2016年MLB予想と日本人投手の展望

 4月3日に大リーグが開幕。今シーズンが始動して既に2カ月が経ち、これからますます盛り上がってくる時期に突入ですね。今のところ、ドジャース、エンジェルスともにスタートダッシュは遅れをとっている感じですが、両チームの奮闘に期待したいところです。

 さて、今号は大リーグ開幕の裏話と各チームおよび日本人選手の今季の展望についてお話しましょう。

スロースターターが多い!?

スロースターターが多い!?

昨年、1985年以来30年振り2度目のワールドシリーズ世界一に輝いた、カンザスシティ・ロイヤルズ。今年はワールドチャンピオン連覇に挑戦


 私が大リーグに在籍していた時代から、開幕ではどのチームも勢いが出るように球団を挙げて初戦を盛り上げていました。しかし、それに反して主力選手の場合、大リーグはシーズンが長期に渡るため息切れしないように最初から飛ばさない傾向にあります。エンジェルスの春キャンプにスペシャルコーチとして参加させてもらった時にも感じたのが、「少しは準備してきたんだよね?」と訊ねたくなる選手の多いこと(笑)。でも、こちらではそれが当たり前。私の場合、投手だとすぐにケガと直結してしまうので、体調管理やコンディション作りには細心の注意を払っていました。大リーグに来てからも日本での習慣が抜け切れず、キャンプに入る前には一度完璧に仕上げて、わざとそこからコンディションを上げたり落としたり、自分で調整していました。これでいい状態をキープできていたので、身体的にはその方がとても楽でしたね。

 長年大リーグの第一線で活躍している主力選手たちは、シーズン中にベストコンディションに持って行く術をよくわかっています。それを計算できているからこそ、スロースターターが多いのだと思います。最初のスタートダッシュはどの選手も気合が入っているので、そう根を詰めて練習をしていなくてもアドレナリンを発しているせいか案外調子がいいんです。周囲は大リーグの中でもトップ中のトップばかり。実際に、調子が上がらないままでは早々に取り残されてしまい、それが厳しい評価となって追い込まれてしまうのが現実です。それでも野手などはそういったやり方でうまく帳尻を合わせているように思います。

 例えば、エンジェルスのマイク・トラウト選手のような逸材は、今季も開幕当初から快音を響かせ攻守にわたり絶好調。先陣を切ってトップ中のトップとしての仕事を見せつけてくれています。それとは対照的に、同じくエンジェルスの4番バッターのアルバート・プホルス選手は、シーズンを通じて40本前後のホームランをコンスタントに打つにも関わらず、前半はからっきし打てない。それぞれを見比べながら観戦するのも面白いかもしれませんね。

2カ月を終えてチームの展望

 今季の順位予想をするには、前半戦の区切りとなる7月のオールスター戦を過ぎる頃までは何とも言えませんが、明らかにシーズンを逸脱していると思えるような球団も見受けられますよね。これは以前から説明している通りで、日本の12球団は、毎年、足並み揃えて優勝を狙う、といった姿勢とは違い、世界一のベースボールリーグを擁するアメリカには30球団もあるため、各球団は数年計画で戦力強化や補強のための時期を設け、3年、5年、10年単位でチーム戦略が明確化しています。なので大リーグでは、優勝戦線に絡んでいけるチャンスがあったとしても、時期尚早であれば基本方針を優先します。クリーブランド・インディアンスやアトランタ・ブレーブスなどは最もその傾向が強く、若手育成期間と決めた2~3年はそれに徹して、その後、タイミングを計り補強と共にチームをさらに強化しています。

 昨年7年振りとなる90勝超えでプレーオフ進出を果たしたシカゴ・カブスが最たるもので、2010年から3年連続でナショナルリーグ中地区5位に低迷。不振にあえぐなか2012年から再建に着手し、若手選手の台頭が目覚ましい2014年頃から一気に勝負をかけ、補強のための多額の資金を投下、チームの体制を整えました。現在、中地区で29勝を挙げて両リーグ中、勝率はトップを走っており、既にリーグ優勝を狙えるチームに仕上がっています。

 また、昨年度は1994年以降低迷が続いていたカンザスシティ・ロイヤルズが、ワールドシリーズで1985年以来30年振り2度目となる悲願の世界一を果たしました。私の現役時代、ロイヤルズはお荷物球団などと呼ばれ、優勝するなんて到底考えられなかった。それでも10年〜15年周期で選手育成に本腰を入れて失地回復を図れば、あんなに小さなマーケット(地域)であっても世界一をも狙える球団再生が可能なことをロイヤルズが証明してくれましたね。これが今後のチーム構築の主流となりつつあるのかもしれません。

