今年も早いもので年の瀬が近付いてきました。先日、日本へ帰国し久しぶりに球場で日本選手権シリーズを観戦しました。日本シリーズ終了後には、初めての試みとして「2015世界野球WBSCプレミア12」が日本と台湾で開催され、侍ジャパンが大いに奮闘しましたね。そうやって盛り上がる一方で、現役プロ野球選手による野球賭博への関与が発覚して世間を騒がせました。そこで今号は、今年の総括と僕が考える日本球界についてお話ししたいと思います。

日本球界の在るべき姿とは

日本球界の在るべき姿とは

世界野球WBSCプレミア12に出場した侍ジャパンたち。準決勝の韓国戦で、先発の大谷翔平投手が7回1安打無失点11奪三振の好投で、韓国打線を封じ込めたが、3点リードの9回に逆転を許して3-4で敗戦。11月21日に行われた3位決定戦では7回コールド、11-1という大差でメキシコを制した

 日本と台湾で開催された世界野球WBSCプレミア12は、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)主催による、世界12カ国が参加する国全体の野球力(野球国力)を競う国際大会です。プロアマ問わずの出場資格であるため、日本はプロ全球団から選りすぐりのオールスターで挑んでいるのに対し、米国代表として出場しているのは、マイナーリーグでも下位に相当するような選手たちが出場していました。なので、日本が強くて当然だったのです。

 僕が疑問視しているのは、これは誰のために、何を目的としてやっている大会なのか?ということ。米国代表のマイナーリーガーたちにとっては、晴れの国際大会に各国の胸を借りるつもりで臨んだため、最高の経験を積める舞台となったことでしょう。しかし、残念ながら日本野球の実力の底上げにつながるかというと、日本のオールスターの実力だと勝って当たり前の格下を相手にしているようなもの。むしろ、米国を始め他国の選手の成長の場になるのを危惧しています。それよりも、日本のプロ野球界全体で人気、実力の底上げのために日本最高峰の戦いとして、日本シリーズをどうやって盛り上げるかを真剣に考えるべきで、まさにそれが足元を固めるべく取り組む大会なのでは、と僕は思います。こういった時期だからこそ、今一度日本球界の在るべき姿を見直すべきなのかもしれません。

メディアとタイアップの意義

メディアとタイアップの意義

1950年代半ば、実業団で最強を誇っていた大松監督率いる日紡貝塚が”東洋の魔女”と呼ばれ、後の東京五輪で世界一となった

 野球を始めとするスポーツは、その競技や活動、それらの選手の活躍ぶりなどを世間に広めていくには、やはりテレビや新聞などのメディアと連動することが一番効果的だと僕は思います。その昔であれば、読売テレビが読売巨人軍の全試合を中継していたことから、巨人が不動の人気を得る足がかりとなったように、もし僕がコミッショナーを任されたら、まずはテレビ局とタイアップしたマーケティングを手掛けると思います。広報ツールとしてメディアを駆使することは、球団にとっても各スポーツ界にとっても、今後さらに重要になっていく課題ではないでしょうか。

 アメリカの4大ネットワークのひとつであるFOXはNFLやMLBなどとタイアップして、スポーツに特化したFOX SPORTSという専門チャンネルを持っています。各局は放映権を得るために高額を支払うため、各スポーツが潤い、共存共栄しながら、スポーツ人気にも一役買っています。日本では今年のワールドカップで再燃したラグビー人気や、少し前の女子サッカーも然り、一過性の盛り上がりだけで終わらないようにしなければなりません。人気が定着することで競技人口や各大会、試合等の収入増加に反映されていきます。それらの長期的展望が各スポーツのコミッショナーや代表たちが牽引すべき大きな戦略になるのです。

 日本ではテレビが重要な役割を果たしているわかりやすい例のひとつがバレーボール。1964年開催の東京五輪で一世を風靡した東洋の魔女から受け継がれた女子バレーは、1984年開催のロサンゼルス五輪での銅メダル以降、人気、実力ともに低迷していた時期においても、毎年、国際大会が開催されるたびにゴールデンタイムで全国放映されてきました。そのため、お茶の間で観戦していた日本国民が、その時々に活躍した選手の名前を記憶しているのです。

