エンジェルス・ファミリーの輪

 先月、エンジェルスの春キャンプにスペシャルコーチとして参加してきました。以前から声をかけていただいていたのですが都合が付かず、なかなか実現しなかったのですが、引退後初めてアリゾナのキャンプ地まで足を延ばしてきました。今号はエンジェルスの様子を踏まえて、今季の展望についてお話ししたいと思います。

 1997年に渡米し、初めて入団したのが当時のアナハイム・エンジェルスで、5年間所属しました。全く英語が話せないところから、ここまで成長させてもらったという言い知れぬ思いや感謝もあり、とても恩義を感じています。

 エンジェルスは球団をあげて「ファミリー」感をとても大事にしているので、マイク・ソーシア監督を中心に、球団に貢献した元選手などに対して「いつでもウェルカム」という雰囲気が溢れています。日本のチームでもスペシャルコーチを務めたことはありますが、エンジェルスのような温かい雰囲気でおもてなしをしてくれるチームはそうないように思います。改めてエンジェルス・ファミリーの輪を感じました。

 スペシャルコーチとして参加した初日は、まず朝の1時間のミーティングから始まりました。それからオープン戦終了後のミーティングにも参加。この時に、マイナーリーグの選手や、そこにも残れないような選手の体調にまで言及して「怪我をしている」「この選手の調子はこうだ」という風に細部にわたって話し合っている様子は、とても新鮮に映りました。私自身、選手側からの目線でしか見たことがなかったので、実際に私が大リーグに挑戦した1、2年目というのは主力選手扱いではなかったこともあり、もしかしたら首脳陣は裏ではこういう感じできちんと見てくれていたのかもしれないと改めて思いました。そういう面においても、隅々にまで目が行き届いている良いチームだなと痛感。これは私の夢である球団ビジネスを行う際にも生かせるような、勉強になることがたくさんありました。

今年のエンジェルスの行方?

今年のエンジェルスの行方?

主砲、アルバート・プホルス内野手(写真左)と、大リーグ屈指の”若き天才”と称されるマイク・ トラウト外野手(写真右)

 今季は特に西地区において、どの球団もレベルが上がってきているため、勝てる年、負ける年という境目がなくなってきているように思います。今チームは、オフェンス面では本領を発揮できれば怖いもの知らずになり得るほどの実力派揃い。

 だけど心配なのが投手陣。コンスタントに勝ち星を積み重ねていたエースのジェレッド・ウィーバー投手も、昨年は26試合の先発登板に留まり7勝12敗と負け越しました。ルーキーイヤーから死守してきた2桁勝利・勝ち越しの記録は9年連続でストップしてしまいました。ウィーバー投手はもともと軟投派で変化球を多用する投手ですが、それでも試合の最初のファーストボールを有効に使う必要があると思います。最初から得意な変化球でかわそうとしすぎると2、3巡目には相手打線に捕まってしまう恐れがあるため、1巡目はできるだけ切れのいいフォーシームで攻めて、2巡目以降、変化球を中心に攻めていくと効果的ではないでしょうか。春キャンプでは、カーディオやストレッチを多めに取り入れ、熱心にトレーニングに励んでいました。彼も30代半ばを迎え、投球パターンや普段のトレーニングパターンを変えていかなければならない年齢に差し掛かってきているのかもしれません。今シーズンのウィーバー投手の復活が必須条件になってくるでしょうから、チームにとっても鍵を握る1人だと言えるでしょう。

 打撃陣は、若手のマイク・トラウト、アルバート・プホルスの両選手が昨年通りの活躍をしてくれれば十分チームに貢献できるはず。昨年は2人合わせて81本のホームランを叩き出しましたが、引き続きこの2人が軸となって今年もチームを牽引していってくれることでしょう。

 さて、今季の打順でいうと、トラウト外野手が2番から3番に回って、プホルス内野手はそのまま4番の役割を担うと思いますが、問題は誰を2番に置くかですね。予想されるのは、昨年末にナショナルズから金銭トレードで入団したユネル・エスコバー内野手を1番に、2番にはレイズから移籍したダニエル・ナバ外野手か、コール・カルフーン外野手が主力のラインナップになりそうです。春キャンプでは大活躍のナバ外野手が2番を打つことになれば、1、2番が他球団からの移籍組打線となり、昨年までの雰囲気とはガラリと変わりそうですね。

