特別インタビュー|歌手 美川憲一氏

特別インタビュー|歌手 美川憲一氏

Photo by Emi Weinsieder


大ヒット曲「柳ケ瀬ブルース」や「さそり座の女」で知られる美川憲一さん。デビュー50周年を迎えた昨年は「第57回レコード大賞功労賞」を受賞。休暇中のロサンゼルスで、ロングインタビューを行った。

こだわりのLAライフ フリーマーケット巡り

こだわりのLAライフ フリーマーケット巡り

Girls Award by 2012 AUTUMN/WINTERにシークレットゲストとして登場。テクノ調にアレンジされた「さそり座の女」を披露し、若者で埋まった会場を湧かせた

 ロスにはね、年に3回は来てるの。空気感が大好きで、気候もいいしね。自宅マンションがあるエリアは、景色も素晴らしくてエネルギーを浄化できるところなの。このマンションを買ったのは、7、8年前かな。ここ何年かはロスを拠点にして、年末年始をラスベガスで過ごしてるの。今回は研ナオコさんとはるな愛ちゃんも一緒で、アメリカに住んでるお友だちも来て、総勢24、25名もいて凄く楽しかったわよ。ロスで息抜きして、帰ったら翌日から仕事をするから、私のなかでは時差ぼけはないの。しっかり仕事して、しっかりお休みを取って、というローテーションでやってるんだけど、やっぱりロスは楽しいわよね。

 初めてロスに来たのは昭和46年だったかな。その後、頻繁に来るようになって、マンションを買おうって話になった時、大好きなパリ、ニューヨークやハワイの物件も見たんだけど、やっぱりロスに買うのが夢だったのよね。私には家庭があるわけじゃないし、もともと家に対する執着はないんですよ。基本的に眠れればどこでもいいタイプなの。ただしインテリアにはこだわりがあるから、自分の好きなもの以外は一切置いてないの。だからこのマンションにあるものは、すべて自分で買ってきてコーディネートしたものばかり。もし仮に私が芸能界に入ってなかったらデザイナーになれたと思うわよ。今日もサンタモニカのフリーマーケットで女性もののレースの洋服を見つけたの。これを裁断してビーズつけてもらおうかなって。そういう遊び心が好き。商品を見てるとイメージが湧いちゃうの。ちなみに今日着ているシャツは、パサデナのローズボウルフリーマーケットで買ったもので20ドルよ(笑)。カシミアのセーターとドルチェ&ガッバーナのパンツと合わせてみたわ。ファッションって、ただお金をかければいいってものじゃないのよね。高価でも自分が好きじゃないと、良いものにはならない。仕事の衣装はほぼ自前で、生地選びから裁断まで、すべて関わってるのよ。だからショッピングは大好き。ロスではフリーマーケット巡りが好きで、洋服やアクセサリー、家具とかを丹念に見て回るの。なかには普通の人なら到底欲しがらないようなものも買ったりするんだけど、結構仕事で使ってるのよね。以前、タイのバンコクで緑の口紅を買ったんだけど、3年前に「Girls Award by 2012 AUTUMN/WINTER」に出演した時の蝶々の衣装にぴったりだったわ。買った時は「使う機会なんかないわよ」って、周りにさんざん言われたけど、やっぱり自分がいいなと思ったら買っとくものなのよ(笑)。たまにドラマや取材に使う小物なんかも、私物を提供したりしてるわね。スタイリストやコーディネーターのお友達もいるけど、「美川さんは、他人がなかなか集められないものを持ってる」って言われたわ。私にしてみれば、まぁ当然なんだけど(笑)。

どん底での心意気 自身を磨く“一流”の感覚

どん底での心意気 自身を磨く“一流”の感覚

1999年から毎年シャンソンコンサートを開催。淡谷のり子の紹介で知り合ったシャンソン歌手の越路吹雪から大きな影響を受けたという

 このファッションやライフスタイルに対する〝感覚〟っていうのが、私が今も仕事で頑張っていられる秘訣なのかなって思うの。私は1965年に歌手デビューして、翌年「柳ケ瀬ブルース」というヒット曲に恵まれ、順風満帆な芸能生活を送ってきたけれど、その後、長いスランプに陥ったのよ。でも「どんな時も、一流のもの、良いものを身にまとっていたい」という心意気はずっと持ってたわ。ヒット曲がある時は、テレビに出たり、大きなステージで何度もリサイタルを開いたけれど、自分の失敗もあって、だんだん潮が引くように少なくなって。幸いお仕事がなくなることはなかったから、生活に困ることはなかったし、これが現実だから仕方がないと思っていましたけど、それでもきつかったですよね。

 そんな頃に、ビバリーヒルズのブティックで、あるジャケットに一目惚れしちゃってね。メタリックのようなスパンコールでできていて、ヤシの木と蛇をあしらった斬新なデザインなの。30年以上も前の話だけど、当時でも1万4000~5000ドルはしたかしら。しかも、事前に行ったラスベガスで遊んでお金を全部すっちゃったから持ち金はなし。でもどうしても諦めきれない。私は欲しいものはどんなことをしてでも手に入れる怖いタイプなのよ(笑)。それでいったん日本に帰って、お金をかき集めて、そのジャケットを買うだけのために、1泊3日でロスにまた戻ってきたの。

 普通なら、スランプ時にそんな衝動買いなんてありえないじゃないですか。でも私は一流のものを着てないと、許せないのよね。自分がすさむのがイヤなのよ。他人からそう見られるのもイヤ。その頃が私としては一番大変だったんだけど、だからこそお金を使わなきゃいけないと思ってたの。買った後、当時回っていた温泉営業の時に衣装として着たら、ファンの皆さんもとても喜んでくれてね。今でも、そのジャケットだけは思い出の品だから手放さないで持ってるわ。私にとってファッションは、仕事で自身をもっと磨くために欠かせないものなのよ。そしてこの〝感覚〟は、私の2人の母の影響が大きいのかもしれないわね。


歌手 美川憲一氏

Kenichi Mikawa■本名:百瀬由一(ももせ よしかず)1946年長野県生まれ。東宝芸能学校を経て、64年大映ニューフェイスに合格。翌年クラウンレコードよりデビュー。66年にシングル「柳ケ瀬ブルース」を発売しミリオンセラーとなる。68年、第19回NHK紅白歌合戦に初出場。75年、NHKホールで初リサイタルを開催する。89年に放送された「オールスター爆笑ものまね紅白歌合戦!!」出演を機にバラエティー番組に活躍の場を広げ、幅広い世代で人気を獲得する。99年からはシャンソンコンサートを開催。デビュー50周年を迎えた2015年に「第57回日本レコード大賞功労賞」を受賞
【オフィシャルサイト】www.kenichimikawa.com


生まれ変わるなら女でも男でもなく、もう一度“美川憲一”になりたいわ〜その2〜へ


2016年02月号掲載