ファミリービジネスが始まり

ファミリービジネスが始まり
撮影:Gene Shibuya

 Mendocino Farmを立ち上げて、 今年で11年目になります。ロサンゼルス・ダウンタウンに1店舗目をオ ープンしたのが2005年、今では店舗数も13店に増え、今後は州外にも進出していく予定です。多店舗展開しているので、大きな会社組織が母体だと思われることも多いようですが、Mendocino Farm はビジネスパートナーである夫と2人、自分たちの手で一から作り上 げてきたサンドイッチショップです。 手塩に掛けた子供のような会社なので、組織としては大きくなった今でも、家族のような存在である従業員と、一店舗一店舗、大切に 増やしていっています。

 私は台湾生まれ、カリフォルニア育ちの中国系2世です。父の仕事の都合でアメリカに移住したのが4歳の時。当時のカリフォルニアにはまだ今のような大きなアジア系コミュニティーはなく、白人社会の中で移民として育ちました。今になって、私自身、子育ての真っ最中なので比較してしまいますが、家庭に2つの文化があることや2カ国語をネイティブとして話せることが強みになる今の社会と違い、当時はそれらが足枷にさえなる時代。子供の頃はやはり、自分の置かれた環境に生きづらさを感じることが少なくありませんでした。 黒髪、黒い目を珍しがられたり、海苔のついたご飯を持って行くだけで、奇異の目で見られたり。人種や文化の壁に阻まれていたように思います。そんななかでも、自分のアイデンティティに自信を持てるように育ててくれた両親には本当に感謝しています。

 父の仕事の都合で、物心ついた頃から1年のうち3カ月は台湾に戻り、その前後に日本や韓国にも滞在していました。両親が日本語を話せて、日本に親しい友人がいたので、日本は第2の故郷のように近い存在です。アメリカとアジアを行き来する生活をしていたことで、高校生になる頃には自分をアメリカ人、台湾人と決めつけず、国や国籍に縛られない考え方ができるようになっていました。多様化が進んでいるカリフォルニアのような場所で生活するには、人種や国籍に縛られず何でも受け入れられる方がより自然に楽に生きていかれるので、自分の生い立ちが強みだと思えるようになりました。

起業家である父を目指して

起業家である父を目指して

”子供の頃からずっと、そして今でも、姉と妹は私に とって一番の理解者、協力者です”とエレンさん


 父と母は私に、医者か弁護士になってほしいと思っていたのですが、 私は物心ついた頃から、父のような起業家になりたいと思っていま した。もともと父は技術者からスタートし自分で工場を立ち上げた のですが、従業員を家族のように大切にし、収益を上げることよりも、顧客、従業員、双方が幸せになれる真っ当なビジネスを作ることを目標にしているビジネスマンでした。工場に行くたびにたくさんの従業員に囲まれ、慕われている父の姿が子供心にヒーローのように映り、ああいう経営者になりたいと思ったんですね。高校卒業後は迷うことなく大学で経済を学び、コンサルタント会社の Accenture PLC に就職しました。大手企業だったので顧客にも世界的な大企業が多く、様々な形態の会社経営を近くで見られたことが、今、起業 家としての自分の基礎を作っていると思います。

 その後、当時ブームになり始めていたインターネット事業のスタートアップに誘われ、そこで一からの起業も経験し、無我夢中で働きました。傍から見ると起業家を目指すには非常に恵まれた環境にいたように映ると思うのですが、20代で私が学んだ最も貴重なレッスンは、“チャンスは自分で作り出すもの”、ということでした。自分で取りに行かないと、チャンスはチャンスにならないんですね。スタートアップの会社はもちろん、大企業にいてさえ、チャンスは黙っていると自分の目の前を素通りしていってしまうんです。若い時にこの基本を身に染みて感じられたことが何より貴重だったと思っています。

  28歳になった時、ふと立ち止まって次のステップを良く考えたいと思い、会社を辞め、6カ月間仕事をしない充電期間を持ったんです。 若かったからこそできたんでしょうね。その充電期間に、後にビジネスパートナーとなる主人と出会いました。

ビジネスパートナーの夫と起業

ビジネスパートナーの夫と起業

夫であるMario Del Pero氏と一から作り上げたお店。組織として大きくなった今でも、大切なものは変わらない


 彼はその時、Skew’s という照り焼きのレストランを経営していたのですが、出会って早々、何でも手伝うからレストランビジネスを見せてほしいと彼に頼んだんです。中国の食文化は歴史もあって内容も濃く世界に誇れるものですが、家庭でも家族で囲む食卓はとても重要で、中国文化を色濃く持つ家庭で育った私にとっても、食は大切なもの。その割に料理自体はあまり得意ではないのですが(笑)、元々レストランビジネスにはとても興味がありました。主人の店でトイレ掃除も厭わずにレストランビジネスのイロハを隅から隅まで学んだんです。一から学び、そのビジネスの全容を知るというやり方は、起業家の父を見て自然に身に付いていたものだと思います。友人のなかには、大手企業に勤めていたエリートが突然、Tシャツを着てレストランの掃除を手伝うなんて、どうしちゃったの?と言う人もいましたが、すべてが勉強でしたので全く気になりませんでしたね。

 彼のレストランに可能性を感じて、充電期間後も会社には戻らず、 自己資金を投資して経営に加わりました。その時はまだ、結婚の約束もしていなかったのに、自分の貯金をつぎ込んでしまったわけですから、我ながら大胆だったなと思います(笑)。Skew’s を軌道に乗せた後、また新しい形態のレストランを始めたいと考え、Skew’s を売却した資金を元にMendocino Farmを2人で立ち上げました。

