両極端な日米の指導の仕方

 私は投手出身なので、その経験を基に言わせてもらうならば、投手の育て方の大きな違いは「日本は投げさせすぎ、アメリカは投げさせなさすぎ」の一言で集約できるのではないでしょうか。どうしてこんな違いが起こるのかというと、日本は小学~高校のまだ未発達な時期に、練習や筋力トレーニングなどで身体を酷使して完成系に作り上げてしまいます。それは、子供時代から野球をやっているいわゆる野球少年たちが、皆、1つの到達点として甲子園を夢や目標としているからだと私は思います。そのため、名門と言われる小、中学校ではレギュラー、補欠がはっきりと分かれ、既にポジションも決められ、全員が型にはめられてしまいます。そして高校生になると甲子園出場に向けて脇目も振らず練習に明け暮れる毎日を過ごすわけです。

 片や、アメリカの野球少年たちの憧れ(最終目的)といえば、大リーグでプレーすることでしょう。しかし、本気でプロを目指す子供もいれば、シーズン制のスポーツ競技やクラブ活動の一環としてやる子供もいますから、当然、甲子園出場を目指している日本の高校球児とは目的意識に差が生まれます。また、アメリカでは高校野球連盟に相当する組織はなく、甲子園のような全国規模の大会でトーナメント制というシステムもありません。州内のリーグ戦が基本となり、3~4月に地区リーグ戦、5月に各地区の上位チームによる州のトーナメントを行う州がほとんどです。ちなみに日本の高校野球予選出場校は12年連続で減少しており、大会創設100周年を迎えた昨年は3906校。過去最高は4163校です。これに対して、アメリカの高校は公立、私立を合わせると全米で約9万8000校近くあると言われていますから、全米をひとまとめにして全国大会を行うとなるとあらゆる面で困難が生じることは容易に想像できます。

 またアメリカの学生はシーズンによってプレーする競技が変わるので、一つの競技だけに特化したりしないのです。クラブ活動であってもシーズンによって競技を行き来することは良しとされています。勉学面でも、毎日のホームワークや試験をきちんとクリアできていなければ部活もやらせてもらえません。スポーツと勉学を両立させることを重視する面においても日米の違いは明らかです。

 日本では昔からアマチュアリズムを重んじるような国民性、プロではなくアマチュア精神を尊び称賛する傾向にあり、高校野球は夏の風物詩としてお茶の間や紙面を賑わしてきました。そのお蔭で高校野球、甲子園が大いに盛り上がり、野球人口の増加につながってきたのは事実です。日米のどちらの国の考え方やシステムがより優れているということを伝えたいのではありません。後進が次々と大リーグを目指している近年、日本の今の野球環境では才能の芽を若いうちに摘むようなことにならないだろうか、という点を特に憂慮しています。

 どんな時代も、従来の流れや仕組みを変えたり壊そうとすることに抵抗や反対はつきものです。では、何から手をつければいいのか?と訊かれたら、日米の違いを指導者には学んでもらいたいですね。そうすれば前述した「日本は投げさせすぎ、アメリカは投げさせなさすぎ」という言葉の意味を理解してもらえるのではないでしょうか。

真剣勝負でこそ面白みが判る

 日本では、甲子園が野球少年の一つのゴールになっているので、そこに向かって練習に明け暮れる日々を過ごし、18歳の夏で燃え尽きる球児が多いということを前述しましたが、一方でその意識こそが真剣勝負を生み出す根源となっているのかもしれません。地区大会や甲子園はトーナメント制なので負けたらそこで終わりという厳しい現実に身を投じて、皆、必死で勝利を目指しています。とことん勝ち負けにこだわって取り組むからこそ見えてくることも多々あると言えます。

 例えばゴルフでも、手首が壊れるからと20球、30球程度しか打ち込まなければ、実際にコースを回っても上手く打てず「面白くない」で終わってしまいますよね。ちょっとくらい故障のリスクがあっても、ある程度のレベルまでは真剣に取り組んでみなければ、そのスポーツの醍醐味も面白みもわからないままになってしまいます。幼少時は自分に何が向いているのか、何がしたいのかなんて誰にもわかりません。ですから、アメリカ式に小学校高学年くらいまでは、2つ、3つのスポーツを並行してやらせてみるといいと思います。特にゴルフは個人競技なので最適と言えるでしょう。

 また、アメリカではシステムが出来上がっているので、野球やサッカーなどのチームスポーツでも他のことと一緒に取り組むことができますが、日本の慣習やシステムだと、実際問題なかなか難しいと思います。それでも小、中学校くらいまでの間は、広くスポーツと触れ合い、好き嫌いを選ばせてあげると良いでしょう。

