「己と向き合う」スポーツ

「己と向き合う」スポーツ

ウォーターハザードからの見事なリカバリーショットで優勝した息子のビル・ハース選手と父ジェイ・ハース選手

 大リーグで現役選手として活躍している時から、ゴルフを続けています。当時はチームメイトに誘われてお付き合いがてら息抜きのためにやっていましたが、もともと凝り性で勝負になると負けん気が強い性格。やればやるほどその魅力にハマって、真剣に練習するようになりました。ゴルフは何歳からでも始められて、自己啓発にも最適なスポーツです。今号はその魅力を余すところなく紹介したいと思います。

 ゴルフは、スコアで順位を競い合うスポーツですが、「自分との勝負」でもあります。ゴルフには原則として相手はいません。この「自分との勝負」という点では、マラソンも同様で、一斉にスタートしたらゴールまで皆、同じ条件の下ひた走るという競技性においてはゴルフと共通しています。一緒に走っている(プレイしている)相手が遅れ(ミス)をとろうが、前を走ろうが、メンタル面の駆け引きには影響があるにせよ、基本的には自分の成績(スコア)に何の影響も及ぼしませんよね。ゴルフも通常、ラウンドを回る時は3人、もしくは4人1組となってスタートしますが、競技が始まってからはあくまで自分との勝負なのです。

 私の主観ですがゴルフでは必ずミスをします。だからこそ18ホールを回るなかで、いかにそのミスを減らし、起こったミスに対して善処できるか、という競技であると考えています。皆さんも経験があるかもしれませんが、コースを回っているとショットのミスに苛立ってモノにあ たったり、周囲の雰囲気を台無しにする人を目にしませんか?たとえ自分に対する怒りだとしても、はたから見れば見苦しいものです。どんな局面(OB、ミスショット)においても、日頃から平常心を保ち、禅問答のように自分を許したり、内観しながら精神性を磨いています。ゴルフを極めれば極めるほどに、テクニックよりもメンタルが問われる競技なのだと実感しています。

 2013年にイチロー選手が日米通算4000本安打を達成した際のインタビューで、「4000本安打で、僕の場合、8000回以上悔しい思いをしている。その悔しさと常に向き合ってきた事実は誇れると思いますね」と答えています。イチロー選手の言葉が物語っているのは、どれほどの練習と努力を積み重ねても、4000本安打(ゴール)に到達するまでにはそれ以上の失敗や苦悩を繰り返してきたということ。それを、どう受け入れ、乗り越えてきたのかがすべてだということです。

 ゴルフの場合は、1ラウンド18ホール中にミスショットがたくさんあります。トッププロでも1ラウンド中に7回前後、私たちだとその倍以上はなんらかのミスをするわけです。ミスと言ってもスコアに直結するミスとしない場合がありますが、直結しないミスだったとしても怒りをあらわにした不安定な精神状態を引きずっていては、結局次のショットに影響を及ぼしてしまうことが多々起こりえます。暗にやせ我慢する必要性を説いているわけではありませんが、起こるミスショットをどう受け止め向き合うかが、その後のゴルフの上達にも現れてくるように思います。起こってしまったミスを悔やんでも仕方がありません。残りのラウンドがあれば気持ちを切り替え、次は後悔しない一打を打てるように、マインドをリセットし直すことが賢明の努力と言えるでしょう。

 当然スポーツですから、ミスをした瞬間は頭に血が上ってもいいんです。私もたまにあります(笑)。その後の切り替えが大切で、「こんな傾斜から打たないといけないけど、どうやってグリーンに乗せようか」と苦しい状況もチャレンジと捉えて、敢えて楽しめる人がゴルフにも逆境にも強い人なのだと思います。

 近年メディアでは、飛距離を誇る選手や、スコアにばかり注目しがちですが、忘れられないのは、2011年のUS-PGAツアーのプレーオフシリーズ最終戦で見せたビル・ハースの奇跡のリカバリーショット。優勝争いは2世プロのビル・ハースとハンター・メイハンのプレーオフにもつれ込みました。そのプレーオフ2ホール目の17番パー4。ハースの2打目が池に転がり勝負がついたと思いきや、巧妙なウォーターショットでリカバリーに成功。これで流れを呼び込み、プレーオフ3ホール目の18番では、ハースがパー。かたやメイハンがボギーとなりドラマチックに優勝を決めたことが強烈に印象として残っています。絶体絶命の窮地に追い込まれた時でも、自分を立て直し、最後まで勝負を諦めない屈強な精神をどうやって育くんだのか、とても興味深いものがあります。