ファーストカジュアルレストラン

ファーストカジュアルレストラン

Mendocino Farmsのトレードマークであるブルーの牛と。 明るくHappyなお2人の姿が、お店の持つ雰囲気と重なる


 サンドイッチを 選んだのは、 文 化、人種に関わらず、すべての人 に受け入れられる食べ物だと思っ たからです。私たちは Mendocino Farm をファーストフードとファインダイニングの中間にある、〝ファーストカジュアルレストラン〟と位置付けています。今のお客様は見る目も舌も肥えていて外食により上質なものを求める風潮があります。一方で通信手段の向上に伴い、生活の忙しさが倍増、ゆっくり食事の準備をする時間もない人が少なくありません。時間はないけれど、美味しいものは食べたい。都市部で増えているそんなニーズに応えられるレストランを作りたいと考えたのです。キッチンも大量生産用のものではなく、一つ一つ手作りでクオリティーの高いものを出せるレストラン仕様のものを用意し、Mendocino Farms がスタートしました。

 私と主人とはビジネスをするにあたって大切に思うものが一致していました。まずは食べ物のクオリティー。主人はシェフでもあるので、何よりもまずお客様に質の高い美味しいものを提供するというのは絶対条件でした。質の高い料理を出すには質の高い材料が必須。そこで、信頼できる私たちと同じ方向を目指しているベンダーを探すことから始めたんです。そしてお互い理解し合えたベンダーとビジネス協力するこでお互いの生産性が上げられる、相互サポートシステムを作り上げました。

 食べ物のクオリティと同時に大切だったのが、お客様へのサービス。ちょうど私たちが一号店を出した頃がスターバックスなどコーヒーショップの全盛期で、カフェがコミュニティーのなかの重要な位置付けを担うようになっていました。私たちも、Mendocino Farmsをただサンドイッチを買う場所ではなく、地元のお客様に貢献できるサードプレイスとして存在させたいと思い、そのためには訪れたお客様にとって居心地の良い店作りをしなくてはならない。そこで私たちは従業員の教育に力を注ぎました。従業員には通り一辺倒のサービスを教えるのではなく、従業員自身が会社のファミリーとして受け入れられていると感じられる職場づく りも大事だと考えました。クオリティーの高い材料を仕入れ、ファインダイニングと同じキッチンシステ ムを整え、従業員への教育とファミリーとして安心して働ける会社作りをする。これらすべては収益だけを考えるなら、余計に資金も使うし重要視するものではないのかもしれません。でも夫も私もこれらの条件をバランス良く整えれば、収益は必ずついてくるものと思って疑いませんでしたし、実際、どの店舗もお客様が行列を作って訪れてくださいます。

 私たちの合言葉は「We sell happy!」。会社の規模が大きくなっていっても、この基本方針を変わらず保ち続けられれば、Mendocino Farm はこれからも成長していけると信じています。

 来月、日米協会主催のWomen’s Leadership Countsでパネリストとして、起業をテーマにお話させていただきます。ビジネスパーソンとして、女性として、仕事と家庭のバランスを取りながら、一歩一歩前進している最中ですが、これ からのアジア系コミュニティー、そしてアメリカ全体にとっても、女性の社会進出、女性のリーダー育成 は必須事項だと思っています。私自身が会社と共に成長してきた過程をお話しさせていただいて、少しでもこれからの社会を担う女性リーダーの皆様の参考になればと思います。ぜひ、会場まで足をお運びください。

~信条~

常に最高の自分でいる。そして日々、進化し続ける。

 常に自分の弱点を自覚し、それを克服するために人の意見も受け入れ、ときには批判にもオープンになって、自分自身を進化させられるように意識しています。


Mendocino Farm Co-Founder、Ellen Chenさん

Ellen Chen■1973年2月4日、台北生ま れ。4歳で、父親の仕事の都合で家族と共にアメリカに移住し、北カリフォルニアで育つ。3人姉妹の次女。幼い頃から父親と同じ起業家を目指し、高校卒業後、カリフォル ニア大学サンディエゴ校の経済学部に進 学して学士を取得、大手コンサルティング会社、Accenture PLCに就職。その後、広告会社のSuissa Miller Advertising、IT のスタートアップ企業Target Marketing InteractiveのVPを経て、テリヤキ専門店 Skew'sの経営に加わり、その後、夫であ るMario Del Pero氏と共に、Mendocino Famrsを立ち上げる

会社概要

社名: Mendocino Farm
本社・工場所在地:300 S. Grand Ave. Ste Lp40, Los Angeles, CA
事業内容:サンドイッチショップの経営、運営
売上: 1店舗平均売上330万ドル (現在13店舗)
従業員数: 577名
創立: 2005年
Web: mendocinofarms.com


2016年10月号掲載

Ellen Chenさんが登壇 Women's Leadership Counts 働く女性のリーダーシップ向上

日 時: 2016年11月1日(火)
   3:00pm 開場
   3:30pm〜6:00pm カンファレンス
   6:00pm〜7:00pm レセプション
会 場: InterContinental Los Angeles Century City
   2151 Avenue of the Stars Los Angeles
参加費: 会員 45ドル / 非会員 55ドル
主 催: 日米協会

 「Women's Leadership Counts Initiative(WLCI)」は日米両国でビジネスに携わる女性が、能力開発とリーダーシップ向上に取り組むプラットフォーム提供のために企画されました。 エレン・チェン氏をはじめ、SAP Japan常務執行役員人事本部長のアキレス美知子氏、イーウーマン創業者の佐々木かをり氏、Venture Partner 創業者のケリー・トランバー氏が登壇。『ダイバシティーがイノベーションを生む〜起業家精神とリーダーシップ』をテーマに、革新的なコンセプトの構築やリーダーシップについて共有されます。

詳細・お申し込みはウェブサイトwww.jas-social.org/Women
電話 310-965-9050 内線 105