 逆に今一番大変なのはアメリカンリーグ東地区の3位に甘んじているヤンキース。エンジェルス、ドジャース、ヤンキースのような潤沢な資産を蓄える球団がそうでない球団に勝てない状況に、苛立ちが募っていることでしょう。今までのように資金力で選手を集めて戦力固めをしても、気がつけばFA資格の選手自体が中堅どころなので、平均年齢ばかりが上がってしまう。近頃のヤンキースの選手陣を見ていても、どの選手も年齢が高くなってきています。スター選手揃いのヤンキースなどの人気球団では、即戦力を重視しがちで、どうしても若手が育つ土壌がないのが現状です。今こそ空気を入れ替えて、フレッシュな若手のパワーとベテランの経験と技をどう組み合わせるかが、今後のヤンキースの課題であり、巻き返しの試金石となるのかもしれませんね。

エンジェルスを予想

エンジェルスを予想

(左)今年のオールスターゲームの開催地(日時:7月12日)はサンディエゴ・パドレスの本拠地、ペトコパーク。両リーグから、監督推薦とファン投票により選ばれた選手たちが繰り広げる、一夜限りのドリームマッチ!今季、活躍する日本人選手の出場も期待できる!
(右)エンジェルスの先発、ジェレッド・ウィーバー投手(33)。昨季は不調に終わったが、今季は初戦、白星発進でまずまずのスタートを切った。エンジェルス投手陣の故障者が相次ぐなか、今こそエースとしての踏ん張りを見せてほしい


 現在の順位表では、ア・リーグ、ナ・リーグの西地区でエンジェルスは21勝24敗で3位、ドジャースは23勝23敗で2位。十分、上を狙える位置に着けています。

 エンジェルスは2014年に98勝64敗とア・リーグ最高勝率で圧倒し地区優勝。昨年は85勝77敗と3位に転じたものの、一昨年からの主力選手をほぼキープした状態です。打撃陣ではマイク・トラウト(打率3割2分5厘/本塁打10/打点31/得点32)、アルバート・プホルス(打率2割2分8厘/本塁打9/打点30/得点21)を中心とした主力打線が威力を発揮すれば怖いものなしの強力な布陣と言えるでしょう。

 投手陣の筆頭は、エースのジェレッド・ウィーバー投手。メジャーデビューした2006年〜14年まで9年連続2桁勝利、12、14年には最多勝も獲得している軟投派の右腕。昨季は7勝12敗/防御率4.64と不調に終わりましたが、今季は現在のところ9試合に出場、4勝3敗と順調に白星を重ねており、伝家の宝刀チェンジアップのキレはまだまだ健在です。

 そして、6年連続で開幕投手だったウィーバー投手から、ギャレット・リチャーズ投手が今季、初の開幕投手に抜擢されましたが、残念ながら黒星発進でした。リチャーズ投手は骨棘を除去する手術を受けるため、昨年8月1日に戦線離脱を余儀なくされ治療に専念していましたが、2014年まで5年連続で2桁勝利を挙げてきた主力投手の1人。開幕から6試合に登板して1勝3敗、防御率2.34の成績で順調に復調の兆しが見えていましたが、5月10日に右肘痛で60日間の故障者リスト入りしました。復活を期待したいところです。

 2013年12月に三角トレードで移籍したヘクター・サンティアゴ投手。昨年はシーズンを通じて先発ローテーション入り、勝ち星には恵まれず9勝止まりでしたが、防御率3.59、162奪三振と安定した成績を残しました。春キャンプから絶好調だったサンティアゴ投手は開幕から2勝0敗、防御率2.70と、メジャー6年目で初の2桁勝利を狙えそうな快進撃が見ものです。今季を乗り越えるには、この3本柱(先発陣)それぞれがいい働きをしてくれれば、あとはブルペン陣です。

 クローザーのヒューストン・ストリート投手は開幕から9試合に登板。1勝0敗、防御率1.17、5セーブ目をマークしていましたが、4月28日に左わき腹の腹筋を痛め、15日間の故障者リスト入りしました。復帰の目処はまだ立っておらず、セットアッパーのジョー・スミス投手が代役を務めています。その前を継ぐ右腕のフェルナンド・サラス投手は1、2回を信頼して任せられる中継ぎ投手に成長。もともと投手陣は層が厚く充実していたのですが、ケガや故障などのアクシデントが相次いでブルペンは不安定な状態です。そのため、エンジェルスは補強人員としてブレーブスとのトレードで、ベネズエラ出身のジュリアス・チャシーン投手と、もう1人サンフランシスコ・ジャイアンツから、2年連続でサイ・ヤング賞受賞者のティム・リンスカム投手を獲得しました。ここ数年は戦力的に攻守揃っていい状態を保っているので、最終的には持ち直して地区優勝に割り込んでほしいと思います。