 その反面、小さい時はある程度の押し付けも必要なことなのかもしれません。好き嫌いとは別に子供自身は自分の資質を見抜けませんよね。私の場合、高校時代までは朝から晩まで野球漬けでした。しかし、大学で野放しになったことで、急に成長したのです。やみくもにスパルタにしろとは言わないけれど、多少、理不尽であっても、親が選んでやらせてみて、基準となるラインを決めてあげた方がいい。自発的にやりたいことを見つけてくる子供もいますが、小、中学校で自分の自由にしていいよと言われても、子供は何がしたいのか、どこまでが限界なのかなんて判断できないものです。だからこそある程度の押し付けも、手取り足取り面倒を見てあげることも、その時期には必要なのだと思います。

 幼少期のチームスポーツにおいてコーチや監督は親以外では絶対的な存在であり、そもそもチームでやっている限りは、理不尽なこともある程度受け入れなければ成立しないものです。チーム競技に取り組むことで、スポーツ精神を通じて子供の社会性が備わっていくのだと思います。

心がけている指導法

心がけている指導法

マイク・ソーシア監督(57)。2000年にエンジェルスの監督に就任、今季で17年目を迎える。
16年間でプレーオフ進出7回、ワールドシリーズ1回制覇という好成績を記録。日本では知将と称される名監督の一人


 私が現在、教えているのは、17、18歳がメインになりますが、せっかく日米の野球を第一線で経験したのですから、アメリカの大らかさ、日本の厳しさという双方の良さを取り入れた指導をするように日頃から心がけています。

 日本では叱って伸ばす、アメリカでは褒めて伸ばすというのが基本だと思いますが、日本人でもアメリカ人であっても扱いにくいのは叱られたことがない人。当然ながらプロになると叱ってくれる人なんているわけもない、競争の激しい世界です。そういうプロの世界に身を置いても乗り越えられるように、相手がスター選手であっても、きちんと注意すべきことはして、指導者として選手と向き合うべきだと私は思います。特にアメリカではこういったスター選手がチームを牽引し、彼らの活躍次第で勝負が左右されてしまうような場面があるからこそ、特別扱いされがちなのです。特段叱る必要はありませんが、他の選手と同様に普段からコミュニケーションを図り、指導においても叱咤激励することが大切なのだと思います。

 私が出会ってきた数いる指導者のなかでも、そういったことを率先しているのがエンジェルスのマイク・ソーシア監督です。人間的にも器が大きく優れた人物ですが、コミュニケーション能力がとにかく高い。今回のスプリングキャンプに参加した時にも、コーチ陣や選手相手に自ら気軽に話し掛けます。これは一般にも言えることですが、対話することで、その人物の人柄や考えていることがよくわかるように、会社であれば上司と部下とのコミュニケーションは欠かせませんよね。ソーシア監督の場合、しかめっ面で難しい話をするのではなく、日頃からジョークを飛ばして、周りの雰囲気を和ませてくれます。日本の場合、指導者としての威厳を保っているのかもしれませんが、落ち込んでいそうな選手を見かけたら一言でいいから声を掛け、選手を思いやる気持ちが伝わればそれで十分なのです。

 また、アメリカでは日本のようにひたすらバッティングやノックの練習をするのではなく、モチベーションを高めるために、対戦方式を取り入れて練習しています。チームに分けて競争させることで、子供は飽きることなく、喜んで練習に取り組みます。また、その試合に勝って、ただ嬉しいのではなく、練習の過程から楽しめるような工夫も加えているのです。イチロー選手の練習を見ていても、楽しみながら、熱心に取り組んでいますよね。僕も小さい頃、壁当てをする時に大好きな阪急打線を想像しながらずっと投げていたくらい、つまらない練習を楽しく工夫する能力には長けていました。その時の応用が今の指導法にも生きています。

 やはり何事も楽しみがないと持続できないですから、私が実際にやってみて良かったこと、そして日米双方の長所を取り入れた指導法を、日々、研究しています。これからも野球を通して、青少年の育成に真摯に努めて参ります。

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

長谷川滋利/Shigetoshi Hasegawa

Shigetoshi Hasegawa■1990年のドラフトでオリックス・ブルーウェーブの1位指名を受け入団。プロ1年目の91年に12勝し最優秀新人賞を獲得。95年には12勝、防御率2.89の好成績を残し、オールスターゲームにも出場。97年1月、アナハイム・エンジェルスに入団、02年1月、シアトル・マリナーズへ移籍。03年はクローザーに起用され、63試合に登板し2勝16セーブ、防御率1.48。オールスターゲームにも出場した。06年1月、引退。現在は野球解説のかたわら、講演や執筆活動、自身のウェブサイト(www.sportskaisetsu.com)にコラムを展開中


●野球専用トレーニング施設
PTC Mazda(トラベルチーム)MAZDA社がスポンサーする18歳以下のトラベルチームを運営中
E-mail: PTCbaseball@msn.com

長谷川滋利さんの公式ウェブサイト: www.SportsKaisetsu.com
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2016年7月号掲載