的な美も得られません。

 日本は先進国の中でも寿命が世界一長い国です。その理由はやはり日本の食文化にあると思います。日本が世界に勝てるもの、誇れるものがそこにあるんです。医食同源という精神もその一つ。西洋医療の発達で人の寿命はどんどん長くなっていますが、本当に大切なのは、健康寿命を長くすること。長生きできても、それが寝たきりのベッドの上では人生を充実させることはできない。思ったように身体を動かし、やりたいことができる健康体を保つことこそが長寿なのです。弊社の商品がアメリカ社会に貢献できる部分も、この健康寿命を長引かせる部分にあると思っています。Kowaの商品を通じてアクティブ&ヘルシーライフをアメリカの人たちに届けたい。これが日本人としてアメリカに来た私のミッションだと思っています。

~信条~

男の修行(山本五十六)

 苦しいこともあるだろう、云いたいこともあるだろう、不満なこともあるだろう、腹の立つこともあるだろう、泣きたいこともあるだろう、これらをじっとこらえてゆくのが、男の修行である

社名: Kowa Health Care America, Inc.
本社所在地: 20001 S. Vermont Ave.
Torrance, CA 90502
事業内容:
●サプリメントの製造販売
●「バンテリン」サポーター類の製造販売
主要取引先:
●アジアマーケット
●Walgreens
売上高:1300万ドル (2013年度))
従業員数:8名
創立:2012年
Web:www.kowahealthcare.com

Kowa Health Care America, Inc. CEO トニー羽鳥

Tony Hatorii■1954年、茨城県筑波山近くに農家の長男として生まれる。学生時代の恩師との出会いから世界に目を向けるようになり、1975年東京国際大学在籍時に米オレゴン州の大学へ2年間留学。1978年、外資系銀行に入行、1980年、オハイオ州の大学院に再び留学。卒業後、コロンビア大学ビジネススクールにて学ぶ。1981年、AVON入社。1995年、米本社社長自らに引き抜かれニューヨークへ異動。帰国後1999年、日本ロレアル株式会社入社。その後エスエス製薬、AVON社社長を経て、2012年5月、渡米。ロサンゼルスにてKowa Health Care America Inc.を立ち上げる。趣味はゴルフとカラオケ


文 = 中村洋子
2016年1月号掲載