注目の集まる日本人投手たち

注目の集まる日本人投手たち

(左)1月7日、ドジャースは前田健太投手(27)と、8年契約で合意。入団会見では背番号18番をつけて「歴史と伝統あるドジャースの一員になれたことを誇りに思います」と決意を語った
(右)本格復帰を目指すレンジャーズのダルビッシュ有投手(29)が、5月28日に本拠地で行われるパイレーツ戦でメジャー復帰することが球団から発表された


 今季、日本人選手で一番の注目株といえば、やはりロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手(3勝3敗)と言えるでしょう。4月6日のメジャー初登板となったパドレス戦では6回5安打無失点4奪三振に抑え初白星を飾りました。4回には初打席で単独本塁打を放ち7-0の快勝で、ドジャースは開幕から3連勝3戦連続無失点を記録。初のメジャーの大舞台で投打において見事な活躍ぶりに頼もしさを感じました。

 現在、前田投手は3連勝後に3連敗中です。彼は勝負師なので気にするかもしれませんが、あまり勝ち負けにこだわる必要はないと思います。大リーグではとにかく6回を3点で抑えたらクオリティースタートです。そういった気持ちでどんと構えていた方が、私の経験上、息の長い投手として活躍できるのではないかと思います。いかにして長いシーズンを投げ切るかというのが課題で、こちらでは防御率、勝ち越しといった数字よりもイニングを何回投げられたかの方が重要視されます。コンスタントにシーズンを通して200イニングくらいを投げられればベストですが、そのためには毎回6回は登板するつもりで臨まなければなりません。彼の今の実力だったら達成できるような気がします。ただ、開幕から3連勝で素晴らしいピッチングを披露しているので、対戦打者、あるいはチーム全体で前田投手を丸裸にしようと躍起になって研究してくるでしょう。これからは追われる立場になって、さらに厳しい状況が予想されます。

 シーズンの先は長いですから、あまり自分の勝敗だけにこだわらず、6回投げたら次の登板に向けてマインドをリセットすることが先決です。日本の投手はどうしても、0点で抑えていたら最後まで投げたいという気持ちが強くなって、途中で降ろされると悔しい、実力不足だったという心理に陥りがちです。それはシステムの違いだということを理解した上で、頭を切り替えた方が賢明でしょうね。

 ヤンキース田中将大投手(1勝0敗)は、昨季終了後に右肘の骨片を除去する内視鏡手術を受けて順調に回復。今季のヤンキースの開幕投手として、野茂英雄投手以来、日本人で2人目となる2年連続開幕投手の大役を務めましたね。田中投手自身も2年連続2桁勝利の成績を残し、ヤンキースの主力投手としての実力が試される3年目に大いに期待がかかります。現在、9試合に出場、2勝0敗で防御率3.24。また先発投手として9試合58回1/3に登板、1試合毎に約6イニングを投げている計算になります。今のペースで十分なので、この感覚を前田投手も掴めるといいですね。

 右肘靭帯再建手術からの復帰を目指すダルビッシュ有投手は、レンジャーズ傘下のマイナーでのリハビリ登板を5月30日までに終えて、いよいよ本格復帰の目処が立ってきました。メジャーでも実力は十分証明できているわけですから、ダルビッシュ投手には焦らず長い目で完全復帰を目指してほしいです。

 マリナーズと再契約、5年目を迎える岩隈久志投手は昨年8月12日、本拠地シアトルでのオリオールズ戦でノーヒットノーランを達成。116球を投げ、7奪三振3四球、試合は3-0と、日米を通じて自身初となる偉業を成し遂げました。今季は現時点で9試合に出場、2勝4敗で防御率4.39。自分のやるべき先発としての仕事はできているのですから、西地区トップを走るチームの勢いに乗って勝ち星を重ねていってほしいですね。

 レッドソックスの上原浩治投手(2勝1敗)は今年からセットアップのポジションになって順調ですし、田澤純一投手(0勝1敗)は防御率が非常によく調子も上々です。両選手ともにコンスタントに出場してチームに貢献しています。

 今年は前田投手が地元ドジャースに入団してくれたことが日米で大きな話題になりました。ダルビッシュ投手が復帰すれば大リーグもますます盛り上がって面白くなりそうです。今季は特に日本人投手に注目が集まりそうですね。彼らの奮闘ぶりが楽しみなシーズンになること間違いなしです!※チーム・選手の成績は5月23日現在

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2016年6月号掲載