レッドカーペットの現場から
6年連続で挑んだミッション

レッドカーペットの現場から<br>6年連続で挑んだミッション

生中継本番直前の武田梨奈さんと記念の一枚。
なんと『E!』チャンネルのライアン・シークレストの真横という恵まれたスポットで僕らはインタビュー

Oscars®


 今年も米国映画界の最高峰の式典、アカデミー賞授賞式のレッドカーペットに行ってきました。テレビカメラを通して、日本で視聴してくださっている映画ファンの皆さんに、ノミニーやプレゼンターたちの生の声や、会場の雰囲気をお伝えするのがもちろん最大の目的ですが、僕にとっては同時に、自分が現在身を置いている米国の映画やテレビ業界への恩返しでもあるんです。米国の優秀作品や人材の情報を日本市場に伝える使命を背負っていますから。俳優としても、お世話になっている業界のシステムの魅力を存分に伝えたいと思っています。

 僕が初めてアカデミー賞授賞式のレッドカーペット中継のインタビュアーに起用されたのは、2011年。日本で独占生中継の権利を持つWOWOWから、米国生活3年目を迎えていた自分に依頼が舞い込んだのでした。

 僕は、出演作である映画『硫黄島からの手紙』が2007年のアカデミー賞に4部門ノミネートされ1部門受賞したタイミングで米国に渡り、その後テレビドラマの『HEROES』(NBC)や『FlashForward』(ABC)に出演していたこともあり、業界の内側からの視点でレポートし、インタビューに挑むという役割を担うことになって、今年で6回目の挑戦!あの場の高鳴る緊張感は特別で、いつも初心のように身が引き締まります。

レッドカーペットは分刻みの戦場
〝We all dream in gold.〟

レッドカーペットは分刻みの戦場 <br>〝We all dream in gold.〟

(左)ノミニーやプレゼンターが到着後、初めて報道陣に姿を見せる、レッドカーペット入り口。ここがフォトセッションの場となり、大量のフラッシュを浴びる

(右)WOWOWの現地の中継基地。壁には今年のポスターがズラリ!「We all dream in gold.」の文字が輝く

Oscars®

 2016年のオスカーは、この言葉がキャッチフレーズでした。「私たちは皆、黄金の夢を見る」といったところでしょうか。このフレーズ通り、レッドカーペット周辺は金色を基調に飾られ、例年と比べても一層豪華さが増していました。世界200カ国以上で放送されているため、レッドカーペット脇には取材陣のカメラが多数並び、ハリウッド大通りに150メートルほど続く赤絨毯の道のりは壮観です。約700人が入る観覧スタンドからはコンサート会場のような黄色い歓声が上がります。何度足を踏み入れてもテンションが上がる、映画人にとっての憧れの場所です。

 6年目となった今年は、当然、インタビューの仕事の精度に期待もかかります。ここ数年間で僕の立ち位置は固定され、日本からゲスト・レポーターとして女優さんや俳優さんを招くスタイルに変わっています。僕は、〝固定〟されたと言っても、30歳代後半からアメリカに渡ってきたので、もちろん英語ネイティブではありません。インタビューでAリスト(業界のトップ級)のスターたちと向き合う時間は、脳がフル回転です。スターが伴うパブリシスト(広報担当者)と瞬時にインタビュー依頼の交渉をし、成立すれば英語で撮影秘話などを簡潔に伺い、その合間に笑顔で日本語での実況コメントを東京のスタジオに伝えていくのは、全神経を集中させる作業です。もちろんカメラ目線で…(笑)!! パブリシストを伴って歩いて来るノミニーやプレゼンターたちが、実際に立ち止まってくれるのは、1分…いや、数十秒なんていう時もあります。中継の一瞬一瞬の間に、スターたちから興味深い、映画通も唸るようなコメントを引き出すというのは、高いハードルです。WOWOWの東京のスタジオとつながる生中継は1時間。でも現地では、その前後もレッドカーペット上でのインタビューの収録は続きます。トータルで約3時間。入場のセキュリティーが厳しいカーペットの取材ブースではトイレに行くことも許されません。ただ実際は、あまりの興奮にトイレに行くことなど完全に忘れてしまいますけどね(笑)。

ハリウッドの伝説のアクションスターを直撃!?

