The Revenant

The Revenant
©20th Century FOX

キャスト: レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ他
監督: アレハンドロ・イニャリトゥ
上映時間:156分
Rating:R(MPAA)
公開日:2016年1月8日全米ロードショー
配給会社: 20th Century FOX

壮大なスケールで見せる大自然の過酷さと美しさ

壮大なスケールで見せる大自然の過酷さと美しさ
©20th Century FOX

 『The Revenant』。日本のタイトルが『レヴェナント:蘇えりし者』となってるように、レヴェナントは帰って来た人という意味がある。それも買い物から帰って来たというような軽いものではなく、死から戻って来た人という意味だそうだ。大自然の過酷さと美しさを壮大なスケールで見せている。撮影監督は『ゼロ・グラビティ』、『バードマン』のエマニュエル・ルベツキ。昨年『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞を受賞したばかりのアレハンドロ・イニャリトゥ監督との再コラボは、さすがという言葉がぴったりだ。自然光を最大限に利用した素晴らしい大自然の撮影が観客を圧倒する。照明は一切使われていない。変わりやすい天候、気まぐれな太陽光線に振り回されながら、妥協せずに最後まで自然の流れに乗って撮り続けた執念が功を奏して、文句なく素晴らしい出来栄えになっている。堂々とした大自然とその中で命懸けで頑張り続ける人間のバランスが上手く取れていて、双方のパワーが画面上で炸裂する。壮絶さと美しさに目を見開いて呼吸を止め、吸い込まれる。すっぽり大自然に包まれてしまうような錯覚の中で、キャラクターと共に寒さを感じ、風の冷たさを感じ、雪の重さを感じ、刺すような空気を感じ、段々疲れていく足を感じ、時々顔を出す太陽の暖かさに感謝する。

 ストーリーの舞台は、1800年代初めのアメリカ西部。と言ってもネブラスカ、ワイオミング、サウスダコタ、ミズーリ周辺のことで新大陸アメリカがスタートした東海岸よりはかなり西だが、カリフォルニアなどの現在の西部に到達する以前の西部の話だ。当時の経済の中心になっていた動物の毛皮の売買に関わるファー・トラッパー(Fur Trapper)と呼ばれる毛皮猟師の生き様と毛皮猟の容赦ない争いが軸になっている。「ハリウッドの西部劇に登場する、開拓者を片っ端から狙うアメリカン・インディアンの描写とは全く違い、人間同士の理由ある戦いとして描かれているのがアレハンドロらしい」と主演のディカプリオは言う。この映画に登場する毛皮商のRocky Mountain Trading Companyを率いるキャプテン、アンドリュー・ヘンリー(ドーナル・グリーソン)もレオナルド・ディカプリオ演じる主役のヒュー・グラスも歴史上に名が残る実在した人物だ。特にヒグマに襲われながら生き残ったグラスに関する資料は、記録されたものがほとんどないこの時代には珍しく、かなりの量が残っているそうだ。

 この映画の必見シーンはいくつかあるが、グラスがヒグマに襲われメチャクチャにやられるシーンは、思わず目を画面から逸らしてしまうほど、強烈に痛い。ヒグマの一撃に骨がグシャっと潰れるサウンド・エフェクトが効果的で、ウワッと叫んで目を逸らしてしまう。虫の息のところを仲間に救われるが、その後、身動きできないままの状態で介護役の仲間に見捨てられてしまう。最後まで一緒にいるようにと命令されていながら彼を見捨てて去って行った仲間ジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディ)。息子も失い、失うものが何もなくなったグラスは、フィッツジェラルドへの復讐心だけに支えられて死から蘇る。大自然の中での人間の生命のもろさを嫌というほど思い知らされるグラスは、生きることへの希望、愛、家族、家庭の温かさなどの価値に心が和らいでいく。とはいえ自分を見殺しにしようとした男への復讐を諦めたわけではない。最後の最後まで戦いは続く。

賞レース常連のイニャリトゥ監督

賞レース常連のイニャリトゥ監督
©20th Century FOX

 イニャリトゥ監督はまたもや賞レースのポールポジションを獲得した。ゴールデン・グローブ賞では監督、作品、主演男優、音楽(坂本龍一)部門でノミネートされている(※発表は1月10日)。

 イニャリトゥ監督は人間に荒らされていない未開の大自然が残るカナダのカルガリーをロケーションとして選び、彼自身も含めたクルー&キャスト全員を西部開拓史時代にタイムトリップさせた。ファー・トラッパーの苦難を実体験して演技に入れ込んでほしいということだ。

 レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ウィル・ポールター、ドーナル・グリーソンなどのメインキャストは異口同音に「今まで体験したことがない凄いチャレンジだった」と言う。ディカプリオは 「撮影が完了した時、人間の意志の勝利とはこの事だ。諦めない強固な意志はすべての苦難を乗り越える原動力になると改めて思った」と話す。撮影中のハーディにカルガリーで会った時「アレハンドロ(イニャリトゥ監督)は狂人だよ(笑)。あり得ないよ、と思うようなチャレンジを次から次へとぶつけてくる。とんでもなくパワフルな映画ができる予感がしている」と笑っていた。

 物語の中で、グラスとネイティブ・アメリカンとの間にできたホークと呼ばれる16歳の息子(フォレスト・グッドラック)がグラスたちの旅に同行している。これは架空のキャラクターだがディカプリオがティーンエイジャーの父親役を演じたのは初めて。息子を守ろうとする父親の深い愛情を説得力を持って演じている。彼自身の父との絆を聞かれ、「父は僕の人生にもキャリアにも深く影響を与えている。若い頃は出演作の選択はほとんど彼にアドバイスしてもらった。21歳で『太陽と月に背いて』(1995年)で詩人ランボーを演じたのは父の薦めだった」と言う。学校が嫌いで夏休みが終わる頃、必ず憂鬱になってしょげていた彼を、毎年チャイナタウンにあるWishing Well(目標祈願に行く神社のようなもの)に連れて行った。「10年くらい毎年連れて行ってくれたんだ」と笑っていた。


中島由紀子

Yukiko Nakajima■ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト。ハリウッド外国人記者クラブのメンバーとして、20年以上に渡り、世界中でスターの取材を続けている。ゴールデン・グローブ賞への投票権を持つ、3人の日本人のうちの1人


2016年1月号掲載