 また、昨今の戦略の1つとして、2番につなぎの打者ではなく強打者をおくことで、初回から確実に大量得点を奪いにいくという戦法が取られています。これは、1試合のベンチに投手は12人しか入れませんから、1試合目に5〜6人が登板すると、残り2試合でブルペン投手がオーバーユースになるというチーム戦略なんです。現在の安定した打撃陣であれば、こういった戦略も有効に活用できると思います。

 春キャンプでのチーム全体の仕上がりも順調なようでしたし、オープン戦の戦績もなかなかのものでした。選手の層も幅広く、優勝争いにはきっと絡んでくることでしょう。ただし、「ワールドシリーズまで進出できるか?」と聞かれると、昨季はブルペン陣が崩れていったように、やや不安は残りますが、引き続きクローザーのヒューストン・ストリート投手、セットアップのジョー・スミス投手は安定しているので、彼らの前に投げる中継ぎ陣に救世主の出現が必要になってくるのかもしれませんね。

浮かび上がった問題点とは

 今回のキャンプで、各コーチ陣とも色々と話ができましたが、エンジェルスの今後の課題点はマイナーリーグシステムにあるような気がします。ブレーブスやインディアンズのようにマイナーリーグが母体となって機能している球団だったら、マイナーリーグ傘下から毎年優れた生え抜きの選手が発掘できます。あとは必要なポジションをトレードなどで補強すれば、勝てるチームが計算できるわけです。しかし、エンジェルスの場合は外部からの補強を繰り返してきた球団なので、下から上がってくる若手が育っていないんですね。常に勝つことだけを求められるので、難しい部分ではありますが、ある時には、勝ち負けを度外視してでも若手を育てることに集中する年があってもいいのではないでしょうか。

〝マエケン〟の完成度は?

 今年は広島東洋カープからドジャースに日本のエース、前田健太投手がついに入団しましたね。前評判も上々ですが、実際のピッチングを見ると、さすがにコントロールが安定した投手だと思いました。

 私や野茂英雄投手が大リーグに挑戦した時代は、それまでアメリカでなんて投げたこともマウンドを踏むこともありませんでした。大リーグではマウンドも公式ボールの感覚も全然違うし、道なき道を進む開拓者の試練として、あの時代は戸惑いの連続でしたね。当時、日本ではミズノのボールを公式球として使用している球団が多く、手に馴染んで投げやすかったのですが、アメリカではローリングスのボールで質感や感触のギャップがとても大きかったんです。前田投手はそれを使用して投球しているのに、抜ける球が全然ありません。

 近年、WBCやワールドプレミア12などの世界大会が頻繁に開催されるなか、日本人選手も世界で実践を積む機会が増えてきました。それらの試合で前田投手も日本のエースとして実力を発揮してきたわけですから、異国でのマウンドやボールといった環境の違いにも順応性を身に付けていったのだと思います。では、それが3年、5年後に同じようなピッチングが継続できるかどうかはまた別の話になりますが、ここ1、2年に限って言えば、今の身体的能力とコントロールを兼ね備えていれば、日本と同じ結果が十分に出せるのではないかと私なりに予想しています。もちろん日本と同様のピッチングができたからといって、いきなりエースになれるほどメジャーのレベルは甘くありませんから、まずはチームの3、4番手としてローテーションの一角を担う活躍をする可能性が高いでしょう。

 前田投手は年齢的にも脂がのっている時期にメジャーに挑戦したのは、まさに良い選択だったと思います。ヤンキースで先に活躍する田中将大投手とは同級生ですし、互いに切磋琢磨して大リーグの東と西で盛り上げていってくれれば、日本人ファンの応援も前にも増して熱が入りますよね。今後が大いに期待できます。

 春キャンプは、メジャーとマイナーの選手を一度に目にすることができる滅多とないチャンス。駆けつけたファンの人もきっと有意義な時間を過ごしていたことでしょう。皆さん、来年はぜひ応援に行ってみませんか?

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2016年4月号掲載