ハリウッドの伝説のアクションスターを直撃!?

(左)『スティーブ・ジョブズ』で難役に挑んだケイト・ウィンスレット。ゴールデングローブ賞と、英国アカデミー賞受賞の勢いそのままに、オスカーのレッドカーペットに登場。素晴らしいオーラの美しさ

(右)きっと日本でただ一人!!オスカー助演男優賞候補の目玉シルベスター・スタローンの拳に触れた武田梨奈さん。後ろ姿でも興奮が伝わる一枚


 今年のインタビューのお相手を務めてくれたのは、映画『進撃の巨人』や『ハイキック・ガール!』などで目覚ましい活躍をしている女優の武田梨奈さん。艶やかなヴィンテージの着物に身を包んだ武田さんの背にも、オスカーのイメージに合わせた金色の帯が輝いていました。彼女がぜひインタビューを成功させたいと思っていたのが、『クリード チャンプを継ぐ男』で助演男優賞にノミネートされていた大注目のシルベスター・スタローン。武田さんは空手の有段者で、アクション女優でもあるので、スタローンに話を伺うのは念願だったのです。

 1976年以来、40年ぶりにオスカーにノミネートされたスタローン。すべてのメディアが注目する存在ですから、僕ら外国のテレビ局のカメラの前に立ち止まってくれる保証などもちろんありません。ところがなんと、交渉が成立!!スタローンを僕らのカメラの前に呼び込むことができました。スタローンの風格、余裕のあるムードは実に格好良く、懸命に交渉する僕らに向けて、広報担当者の背後からウインクしてくれていました。武田さんは「拳を触ってもいいですか?」と彼に直接お願いし、触らせてもらっていました。彼女にとって最高の体験になったことは、僕や中継チームのスタッフにとっても喜ばしいことです。時間が限られているので、僕は彼にシンプルに問いかけました。「ひとつだけ伺います。〝ロッキー・バルボア〟とは、あなたにとって何ですか?」。彼は迷いなく、こう答えてくれました。「ロッキー・バルボアは誇り高い人間さ。学(教育)はないかもしれないけれど、魂とハート、それが彼の英知であり、キャラクターなんだ」。そして最後まで笑顔、そして再びウインクで締めてくれました。

 さらに、今年は幸運も重なり、バラエティーに富んだ顔ぶれに迫ることができたんです。その一部をご紹介すると…。見事10部門にノミネートを果たした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のジョージ・ミラー監督。日本でも人気の高かったこの作品の監督をキャッチでき、テンションは上がりました。ミラー監督には、「What a lovely day!!」と、開口一番話しかけました。これは、映画のなかで最も有名になったセリフなんです。その言葉に、「そうだね!とってもlovely dayだ」と答えてくれると、さらに「マッドマックスは、最初の作品から日本でかなりの反響だったからね、嬉しいよね!」と、日本の映画ファンの熱に対する思いを、カメラに向かって饒舌に語ってくれました。

 『リリーのすべて』の情感溢れる演技で観る者の涙を誘い、助演女優賞を獲得したアリシア・ヴィキャンデル。まるで『美女と野獣』のベルのような鮮やかな黄色のドレスがとても可愛らしく、自然で魅力的でした。彼女は、視覚効果賞を受賞した『エクス・マキナ』で主演しており、本年度の新星たちのなかでは最も注目されたと言っても過言ではありません。「How are you?」と自分から話しかけてくれる気さくさが素敵で「今年はあなたの年だったね!勢いはあなたが持ってる!」と語りかけると、「凄い旅って言える年だったわ。優れた人たちと、素晴らしい仕事ができたことが幸せ」と嬉しそうに答えてくれました。「共演のエディ・レッドメインに、女性の仕草・佇まいを教えたって聞いたけど…?」と質問すると、「誰がそんなこと言ったの?学んだのは私の方かも。彼はトランスジェンダーの女性たちからもたくさんサポートを受けて参考にして、役を作り上げていたの」と、主演のレッドメインへの敬意を熱く語ってくれました。

