Suicide Squad

Suicide Squad
©Warner Bros. Pictures
キャスト
:マーゴット・ロビー、ジャレッド・レト他
監督
:デヴィッド・エアー
上映時間
:130分
Rating
:PG-13(MPAA)
公開日
:2016年8月5日全米ロードショー
配給会社
:Warner Bros. Pictures

史上最強、世紀の悪党たちが世界を救う?!

史上最強、世紀の悪党たちが世界を救う?!
©Warner Bros. Pictures


 『Suicide Squad』は、世界を救う正義の味方アメコミ・スーパーヒーローものに少々辟易している映画ファンに、一抹の涼風を感じさせてくれる娯楽作品だ。

 政府への協力を条件にリモート・コントロールのミニ爆弾を首に植え付けられて、地球、人類の敵と戦うために刑務所から仮出所した世紀の悪党たち。ただし、言うことを聞かないといつでもリモコンのスイッチが押されてしまう。軍から派遣された屈強なフラッグ大佐の監視の元でスーパーヒーロー顔負けの大活躍をするのだが、敵が誰なのか何なのか、観た後もはっきりしないことにしばらくしてから気がついた。〝活躍〟と言うよりは、やりたい放題と言った方がぴったりかも知れない。それぞれのキャラクターが最悪で超面白い。しかし登場人物が多いため、個性的悪党たちのスクリーンタイムがちょっと短くて、彼らとコネクトして惚れ込んでしまうチャンスが浅いのが残念。初めから終わりまで目立っているのがカリスマ性があり存在感抜群なウィル・スミス演じるデッド・ショット。名前の通り射撃の名人でどんな武器も使いこなし、どんな標的も逃さないキラーシューター。

 それからバービードール風で一見キュートだが実は怖いもの知らず、何でもありのセクシーなハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)。元々は刑務所の精神科医ハーリーン・クインゼルだったのに、ジョーカー(ジャレッド・レト)に会ってしまったのが運の尽き。恋に落ちジョーカーのダークな世界に引き込まれ、彼と共に犯罪を繰り返すスーパー・ヴィランに転落。リック・フラッグ大佐は悪漢集団のなかで1人まともな軍人として浮いていることから印象に残る。けれども、彼が恋してる相手がサプライズなのだ。

 そしてそのフラッグ大佐に影のように追従し、彼を守る日本刀使いの名人カタナ。愛する夫と子供を殺され復讐の鬼となっているタツ・ヤマシロことカタナに、新人の福島かれんが抜擢されたのはこの映画の話題の一つ。「カタナ役探しは大変だった」と監督は言う。「数え切れないほどのオーディションをした。かれんがマーシャル・アーツに造詣が深いというのは魅力だったが、映画出演の経験がなかったことがネックだった。最終的にかれんに決めるのに何日もかかった。彼女がアメリカ生まれの日系2世でも、日本の伝統を大切にしている家庭に育ったというのも僕にとっては重要な背景だった。カタナ役は彼女に決まり、いよいよ撮影が始まった後はびっくりの連続だったよ。映画出演の経験がないとは思えない落ち着きで現場に馴染み、撮影の進行に楽々乗っていた。カメラの位置や照明、レンズのことまで把握しているんでびっくりしたんだ。良くやったと感心してる。この映画の最大最良の発見がかれんだったんだよ」とベタ褒めのデヴィッド・エアー監督。確かに周りの個性派たちに囲まれて引けを取らない出来栄えだったと思う。

 〝暴れ狂う悪党たち〟というのが『スーサイド・スクワッド』(邦題)を総括する一言。直訳すれば自殺軍団ということだが、多分この映画に登場する悪党たちは死にたくないと思っているだろうから、どんな状況のなかでも生き延びるに違いないし、自分を犠牲にするほどの善人の道には辿り着かないだろう。

エアー監督がアメコミ映画監督デビュー作として選んだ今作

エアー監督がアメコミ映画監督デビュー作として選んだ今作
©Warner Bros. Pictures

 エアー監督は『Fury』(2014年)、『End of Watch』(2012年)のようなストーリー性のあるアクション映画で知られている。激しい撃ち合いやアクションを観た後で「戦争とは?」「警察と犯罪?」とちょっと考えさせる余韻を残す作品を作るのが得意だ。『Suicide Squad』は考える余裕は残さずエンターテインメントに徹している。

 エアー監督がアメコミ映画の監督デビュー作品として選んだものがこの『Suicide Squad』。正統派スーパーヒーローに捕まり隔離されている悪漢たちが、悪知恵満載の政府高官アマンダ・ウォラー(ヴィオラ・デイヴィス)の狡猾な企みに乗せられ、死を覚悟で一時の自由を楽しみ、人の役に立つという話。DCコミックのなかでも、映画化と結び付いていなかった素材を監督自ら脚本を書いた。映画化に向けてちょっといつもと違う感じでと考えているうちにどんどん話題になり、たちまち期待の大作の色を濃くしていったそうだ。

 脚本を仕上げる前からデッド・ショットはウィル・スミスに狙いを定めていたと言う。彼も17歳からスタートしたキャリアのなかで(現在47歳)、今まで1回も悪漢をやったことがなかったから大いなる興味を持ったと言う。ところが脚本を読んで役作りに入ると、「なんで人を殺して金を貰うのが平気な人間がいるんだろう?」と大きな疑問にぶつかった。金を貰うために人を殺す?その辺のサイコロジーが理解できなかった。コミックだからと上っ面だけで役作りをするのが嫌で監督と話したら『The Anatomy of Motive』というシリアル・キラーのサイコロジーについて書かれた本を紹介してくれたという。「人を殺すことを論理的に分析して〝だから殺す〟と納得して実行する人はいない。ほとんどの場合、〝殺す方が殺さないより気分が良いから〟という程度で、恐ろしい罪を犯すのだという意識をあまり持っていないことがわかったんだ」と教えてくれた。デッド・ショット役は楽しくのびのびと演じたそうだ。この役を大絶賛してくれたのは2人の息子(トレイ24歳とジェイデン18歳)で「ダディ、もう役者辞めた方が良いよ。これ以上の役はもう回って来ない。ダディのキャリアはこれから先、下る一方だよ」と言われたと顔をほころばしていた。このデッド・ショットと1つだけ相通じるものは、子供に対する愛情。デッド・ショットも殺人鬼でありながら娘への愛情は深く優しい。「そこだけが僕との共通点だった」と笑っていた。


中島由紀子

Yukiko Nakajima■ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト。ハリウッド外国人記者クラブのメンバーとして、20年以上に渡り、世界中でスターの取材を続けている。ゴールデン・グローブ賞への投票権を持つ、3人の日本人のうちの1人


2016年09月号掲載