 またシーズンになると大相撲の本場所が15時~18時までNHKで放映されています。アメリカのマンデーフットボールも然りESPNで放映されているように、永続的な位置付けやブランディングが肝心な訳です。

 そうやってテレビを通じて定期的に目にすることで、その競技を知り興味を持つようになるのです。そして、常習的に目にしていくうちに、いつしかファンになっていく。そうなれば、その競技を応援することが習慣化され視聴率や競技人口、人気に跳ね返ってきます。また、大きな試合や大会では、記念セレモニーや人気アーティストらのコンサートを共同開催するなどお祭り要素も多分に加えることで、日頃その競技を見ないような客層まで取り込めるのです。そして、イベントが盛り上がれば、主催者もテレビ局も興行的に儲かることで、それが、win-winのシチュエーションとなるのです。そういった全体像を見据えたマーケティングや広報戦略は、選手自身がやろうとしてできるものではないので、球団やコミッショナーなどが知恵を絞り、実施することが今後さらに必要となってくることでしょう。

野球を通じて夢膨らむ未来

野球を通じて夢膨らむ未来

大谷翔平投手(21)/日本ハムファイターズ 身長195cm、体重97kgという恵まれた体格と身体能力の持ち主。球速162kmは、日本プロ野球界では最速。二刀流右腕として今季パ・リーグでハーラートップの15勝、防御率2.24、勝率.750で最多勝利、最優秀防御率、最高勝率の投手三冠に輝いた。日米で今、最も注目される日本人投手である

 日本の球団にはもう少しエンターテインメントの要素があってもいいと思うんです。例えば日本ハムファイターズの今日の人気は、かつての新庄剛志選手のお蔭と言っても過言ではありません。新庄選手がずば抜けたエンターテインメント性を発揮し、試合のたびに見せるパフォーマンスで球団を盛り上げてきました。男女問わず当時20代、30代のファン層をたくさん獲得したからこそ、今の日本ハムの人気球団としての確固たるポジショニングがあるのです。また、その当時のファンが40代、50代になった今でも熱心に、球場に足を運んでくれているからだと僕は思います。もちろん、北海道という土地柄、周りにエンターテインメント的なものが少ないということもあったでしょうが、新庄選手の場合、野球の内容もさることながら、彼が持つ不思議なキャラクターでファンを熱狂的に惹きつけていました。日本ハムは今の人気に慢心することなく、球団をあげて大谷投手に続くスター選手の発掘や地元密着型のプロモーションなどを積極的に行い、ファンを飽きさせない創意工夫と努力を惜しまずやっているのです。残念ながら現在の日本の球団には、そういった要素や意識がまったく欠けてしまっている球団も少なくありません。

 もう一つ残念なのは、近年、子供の将来なりたい職業ランキングで野球選手が上位に入らなくなってきたことです。ひと昔前は、『巨人の星』、『タッチ』、『キャプテン翼』、『アタック№1』など、各スポーツを代表するような漫画が子供たちを夢中にさせ、皆それに憧れたものです。今ではそういった夢のある漫画も少なくなりましたね。

 引きこもりやイジメが蔓延しているような時代だからこそ、若者には何か夢中になれるものを見つけてほしい、スポーツを通じて学べることや仲間を作る素晴らしさを知ってほしい。僕らの時代でも、野球を始めるきっかけはアニメや漫画、ドラマだったりしたのですから、野球やスポーツを中心とした、新たな面白い漫画やドラマが生まれてくることで、ひとりでも変わるきっかけになるかもしれないと思っています。

 今の時代、『巨人の星』のようなスポ根ものは流行らないかもしれませんが、野球の真髄を極めるような真剣勝負の物語が逆に求められているのかもしれません。大谷翔平投手のような日本で生まれ育った生粋の日本人が、プロ野球で活躍した後に世界に立ち向かって行く物語を漫画で描くとかね。