 プレゼンターのなかで捕まえたのは、まさしくタイムリーなヒーロー。まもなく公開となる、DCコミック映画『バットマン VS スーパーマン ジャスティスの誕生』 でスーパーマンを演じているヘンリー・カヴィル。巷に溢れている映画ポスターのスーパーマンの硬派な表情とは打って変わった明るい柔和な表情で対応してくれた彼でしたが、「ちょっと映画の秘密を教えてくれますか!」とねだってみると、「この作品についてはトップシークレットだからね、一切語れないんだよ…」と、サラッと紳士的に巧く質問を交わしていました。

 さらに、日本の映画ファンも喜んでくれたのが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の主演レイ役で一躍世界的スターになったデイジー・リドリーです。彼女は2月に米国で英語吹き替え版が初公開となったスタジオジブリのアニメ『おもひでぽろぽろ』〝ONLY YESTERDAY〟で主人公の声を演じており、もちろんそのことを聞いてみると「そうよ、タカハタ(高畑勲監督)よ!あぁ…もう最高だったわ。ビジュアルが驚くほど美しくって…」と、ジブリ作品の世界に飛び込めた感動を満面の笑みで語ってくれました。

 僕がファンになってしまったのは、『スティーブ・ジョブズ』の難役で助演女優賞にノミネートされていたケイト・ウィンスレット。ゴールデングローブ賞と英国アカデミー賞を獲得していました。「ジョアンナ・ホフマン(実在の人物。ジョブズの右腕的存在)という難しい役柄でしたね。なぜこのチャレンジングな役に挑もうと決めたんですか?」と問うと、「脚本にアーロン・ソーキンの名があったの。彼の名が入った脚本が届くのは、優れた俳優っていう証明のはず。読んでみて、本当にとてつもない挑戦だと感じたけど、マイケル・ファスベンダーダニー・ボイル監督との仕事、すべてが私に決断させたの!」と誇らしげな表情で語ってくれました。

 行き交う女優陣のドレス姿も本当にゴージャスでした。残念ながらインタビューは叶わなかったものの、大変細かな刺繍をあしらった白のドレスに身を包み、キッチリと髪をアップにまとめたルーニー・マーラや、胸元に大胆な切り込みが入った真紅のドレスが似合うシャーリーズ・セロン、そして両肩を露出した純白のパンツスタイルのレディ・ガガ、この3人には特に目を奪われました。この上ない「完璧な装い!」と言える見事さでした。

 授賞式直前の夕刻、僕がレッドカーペットでぜひとも話を聞いてみたかったのが、レオナルド・ディカプリオ(『レヴェナント:蘇えりし者』)でしたが、さすがに彼は本年度の最大の目玉としてメディアに引っ張りだこで、授賞式の中継局ABCを中心とした有力メディア数社にしか答える時間がなく、捕まえられず残念でした。

 ディカプリオだけでなく、ほとんどの主演候補は各国報道陣の前を足早に進まなければならなかったので仕方がないんですけどね。そのなかでも、『TRUMBO』のブライアン・クランストンと『スティーブ・ジョブズ』のマイケル・ファスベンダーは、我々のカメラレンズの向こうにいる日本のファンに向けて、急ぎながらも挨拶をしてくれたんですよ!クランストンは日本語で「コンニチワ!!」と。『ゴジラ』出演時に、日本人キャストから習ったのかもしれませんね。


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