Eye in the Sky

Eye in the Sky
©Bleecker Street

キャスト: ヘレン・ミレン、アーロン・ポール他
監督: ギャヴィン・フッド
上映時間: 102分
Rating: R(MPAA)
公開日:2016年4月1日全米ロードショー
配給会社: Bleecker Street

ドローン戦争の裏側を描くスリラードラマ

ドローン戦争の裏側を描くスリラードラマ
©Bleecker Street


 英国映画『Eye in the Sky』は、ビデオゲームのように画面上の遠隔操作で無人機のドローンを使って戦争をするドローン戦争をテーマに、近い将来に起こりうる戦争の現実が描かれている。画面に映る標的のテロリストを目で追いながら “Capture(捕獲)” か “Kill(殺害)” かの決定を迫られた時に揺らぐ人間の良心。軍の目的である敵を破壊するというミッションと、自分の中のモラルとのぶつかり合い。ドローン戦争の舞台裏を写し出す。

 2015年にアメリカ軍がアフガニスタンの病院をドローン攻撃で破壊した後、民間人の犠牲者も出したことを認めている。1年前にも『Good Kill』(2014年)でアンドリュー・ニコル監督がドローン戦争における人間のモラルの葛藤を扱ったが、『Eye in the Sky』はドローン戦争が生み出す国際的な波紋を含め、テーマの描き方がクリアでサスペンスも見事に臨場感がある。『Good Kill』同様、テクノロジーの発達とヒューマニティー欠如の戦争に対する疑問を投げかける。無差別テロが横行する現在、テロと戦う“こちら側”も無差別で戦うしかないのか?それとも“こちら側”はあくまでも正しい戦い方を目指すべきなのか?

 ギャヴィン・フッド監督は、戦場に行かずに敵を破壊できる新兵器ドローンの操作訓練を受けたパイロットたちの解任希望が急増していることを指摘する。その理由は、画面越しにバイオレンスを引き起こし、犠牲者を出すという地獄を目撃していながら、自分は身の危険に晒されていないという矛盾がドローン・パイロットたちの心身を蝕むからだという。本作のドローン・パイロットも同じようなジレンマに陥る。進化していく遠隔操作の戦争と、それに関わる人間のモラルのぶつかり合いをテーマにした作品は今後増えていくだろう。

「戦争の代償を知らない兵士はいない」

「戦争の代償を知らない兵士はいない」
©Bleecker Street


 無人機・ドローンは、サイズ、目的共に大きな違いがある。例えば空から事故や事件の状況を調査したり、人間が行けない場所の詳細を上空から探索したり、趣味あるいは商業用の空撮に使用するなど、色々な目的で役に立っている。しかし、空から覗き見をするなど悪用される例もあり、今まであまり拘束されていなかったドローンの使用が急速に制限されている。9.11同時多発テロ以降、各国の軍はこのテクノロジーの開発に多大な力を注ぎ、凄まじい進歩を遂げた。新兵器として使われるようになった結果がこの映画で描かれている現実なのだ。

 まるでビデオゲームのような現実感が欠乏している画面戦争が、戦争の本来の姿を変えつつあるのは事実である。この映画の中で英国軍のトップが「戦争の代償を知らない兵士はいない」と言う。例えドローンを使った画面越しの戦いで、危険に身を晒すことなく、ボタンを押すだけで標的殺害を実行できる兵士たちも、戦争の代償を実感せずにはいられないということなのだろう。

 遠隔操作の小さな虫の形をしたサーベイランス・ドローンが、まさに“Eye in the sky”(空飛ぶ目)として地上の状況を捜査し画面に映し出す。ケニアのナイロビの一角にあるテロリストのアジトを、ヒューマンパワーでは及ばない正確さで、地球の裏側にあるラスベガスの基地に送信する。

 現地にいる英国軍の司令官キャサリン・パウエル大佐(『The Queen』/2006年)のヘレン・ミレンは百戦練磨の軍人で、冷酷と言えるほど任務の遂行に忠実だ。サーベイランス・カメラの映像のなかに、彼女が6年間も追い続けていた英国籍の女テロリストを発見。そして2人の自爆テロリストの姿も映し出される。数日前にナイロビのショッピングモールで自爆テロが起こり、200人もの民間人が犠牲になったばかり。爆弾を身体に巻き付けたテロリストを、彼らが行動を起こす前に何とか阻止しなければならない。テロリストたちを狙うドローンの射程距離内にはパンを売る少女の姿もあり、その子はパンを売り切るまでその場を去ろうとはしない。その間に爆弾を抱えたテロリストは大勢の犠牲者を巻き添えにできる目的地に出発してしまうだろう。1人の少女を救うために、200人の命を犠牲にするのか?あるいは200人を救うために1人の命を犠牲にするのか?人間の命の価値を問う論議になる。

 ロンドンの司令本部に自爆テロリストが関わっていることから、元々の指令である“Capture”を“Kill”にアップグレードするよう要求する。その結果、ヘルファイア・ミサイルで一気にテロリストのいる周辺破壊を実行するのがベストだという意見が出るが、そうするとパン売りの少女が巻き込まれるのは目に見えている。ここで軍のじれったくなるような命令系統が描き出される。誰も確固とした決断を下さない。

 ミレンは映画の中に登場する「それを受け入れたら後は、坂道を転がり落ちるだけ」という台詞に同感だと言う。「ドローン戦争という新しい形の戦争が始まったことは知っていたが、それがどんなふうにどんな命令経統で行われるのかの実状をまったく知らなかった」。この映画を見るほとんどの人が同じ意見だろう。

 今作は私たちに今までにない疑問を持ちかけ、どんどん進むテクノロジーに恐怖さえ覚えさせる


中島由紀子

Yukiko Nakajima■ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト。ハリウッド外国人記者クラブのメンバーとして、20年以上に渡り、世界中でスターの取材を続けている。ゴールデン・グローブ賞への投票権を持つ、3人の日本人のうちの1人


2016年05月号掲載