 私自身、スーパーショットよりもリカバリーショットに心血を注いでいます。どのスポーツにも共通することですが、ミスをした時にパニックに陥ると次のミスを誘発してしまいます。ゴルフの場合はこれが顕著に現れます。しかも、野球であれば選手交代が可能ですが、ゴルフだと体調不良以外の棄権はできないのです。そうやってホールの途中で勝負がついたとしても、優勝だけがゴールではありません。残りの17番、18番ホールを適当に終わらせるのではなく、最後の瞬間まで手加減せずに諦めない粘り強さが、次の試合に繋がると私は信じています。

 18ホールを回っている間にも山あり谷あり、苦難と向き合い克服していくことで本来のゴルフの楽しさを味わうことができるのです。その幾多の試練を乗り越えていく姿はまさに人生そのもの。それこそがゴルフの醍醐味だと言えるのではないでしょうか。

究極のメンタルスポーツ

究極のメンタルスポーツ

今後が期待される若手のホープ松山英樹選手

 ゴルフに関わらず4~5時間を要するような展開の遅いスポーツであればあるほど、プレイしている実働時間というのはそんなに長くはないものです。バスケットボールやテニス、卓球などのスピード感があって対戦相手がいる競技では、ボールを奪い合ったり打ち返したりしながら、特にラリーの応酬では瞬間の集中力と判断力が求められます。

 野球は基本的には対戦相手と交互に守備と攻撃を9イニングまで繰り返し、延長ともなればさらに長丁場となるため、それらの両面を持ち合わせた競技と言えます。メンタルを強化する目的は、本番で実力を発揮できるようにすることですが、野球のような長時間勝負において、メンタルが必要とされるのは、実は待ち時間なのです。守備であればボールがどこに飛んでくるかわからないので、常に構えの態勢を保たなければなりません。攻撃であっても、最初の打席に立ったあと次の順番までに1時間かかることも度々です。勝負のプレッシャーと戦いながら集中力を保持し、前の打席でアウトだった場合でも次の打席までにメンタルを回復してリセットしなければなりません。特に野手はボールに触れる場面がなくても心身ともに万全の態勢でいることを求められます。

 ゴルフの場合、プロゴルファーであっても1ゲーム中、パッティングまでカウントしても70前後のスイング勝負となります。ゴルフも長時間かかるラウンドでは、スイングで身体を使う以上に移動時間や待ち時間でメンタル面が重視され、一打一打に対する集中力が勝負の鍵となるのです。このように私が大リーグ時代を経てゴルフに夢中になれたのは、究極のメンタルスポーツだという競技性が大きく影響しているのかもしれませんね。

ゴルフと人生の共通点

 こうやってゴルフを分析すればするほど、ゴルフと人生は共通していると思いませんか?隣の芝生が青く見えるように、隣の人の人生が羨ましく見えるのも人間らしい心理だと思います。人生であれゴルフであれ、楽しいことばかりでも苦しいことばかりでも、きっとないはず。一発逆転はなくて、日々、鍛錬の積み重ねなのです。ゴルフにたとえるならば、コース(人生)をどう攻略するか。自分なりの答えを探しながら、困難な局面でもいかにそれを覆して謳歌できるかが最大のテーマです。

 そして、人生に審判が存在しないように、ゴルフではオフィシャルな大会であっても大前提として競技者自身が審判です。誰も見ていないからこそ自らを律して公正に申告しなければなりません。マラソンと同じように、プレイ中に己と向き合い、己に打ち勝たなければならない厳しいスポーツでもあります。それが紳士たるスポーツの所以なのです。また、野球やバスケット、バレーボールのように、身長や体格などの身体的な優位性よりも「技量と経験」がモノを言います。ゴルフは基本的に何歳になっても始められ練習を積み重ねれば、その日からプロのようなショットを飛ばすことはできなくとも、努力次第で腕をあげていくことができるスポーツだと思います。

 ゴルフは私にとって、より人生を豊かにしてくれる境地であり、苦楽を与えてくれる人生の縮図そのものなのです。皆さんもぜひ打ちっ放しから始めてみてはいかがでしょうか。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2016年2月号掲載