 大げさかもしれませんが、これからの日本という国が活性化するためにも、あるいは世界で生き残っていくためにも日本人として何が必要か、まずは未来を担う子供たちに啓蒙していくために、教育的に漫画やドラマのストーリーの中に盛り込んでいくことが、ひとつの長期的戦略になるのではないでしょうか。これは何も漫画の世界に限ったことではありません。僕ら日本人がこのせちがらい世の中を若者たちにとって夢が持てる社会にするにはどうすべきか、野球やスポーツを通じて世間にどう訴求していくのか、今、真剣に模索しているところです。

外から日本を見て思うこと

外から日本を見て思うこと

大リーグでは球場施設の充実やファン感謝イベントなど、各チームが趣向を凝らした施設やサービスが楽しめる。チェース・フィールドは「プール・スイート」と呼ばれるプールとジャグジー付きの観戦エリアがあり、ライフガードが常駐する

 僕自身、97年に渡米してから、ひたすらがむしゃらに走ってきました。大リーグを引退してからは、野球を離れビジネスやゴルフなど、やりたいことが山積みで夢中でした。今、ようやく野球や日本のことに目を向ける余裕が出てきたように思います。長く日本を離れ、外側から日本を見つめ感じたことは、アメリカを始め世界に出ている日本人がもっと頑張って、母国を良くしていかなければならないということ。

 雑誌の対談をきっかけに交流のある「日本を元気にする会」の代表、松田公太氏ともたびたび話をしていることがあります。それは、僕が問題視している高校野球の仕組みや、高校球児の特に投手の肩の消耗に関して、まずは高校生をabuseしない法案を提案したい、ということ。例えば18歳以下の投手であればイニング、投球数、登板日の制限などの制定をすることで、高校野球の在り方を考えるきっかけになってほしい。

 突拍子もないことを言っているように感じるかもしれませんが、悪しき慣習やしがらみ、伝統ある組織に対して正面から立ち向かい変革しようとしても、大きな壁に阻まれて、問題地点まで声が届かない。今までの正攻法なやり方では到底、太刀打ちできないので、新しい風を吹かせるという意味でも僕なりのアプローチで一石を投じていきたいと考えています。実際に、最近アメリカのサッカー協会では10歳以下の子供にヘディングを禁止する法案を作りましたよね。高校野球に限らず、プロ野球界も同様に、古巣のオリックスを手伝うとしても、もし僕が日本にずっと暮らしていたら、結局、球団のみんなと同じ視点になってしまう。何か大きな事を動かそうとする時に、プロ野球界の中だけで物事を考えていてもダメだろうし、ありとあらゆる側面や立場から俯瞰してみることがとても大切ですよね。内側(現場であったり、日本)からではなく、外(海外)にいる立場から、出たり入ったり、あるいは外から見たり中から見たり双方向から見なければ、実際に見えるものも見えてこないものです。これを機にどんな形であれ、日本球界の現場に戻って中から外を見てみる。そうすることで、何かしら突破口が開けてくるのではないかと思っています。

 僕らのような日米の違いがわかるブレンドされた人間が中に加わることで、真のグローバル化につながれば本望です。グローバルと言っても何も世界的な広がりだけではありません。日本が変わるために世界に目を向け見聞、見識を広げることが必要とされているのだと改めて痛感しています。皆さん一人一人が日本人として誇りを持てるように、世界から日本を元気にするために外から新しい風を吹かせましょう!

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
メジャーリーグ、日本のプロ野球など野球全般から、ゴルフ、ビジネス、自己啓発コラムまで盛りだくさん


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プレーオフ予想と日本人選手の活躍を振り返る 〜vol. 19〜へ
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道徳教育と自己啓発の大切さについて 〜vol. 21〜へ
2014年の総括と新年の目標設定 〜vol. 22〜へ
求められる真のリーダーシップとは〜vol. 23〜へ
自分を売り込むセールス力を身に付ける〜vol. 24〜へ
2015年の日本人選手の展望〜vol. 25〜へ
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ルールの重要性とスポーツマンシップ〜vol. 27〜へ
新しい監督像とは?名将と呼ばれる人の条件〜vol. 32〜へ


2015年12月号掲載