The Big Short

The Big Short
©Paramount Pictures

キャスト: クリスチャン・ベール、ライアン・ゴズリング他
監督: アダム・マッケイ
上映時間:130分
Rating:R(MPAA)
公開日:2015年12月23日全米ロードショー
配給会社: Paramount Pictures

ブラッド・ピットがプロデュース、出演

ブラッド・ピットがプロデュース、出演
©Paramount Pictures

 『The Big Short』は2008年のアメリカ経済メルトダウンの裏側を見せている。あの時、大銀行が、大手金融会社が、いかに無責任に自分たちの利益を増やすことばかりを考えていたかが世界の眼前に暴露されたが、本作はその時の内部事情を丹念に書き上げた、マイケル・ルイスの同名ノンフィクション(邦題:『世紀の空売り—世界経済の破綻に賭けた男たち』)を基に映画化された。

 原作は2010年に出版され、NYタイムズのベストセラー・リストにも入った。マイケル・ルイスはこの他に『Moneyball』(アカデミー賞作品賞にノミネート)『The Blind Side』(サンドラ・ブロックがアカデミー賞主演女優賞を受賞)の原作者でもあり、彼のノンフィクションはハリウッドで映画化され、それがアカデミー賞に繋がるという面白い系図を見せている。特にこの『The Big Short』はブラッド・ピットがプロデュース&出演し、今年のアカデミー賞で作品賞を含む5部門にノミネートされているが、『Moneyball』もピットのプロデュース&主演でアカデミー賞6部門にノミネートされた。

 マイケル・ルイス自身、かつて「ウォール街の帝王」と呼ばれていた投資銀行ソロモン・ブラザーズで3年間債券セールスマンを務めていた。退職後、金融ジャーナリストとなったルイスは、同社の内情を実名で暴露した『Liar’s Poker』 (1989年出版)を出版し、当時のCEOらを辞任に追い込んだ。

 この映画は巨大銀行が操る不動産バブルの欠陥を見抜き、それを利用して大儲けしたストック・トレーダーたちの裏側を描いている。中味のない住宅ローン担保証券をいかにも優良金融商品のようにパッケージして売りまくった巨大銀行とそれに加担した大手金融会社。その落とし穴に目を付け、世界経済破綻に賭けた男たちの話なのだ。

 住宅ローンを増加させるために、普通なら銀行が貸し付けをしない経済状態の人たちにもローンを可能にして家を買わせ、不動産バブルを目一杯に膨張させていった。このサブプライム住宅ローンを仕組んだのが大銀行。その上、安全で高利益な投資のように見せかけて住宅ローンを絡ませたCDO(債務担保証券)売買を続け、私利私欲に走った金融関係者たちの行動が破綻のスタート。

 株式市場の動きを観察していて、何かが違うと不動産バブル崩壊近しを最初に察知したのがこの映画の主人公4人のうちの一人、一匹狼トレーダーのマイケル・バリー(クリスチャン・ベール)。神経科の医者であり、天才数学者でもあるトレーダーの彼は、市場はとんでもない間違った方向に向かっていると周りに警告するが誰も耳を貸さない。バブルなどないと言い切るウォール街の重鎮たち。マイケル・バリー本人に会ったベールは彼のことを「利他主義で、自分のことしか考えないウォール・ストリート・タイプとは正反対の人物だ」と話す。

 とは言え、彼自身バブル崩壊、経済メルトダウンの正確な日付まで見抜いていながら、それに乗っかって何億ドルという大儲けをした。トレーダーとしての彼は投資&膨大な利益のチャンスを見逃すことはできない。それを利用して短期間で早い動きを見せる〝short〟でギャンブルした。自分だけではなくクライアントたちにもその何倍もの儲けを出したという。彼に続き株式市場のミステリアスな動きに気が付き、それをうまく利用してひと儲けしようと企んだトレーダーが他にもいた。ジャレッド・ベネット(ライアン・ゴズリング)、マーク・ボーム(スティーブ・カレル)、ベン・リカート(ピット)だ。

ウォール・ストリートの表と裏を描く様々な映画

ウォール・ストリートの表と裏を描く様々な映画
©Paramount Pictures

 株式市場、貪欲なトレーダーたち、膨大な利益、その影で泣く犠牲者…と聞くと、レオナルド・ディカプリオが主演しマーティン・スコセッシが監督した『The Wolf of Wall Street』を思い出す人もいるだろう。『The Wolf …』は一人の男、ジョーダン・ベルフォートのハチャメチャ悪徳人生と大膨張した個人資産、底なしの浪費、そこに到達する過程での違法行為を追及され、自分のやったことの責任を取らされ、悪いことをすると罰せられるのだ、と思える話だった。

 一方、『The Big Short』に登場する真面目な顔で嘘つきポーカーをするウォール街の狼たちは、これだけの経済破綻を引き起こし、何百万人という勤勉な人たちが家を失い、仕事を失い、ホームレスになった事実や老後の生活のために貯めた年金を全部失った人たちの大悲劇に対して、責任を取らされた人がほとんど皆無、という恐ろしく悔しい結果が伴う話なのだ。儲けは自分のもの、損は国民の税金で処理、という巨大金融機構の間違いだらけのシステムは、治らない持病のようなものだと言われている。「この映画はウォール・ストリートの狼トレーダーの話ではない。ウォール・ストリートの動きを見て、何かおかしいと見抜いた外部トレーダーたちの話だ」とマッケイ監督は言う。『Anchorman』や 『Ant Man』などコメディー監督として知られており、アメリカ経済のメルトダウンの背景を描くストーリーとは結びつかない。だが、経済用語が飛び交う難題に笑える部分を織り込んで見やすくしてくれている。金融機構が過度に複雑な上に、大銀行のパワーが〝too big to fall 〟、つまり大きすぎて潰せない状態の今、結局彼らは責任を追及されることなく、また同様の経済破綻が繰り返されると信じている人は少なくない。

 『99 Homes』というインパクトのある映画を観てほしい。システムの犠牲になりローンが払えなくて自分の家を追い出される人たちの話をストレートに見せている。『The Big Short』と、この映画を観ればアメリカ資本主義の陰影がはっきり見える。


中島由紀子

Yukiko Nakajima■ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト。ハリウッド外国人記者クラブのメンバーとして、20年以上に渡り、世界中でスターの取材を続けている。ゴールデン・グローブ賞への投票権を持つ、3人の日本人のうちの1人


2016年2月号掲載